桓温9 北征賦
いちどは
だが
再び旧都は蛮族の手に落ちた。
これを奪還せんと桓温さま、
改めて北伐の軍を立ち上げる。
この軍に帯同した
桓温さまの出征に際し、
その決意を称賛する散文詩を書いた。
その第一連は、以下のとおりである。
聞所聞於相傳 云獲麟於此野
誕靈物以瑞德 奚授體於虞者
悲尼父之慟泣 似實慟而非假
豈一物之足傷 實致傷於天下
聞くところによれば、昔、
霊獣
霊獣は瑞祥そのものでありながら、
何ゆえ猟師などに捕われたのか。
このことを孔子は深く嘆き悲しんだ。
この悲しみは、深淵なるものである。
瑞祥が匹夫などに捕われてしまう、
それほどにまで、天下の徳が
衰微してしまった、と嘆いたのだ。
これを読んで、桓温さまはおろか、
他の文人たちも感嘆の声を上げた。
そこに、
「なるほど、素晴らしい出来栄えです。
しかし惜しいかな、少々甘い。
次の連との接続を考えれば、
そうですね、例えば写の字で
韻を踏んだ一句があれば、
より良いものに
なるのではないでしょうか」
そこで袁宏は筆を執り、
その場で次の一句を加えた。
感不絕於余心 溯流風而獨寫
孔子の嘆きは、中原の荒れようを
目の当たりとした我が心にも
強く突き付けられてくる。
その深き悲しみを、
また文字に写さずにおれない。
この加えられた一句を見て、
桓温さまは王珣に語る。
「まさか、即対応してしまうとはな。
袁宏のこの文才、
中央に推挙せぬわけにもおくまいよ」
桓宣武命袁彥伯作北征賦。既成、公與時賢共看、咸嗟嘆之。時王珣在坐、云:「恨少一句。得寫字足韻當佳。」袁即於坐攬筆、益云:「感不絕於余心、泝流風而獨寫。」公謂王曰:「當今、不得不以此事推袁。」
桓宣武は袁彥伯に命じ北征賦を作せしむ。既に成らば、公と時賢は共に看、咸な之に嗟嘆す。時に王珣は坐に在りて云く「恨むらくは、一句の少なきなり。寫の字を得て韻を足さば、當に佳ならん」と。袁は即ち坐にて筆を攬り、益して云えらく「感は余が心に絕えず、流風は泝りて獨り寫す」と。公は王に謂いて曰く「當に今、此の事を以て袁を推さざるを得べからざるなり」と。
(文學92)
大飯喰らいの肥満牛ってブッ叩いときながら、ちょっと手のひら返し過ぎじゃないですかね桓温さま(※曹操12)……まぁ、あっちが前でこっちがあと、って言うなら、一応筋は通ってくるのかな。
能書きだけのデブだと思ったら実は文才もすさまじかったです、てきな。でも「北征賦」なんてシロモン、出発くらいの段階で書かれるもんだと思うしなぁ。うーん、どうなんだろ。
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