簡文27 惠帝之流清談差勝

簡文かんぶんさま、田んぼを見た。

だが、なんでこんなものが

植わっているのかがわからない。


「これは、何なのだ?」


側仕えは答える。


「稲でございます」


これを聞き、

簡文さま、ショックを受ける。

三日ほど引き籠った。


「普段より我が滋養となっていたものが、

 何から収穫されていたかも

 知らなんだとは!」



さて、このエピソードは

巡り巡ったようである。


ある時王坦之おうたんし范啓はんけい

簡文さまに呼び出された。


王坦之のほうが若いが、位は上。

范啓のほうが年上だが、位は下。


なので謁見の間に入ろうとした時、

二人はお互いに前を譲り合う。


どっかで見たことある光景だな。


結局范啓、王坦之の順で

入ることになった。


ここで、王坦之が范啓に向けて言う。


「われらを精米しよう。

 そうしたら、ほれ、

 糠やしなびた米が

 浮かび上がりよったわ」


すると、范啓も応じるのだ。


「白米を取り出そう。

 そうすれば、ほれ、

 あとには砂や砂利が

 取り残されるのみよ」




簡文見田稻不識、問:「是何草?」左右答:「是稻。」簡文還三日不出、云:「寧有賴其末而不識其本!」

簡文は田の稻を見るも識らず、問うらく「是は何れの草か?」と。左右は答うるらく「是れ稻なり」と。簡文は還りて三日出でず。云えらく「寧んぞ其の末を賴るに、其の本を識らざる有らんか!」と。

(尤悔15)


王文度、范榮期俱為簡文所要。范年大而位小、王年小而位大、將前更相推在前。既移久、王遂在范後。王因謂曰:「簸之揚之、穅秕在前。」范曰:「洮之汰之、沙礫在後。」

王文度と范榮期は俱に簡文に要わる所と為る。范は年大なれど位小なり。王は年小なれど位大なり。將に前まんとせば、更ごもに相推して前に在らしめんとす。既にして移ろう久しうし、王は遂に范が後に在す。王は因りて謂いて曰く「之を簸い之を揚ぐれば、穅秕は前に在り」と。范は曰く「之を洮い之を汰ばば、沙礫は後ろに在り」と。

(排調46)




范啓

結構なエリート家系で、それなりに累進したようではある。


ちなみに後段は孫綽そんしゃく習鑿齒しゅうさくし、言ってみれば当時のトップ文人の、ちょっとした口ケンカが元ネタなのだが、それを敢えて(簡文4)編入している。これ相当な悪意あるぞ。


最初後段だけで見た時に全く意味わかんなかったんですけど(世説新語を順番に読むと、後段のほうが先に来る)、そこに前段(言ってみれば簡文帝を「機転の利く恵帝司馬衷しばちゅう」として扱っている)が加わると、たちまちにすさまじいエグみになってまいりますねー。これ、ここまで世説新語読んできた中でも断トツの「編者の」腹黒さだわ。最悪最低マーベラス。


なおタイトルは、晋書に残る謝安しゃあんさまの簡文帝評です。「清談ができる分わずかに恵帝よりマシ」って評価。謝安アゲの為に簡文サゲが思いっきり働いてるんですなー。

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