桓温21 王珣さんと馬  

王珣おうしゅん桓温かんおんさまの

書記官の一人として登用された。


さて王珣といえば、泣く子も黙る

琅邪ろうや王氏の御曹司。

その存在は、そりゃあもう、

宮中でも際立つわけである。


桓温さま、王珣を引き立てたいと思った。

何せかれの存在は、ご自身の府にとり、

これ以上ない宣伝塔である。


だがそんな王珣、

初めて桓温さまと会った時、

挨拶の作法をトチってしまった。

とは言えトチったことに、

全く動揺はしなかったのだが。


あらあらうふふ、

琅邪の御曹司とは言っても、

小僧っ子じゃこの程度かしらね、

桓温さまの周囲は露骨に嘲笑。


「何をいっとんのだ、

 その程度とやらの人間が、

 こうも平然とできるわけもなかろう。

 まぁ見ていろ、

 この俺様が試してやる」


さて、月例の朝礼でのこと。

桓温さまの部下がみんな揃っていて、

もちろんそこには王珣もいる。


桓温さま、そこに馬を突っ込ませる!

みんなそりゃ慌てふためく。


が、王珣。ひとり平然。


この一件で王珣の名望は

一気に跳ね上がった。


「王珣こそ、桓温さまを支えるに

 相応しい器だ」


と、周囲は見解を改めるのだった。




王東亭為桓宣武主簿。既承藉、有美譽。公甚欲其人地為一府之望、初見謝失儀、而神色自若。坐上賓客即相貶笑。公曰:「不然。觀其情貌、必自不凡。吾當試之後。」因月朝閣下伏。公於內、走馬直出突之。左右皆宕仆、而王不動。名價於是大重。咸云:「是公輔器也。」


王東亭は桓宣武の主簿と為る。既にして藉を承け、美譽有り。公は甚だ其の人地を一なる府の望に為さんと欲す。初にして見謝せるに、儀の失せるも、神色自若たり。坐上の賓客は即ち相い貶し笑う。公は曰く「然らず。其の情貌を觀るに、必ずや自ら凡ならず。吾れ當に之を試さんとす」と。後に月朝に因りて、閣下に伏す。公は內より馬を走らせ、直ちに出でて之を突く。左右は皆な宕仆せるも、王は動かず。名の價、是れに於いて大いに重んぜらる。咸なは云えらく「是れ公の輔なる器なり」と。


(雅量39)




どこの王戎おうじゅうだお前(曹叡1)。

さすが親戚。

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