桓温46 天衣無縫の博才 

桓温かんおんさまが若年であった頃、

桓家は没落し、とても貧乏であった。


博打に手を出してみれば大負け、

胴元からの督促が苛烈なものとなる。

どうにかしたいと思ったが、

無い袖は振れない。


遂に桓温さま、袁耽えんしんに助けを求めた。


袁耽と言えばあらゆる方面に

その才を発揮している超人。

とは言えこの時喪に服していたので、

桓温さま、袁耽に断られるのでは、と

ひやひやしていた。


が、実際に頼んでみれば、あっさり承諾。

しかも嫌な顔一つしない。

言うだけ言ってみるもんだ。


喪服を脱ぎ、喪中の帽子も懐に。

桓温さまに連れられ、

胴元のところにやってくる。


袁耽を前に、胴元は言う。


「へっへ、俺に勝ちたきゃ

 袁耽でも連れて来いってんだ」


しむらー逃げてー!


さて勝負がはじまりゃ、当の袁耽さん、

その博才を思う存分に発揮する。

元手の十万銭があっという間に数百万銭。


金代わりのチップをぶちまけつつ、

「おらあ、どうじゃボケぇ!」

とイキるイキる。


ばっ、バカな、袁耽と言えば

今喪中じゃなかったのかよ、

ビビる胴元に、袁耽、懐から

喪帽を取り出し、投げつけた。


「おい、袁耽の博打がどんなもんか、

 骨身に染みたか?」




桓宣武少、家貧、戲大輸、債主敦求甚切。思自振之方、莫知所出。陳郡袁躭、俊邁多能。宣武欲求救於躭。躭時居艱、恐致疑、試以告焉。應聲便許、略無嫌吝。遂變服懷布帽、隨溫去、與債主戲。躭素有蓺名、債主就局曰:「汝故當不辦作袁彥道邪?」遂共戲、十萬一擲、直上百萬。數投馬絕叫、傍若無人。探布帽擲對人曰:「汝竟識袁彥道不?」


桓宣武の少きに、家は貧し。戲せるに大いに輸け、債主の敦求せること甚だ切なり。自ら振うの方を思えど、出ずる所を知る莫し。陳郡の袁躭は俊邁にして多能、宣武は躭に救いを求めんと欲す。躭は時に艱に居り、疑を致さんとを恐る。試みに以て告ぐれば、聲に應じて便ち許し、略ぼ嫌吝せる無し。遂に服を變え布帽を懷き、溫に隨って去き、債主と戲す。躭は素より蓺に名有り。債主は局に就きて曰く「汝、故より當に袁彥道を作さるを辦ぜざらんか?」と。遂に共に戲し、十萬を一擲にして直ちに百萬數に上る。馬を投じて絕叫せるに、傍らに人無きが若し。布帽を探りて對せる人に擲ちて曰く「汝、竟には袁彥道を識れるや不や?」と。


(任誕34)




袁耽

だいぶ太く短い人生を生きた人。享年25。蘇峻そしゅんの乱でもなかなかにいぶし銀の活躍をしている。このひと長生きしてたら、北伐の統括者として名が挙がってたかもなあ。

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