李勢3  亡国の貴婦人  

桓温かんおんさま、しょく平定ののち、

蜀の末代王、李勢りせいの妹を妾として寵愛した。

どれくらいかというと、いつも書斎の後ろに

待機させるほどのレベルである。


さて桓温さまの妻にして、

明帝めいていさまの娘御であらせられる司馬興男しばこうなん

はじめ李氏の存在を全く知らなかった。


が、ひょんなことから

その存在を知り、激怒。

十数名の侍女を連れて剣を持ち、

李氏に迫る!


この時、李氏は身支度を整えていた。

豊かな髪の毛は地にまで届き、

未だ化粧の施されぬ地肌すらもが

宝石の如き輝き。


司馬興男の一団が押しかけてきても、

特に動揺した様子もない。

それどころか、


「私の家族は既に、

 故郷とともに滅びました。

 ここにおります私は

 抜け殻にございます。


 今日この日、

 殺されるというのであれば、

 それもまた本懐にございます」


その粛然とした態度に、

司馬興男は恥じ入り、退出した。




桓宣武平蜀,以李勢妹為妾,甚有寵,常著齋後。主始不知,既聞,與數十婢拔白刃襲之。正值李梳頭,髮委藉地,膚色玉曜,不為動容。徐曰:「國破家亡,無心至此。今日若能見殺,乃是本懷。」主慚而退。


桓宣武の蜀を平せるに、李勢の妹を以て妾と為し、甚だ寵有り。常に齋後に著く。主は始め知らず。既にして聞くれば、數十の婢と白刃を拔きて之を襲う。正に李の頭を梳くに值い、髮は委れて地に藉ち、膚色は玉曜、動容を為さず。徐に曰く「國破れて家亡び、此に至りて心無し。今日、若し殺さるるに見ゆる能わば、乃ち是れ本懷なり」と。主は慚じて退く。


(賢媛21)




司馬興男

ノータイムでこれを紹介します。

https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=47950068

この漫画読んで桓温さま好きにならんやつおらんやろ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る