元帝6  長安日辺    

明帝めいてい司馬紹しばしょうが数歳の頃のお話。


元帝げんていが、明帝を膝に載せたまま

長安ちょうあんからやってきた人に

面会したことがあった。


元帝は中原の様子を聞くと、

はらはらと涙を流し始める。


これを不思議に思ったのが明帝である。


「どうして、ないておられますか?」


その問いに、元帝は答えた。

元々中原に住んでいた我々が、

何故、この江南の地に逃れてきたのかを。


そして元帝、ふと明帝に問いかけた。


「紹や。長安とお日様では、

 どちらが遠いと思う?」


「お日さまです。

 お日さまからひとがきた、

 とはきいたことがありません。

 ここにいてもわかります」


この明帝の答えに、元帝、ほほうと唸る。


さて翌日。親バカの元帝さま、

昨日のあの名回答を群臣にも聞かせたい。

そこで宴会で、再度明帝に同じ質問をした。


「お日さまのほうがちかいです」


「ファッ!?」


めっちゃキョドる元帝さま、

なんでお前、昨日と違うこと言うんだよう、

と半べそ状態である。


すると明帝は言うのだ。


「そらをみあげれば、お日さまはみえます。

 けれども、長安はみえません」




晉明帝數歲,坐元帝厀上。有人從長安來,元帝問洛下消息,潸然流涕。明帝問何以致泣?具以東渡意告之。因問明帝:「汝意謂長安何如日遠?」答曰:「日遠。不聞人從日邊來,居然可知。」元帝異之。明日集羣臣宴會,告以此意,更重問之。乃答曰:「日近。」元帝失色,曰:「爾何故異昨日之言邪?」答曰:「舉目見日,不見長安。」


晉の明帝の數歲なるに、元帝が厀の上に坐す。長安より來たれる人有り、元帝は洛下の消息を問い、潸然として流涕す。明帝は何をか以て泣くを致せるかを問う。具さに東渡の意を以て之に告ぐ。因りては明帝に問うらく:「汝が意に謂えらく、長安は日の遠きに何如?」と。答えて曰く:「日が遠し。人の日邊より來たるは聞かざれば、居然として知りたるべし」と。元帝は之を異とす。明くる日に羣臣を集め宴會せるに、此の意を以て告げ、更には重ねて之を問う。乃ち答えて曰く:「日が近し」と。元帝は色を失いて曰く:「爾は何が故にて昨日の言に異なれるや?」と。答えて曰く:「目を舉ぐれば日は見えど、長安は見えず」と。


(夙惠3)




太陽ほど遠くはない場所だから、いつかは戻れますよ、と言う親への配慮。そして群臣の前では、「皇帝と言う太陽がここにいるのだから、昔の都長安なぞはるか彼方なのですよ」と言う皇帝への称揚。と言う感じにも読めそうですね。


ざっと検索してみた感じ、明確な答えは示されてない。つーか、よくみんなこの辺踏み込まずに「明帝は賢い」って納得できるな。

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