武帝22 賜わりたる香の尾

イケメン韓寿かんじゅのことを、

賈充かじゅうさんは気に入り、属官にする。


賈充さんが何らかの会合を開けば、

そこには常に韓寿の姿がある。

賈充の娘の賈午かご、家の奥から

ちょくちょく韓寿の姿を認めては、


「あらやだあのイケメン! カッコイイ!

 抱いてくれないかしら!」


とか言い出すし、しかもポエみ始める。

これは重症だと思った侍女、

仕方ないと腰を上げる。

韓寿の家に出向き、

賈午のこの様子を伝えた。


「あ、ちなみに我が主は絶世の美女です」


侍女さんナイスアシスト。

これによって韓寿、

ぜひ賈午に会いたいと侍女に頼み込む。


そして韓寿、即アクション起こした。

ある夜、その並外れた身体能力を活かして

賈充の家の塀を乗り越え、

家中の誰にも気付かせないままで、

見事賈午を召し上がってしまったのだ。

そしてそこには、

恐らく侍女の手引きもあった。


さて、そんなことがあったとは

露ほども知らぬ賈充さん。

とは言え、娘がなんか日ごとに

きらきらしてくし、うきうきもしてる。

何かがあった、それだけはわかるのだが。


一方、属官たちを集めた時のこと。

韓寿から、嗅ぎ慣れた香りが漂ってきた。

その香りは外国からの貢ぎ物で、

一回つけば、ひと月は抜けないほどである。


しかもそれ、武帝さまから

賈充と陳騫ちんけんにのみ下賜されたもので、

他の者が持てるようなものではない。


という事は……あれ、もしかして。

韓寿がうちに忍び込んでる、

=賈午と密通したってこと?


とはいえ塀は厳重、門の周りの警護も万全。

どうやって忍び込まれたか、

とんと見当がつかない。


なので「泥棒が入ったかもしれない」

という事にして、家の外周を点検させた。

するとただ一箇所、東北の角にだけ

何者かが忍び込んだらしい形跡がある、

とのことだった。

だがそこの塀は非常に高く、

人が乗り越えられるとは到底思えない。


賈充、韓寿の身体能力は承知している。

なので、それさえわかればいい。

賈午の侍女を捕まえ、問いただす。


まぁそりゃばれますよね、

と侍女、すぐに白状した。


うーんこの。

密通されたというのもアレだし、

賈充さん、このことは内密にさせる。

そして賈午と韓寿を結婚させるのだった。




韓壽美姿容、賈充辟以為掾。充每聚會、賈女於青璅中看、見壽、說之。恆懷存想、發於吟詠。後婢往壽家、具述如此、并言女光麗。壽聞之心動、遂請婢潛修音問。及期往宿。壽蹻捷絕人、踰牆而入、家中莫知。自是充覺女盛自拂拭、說暢有異於常。後會諸吏、聞壽有奇香之氣、是外國所貢、一著人、則歷月不歇。充計武帝唯賜己及陳騫、餘家無此香、疑壽與女通、而垣牆重密、門閤急峻、何由得爾?乃託言有盜、令人修牆。使反曰:「其餘無異、唯東北角如有人跡。而牆高、非人所踰。」充乃取女左右婢考問、即以狀對。充秘之、以女妻壽。


韓壽の美しき姿容なるに、賈充は辟きて以て掾と為す。充の聚會の每、賈が女は青璅の中より看るに、壽を見、之に說ぶ。恆に想いの存せるを懷き、吟詠に發す。後に婢の壽が家に往けるに、具さに此の如きを述べ、并せて女の光麗なるを言う。壽は之を聞きて心動き、遂には婢に潛かに音問を修むを請う。期に及び往き宿る。壽の蹻捷なること人を絕し、牆を踰えて入るも、家中に知れる莫し。是より充は女の盛んに自ら拂拭し、說暢の常に異なる有るを覺ゆ。後に諸吏に會せば、壽に奇香の氣有せるを聞き、是れ外國の貢ぎたる所にして、一たび人に著かば、則ち月を歷せど歇まず。充の計るに武帝の唯だ己及び陳騫にのみ賜り、餘家に此の香の無くらば、壽と女が通ぜるを疑うも、垣牆は重密、門閤は急峻なれば、何に由りてか爾れるを得んか。乃ち盜有りなる言に託ち、人に牆を修さしむ。反らしむるに曰く:「其の餘に異は無かりせど、唯だ東北の角に人跡の如き有り。而して牆は高く、人が踰ゆる所に非ず」と。充は乃ち女の左右の婢を取りて考問せるに、即ち狀を以て對う。充は之を秘し、女を以て壽に妻す。


(惑溺5)




韓寿

賈南風の補佐役である賈謐の父親。つまり賈謐、元々は韓謐。養子入りしたのだ。ともあれ韓寿本人はイケメンとしかわからない。あと注では、実は陳騫の娘と密通してたんじゃね? とかも書かれてて、そしたら武帝の覚えめでたい重臣二人の娘寝取ってることになり、最高にロックしてて面白い。

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