武帝2  「一」を得る  

武帝さま、遂に帝位に就く!


そこでこの国の命運を占ってみた。

結果は「一」。


みんなドン引きである。

この占い、皇帝が何代続くか、

の結果として見られている。

という事は……。


もう武帝さまちょう不機嫌になるし、

誰もフォローできない。


そんな中、すっと裴楷はいかいが進み出た。


「臣めは老子ろうしの言葉の現出である、

 そう愚考致しました。すなわち、


 天が一を得る、とは曇りなき青空の事。

 地が一を得る、とは限りなき地平の事。

 そして、

 王が一を得る、とは偏りなき天下の事。


 これが、占いの結果でありましょう」


武帝さま、裴楷のこの機転に大喜び。

みんなも感心した。




晉武帝始登阼,探策得「一」。王者世數,繫此多少。帝既不說,群臣失色,莫能有言者。侍中裴楷進曰:「臣聞:『天得一以清,地得一以寧,侯王得一以為天下貞。』」帝說。群臣嘆服。


晉の武帝の始めて阼に登るに、策を探らば「一」を得る。王者が世數は、此の多少に繫る。帝は既に說ばず、群臣は色を失い、言を能くせる者莫し。侍中の裴楷は進みて曰く:「臣は聞く。天は一を得て以て清む、地は一を得て以て寧らかなる、侯王は一を得て以て天下の貞らかと為れり、と」と。帝は說ぶ。群臣は嘆服す。


(言語19)




老子の言葉

「昔之得一者,天得一以清,地得一以寧,神得一以靈,谷得一以盈,萬物得一以生,侯王得一以為天下貞。」道徳経どうとくきょう第三十九章。なお老子において「一」は、大雑把に言ってしまうとこの世の根源原理、と説かれている。つまり裴楷は「一」と言う占いの結果を、通常の解釈から捻じ曲げて言い切ったのだ。司馬炎登極の際にはまだも健在だったし、うまいこと言ったもんだよなーと言う感じではある。


で、ちょっと補足。東西両晋時代には「清談」、いわゆる哲学談議の上手さがステータスとなっていた。この時の議論ベースは老荘の思想に関する解釈である。なので論語や老荘は、結構この時代の慣用句的にもりもり使われる。

老荘思想は単純に沼みたいな深さがあって面白いんだけど、一方では屁理屈のオンパレード(特に荘子そうじ)なので、そう言う意味でも面白い。

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