武帝20 お茶と酒
幼いころから神童として知られ、
百二十人の少年の中に選ばれたこともある。
そこに選ばれる人間は、
当然その時代を代表する神童たちだ。
さて
よって武帝の棺桶を牽くこの百二十人から、
婿候補を四人ピックアップした。
そして任瞻、王戎さんが選んだ
百二十人のうちのトップ四にさえ
選ばれるほどだった。
これほど才能も、外見も備えた美男子、
それがこの任瞻。
が、
東晋に逃れたあとはヤバい。
すっかり魂が抜け去っていた。
あの任瞻が
迎えに出た。
建康城の北西に位置する、
守りの要、
任瞻が席についたところに、
侍従が酒をもってきた。
するとそれを見て任瞻は言う。
「これは茶ですか、茗ですか?」
え、どう見ても酒でしょ?
何言ってんだ、とばかりの空気になった。
それに気づいた任瞻、慌てて言い繕う。
「い、いや、違うのです!
酒が熱いか、冷たいか、
と聞こうとしたのです!」
ぼーっとして酒と茶を見間違えたのは
まちがいのないことだ。
いったい任瞻、どうしてしまったんだ。
また後日、こんなことがあった。
棺を収める屋敷の前を通りがかった時、
突然任瞻は悲しそうに
泣き出した、というのだ。
王導はこれを聞き、言う。
「あれはもう駄目だな」
任育長年少時、甚有令名。武帝崩、選百二十挽郎、一時之秀彥、育長亦在其中。王安豐選女壻、從挽郎搜其勝者、且擇取四人、任猶在其中。童少時神明可愛、時人謂育長影亦好。自過江、便失志。王丞相請先度時賢共至石頭迎之、猶作疇日相待、一見便覺有異。坐席竟、下飲、便問人云:「此為茶?為茗?」覺有異色、乃自申明云:「向問飲為熱、為冷耳。」嘗行從棺邸下度、流涕悲哀。王丞相聞之曰:「此是有情癡。」
任育長は年少なる時、甚だ令名有り。武帝の崩ぜるに、百二十の挽郎の選ばるるは、一時の秀彥にして、育長も亦た其の中に在り。王安豐の女が壻を選ぶに、挽郎より其の勝れたる者を搜すれば、且つ擇び取りたる四人に、任は猶お其の中に在り。童少の時に神明可愛、時の人は育長の影も亦た好しと謂う。江を過ぎりてより、便ち志を失う。王丞相は先に度れたる時の賢と共に石頭に至りて之を迎うるを請い、猶お疇日の相い待せるを作さば、一見にして便い異の有りたるを覺ゆ。席に坐し竟えるに、飲を下し、便ち人に問うて云えらく:「此は茶なるか? 茗なるか?」と。異色の有るを覺え、乃ち自ら申明して云えらく:「向に問いたるは飲の熱きなるか、冷たきなるかのみ」と。嘗て行きて棺邸が下に度れるに従い、流涕せるに悲哀なり。王丞相は之を聞きて曰く:「此れ是の情に癡有り」と。
(紕漏4)
任瞻
このエピソード通りの人、というかこのエピソード以外ろくに記録が残っていない。士大夫層にとって、中原喪失がどれほどショックあったかをうかがわせるエピソードとして、これ、割と重要かもしれないですわね。
ちなみに言い繕いについてだが、これ中古音にしてみると分かりやすい。
此為茶為茗
méŋ
飲為熱為冷
léŋ
要はこんなところで韻文を決めてきているわけである。まぁそれにしてもやっぱり任瞻の言い訳苦しいよな!
あと新茶を茶、古茶を茗って呼び分けるんですって。これは日本のお茶のサイトの情報。
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