王導19 几案の間の事  

王導おうどうさまの部下が、

更にその部下の不正などを

洗い出そうとした。


そこに王導さまが言う。


「貴方と共に働いていたいのだよ。


 あまり無闇に人のことを

 疑い過ぎないように

 してくれないものかな」



さて、このエピソードには前日譚がある。

王導さまが揚州刺史だった頃のことである。


刺史とは、州内にある郡の長官を

監督する立場にある。

そこで王導さまも、八人の部下を派遣、

それぞれに郡の政務の視察をさせた。


この時、顧和こわはこの八人の末席にいた。

視察任務を終え、揚州府に戻ってみれば、

偶然他の視察員の帰還と同タイミング。


各視察官が、それぞれの郡の

政務について報告をする。

やがて顧和の番になったが、

顧和は押し黙っていた。


「其方は、何も聞き及んだところが

 無い、とでも申すのか?」


そう王導さまが訪ねると、答える。


「王導さまは、

 陛下の補佐役であらせられます。


 であるならば、本来取り締まるべきは

 網などでは到底捕まえようのない、

 船をすら丸呑みするほどの魚の如き

 巨悪でありましょう。


 にもかかわらず、今は

 せこせこと風聞をお集めになり、

 徒に人びとを

 締め上げようとなさっておいで。


 いったいこれは、

 どうしたわけでありましょうか?」


これを聞き、王導さま、はっとなる。

そして顧和の発言は

良きものである、と激賞した。


一方で、他の視察官たちは、

何も考えずに報告を上げていたことに

恥じ入るのだった。




王丞相主簿欲檢校帳下:公語主簿:「欲與主簿周旋。無為知人几案間事。」

王丞相が主簿は帳下の檢校を欲す。公は主簿に語るらく「主簿と周旋せんと欲す。人が几案の間の事を知るを為す無かれ」と。

(雅量14)


王丞相為揚州,遣八部從事之職。顧和時為下傳還,同時俱見。諸從事各奏二千石官長得失,至和獨無言。王問顧曰:「卿何所聞?」答曰:「明公作輔,寧使網漏吞舟,何緣采聽風聞,以為察察之政?」丞相咨嗟稱佳,諸從事自視缺然也。

王丞相の揚州たるに、八部の從事をして職に之かしむ。顧和は時にして下傳たれば、還ぜる時を同じうし、俱に見ゆ。諸從事は各おの二千石官の長の得失を奏ず。和に至れるも、獨り言無し。王は顧に問うて曰く「卿は何をか聞く所ならんか?」と。答えて曰く「明公は輔を作す。寧ろ網をして吞舟を漏せしむるも、何に緣りてか風聞を采りて聽き、以て察察の政を為さんか?」と。丞相は咨嗟して佳なりと稱す。諸從事は自ら視、缺然たり。

(規箴15)




後にも顧和は出てくるんですが、なんつーか、こいつサボってただけなんじゃねえの感がですね……出仕せずシラミ取ってるよーなやつだし。後にその話も出てきます。まぁ呉郡顧氏、名族中の名族ではあるんですが、微妙に王徽之みがね……。

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