鍾会8  シャイな鍾会さん

鍾会しょうかいはちょう頭がいい。

けど嵆康けいこうと言う、更に頭のいい奴のことは

よく知らないでいた。


あるとき頭いい奴らを引き連れて

嵆康の家に押しかける。

何やってんだこいつ。


こんな無礼な押しかけ方するよーな奴を

相手にする嵆康でもない。

同じ竹林七賢ちくりんしちけん向秀しょうしゅうと一緒に、

鍛冶仕事に精を出す。

嵆康が叩き、向秀がふいごを踏む。

鍾会一派のことなど知らん顔。


押しかけた手前、

向こうから対応させないと負けだ。

鍾会は黙って嵆康の側で突っ立ってた。

が、やがて根負けし、帰ろうとした。


そこで初めて嵆康、口を開く。


「お前、なんで来たの?

 つーかなんか得るものあったわけ?」


完全に dis りモードだ。

しかしそこは我らが鍾会さん、負けない。


「ここに待機する用事があっただけだ。

 もう用は済んだ、だから帰る。

 何かおかしいか?」


いやおかしいだろ。




鍾士季精有才理,先不識嵇康。鍾要于時賢雋之士,俱往尋康。康方大樹下鍛,向子期為佐鼓排。康揚槌不輟,傍若無人,移時不交一言。鍾起去,康曰:「何所聞而來?何所見而去?」鍾曰:「聞所聞而來,見所見而去。」


鍾士季が精に才理有れど、先は嵇康を識らず。鍾の時の賢雋の士を要えんとせるに、俱に往きて康を尋ぬ。康は方に大樹の下にて鍛ず。向子期は鼓排の佐けを為す。康は槌を揚げては輟めず、傍に人無きが若くし、時が移ろいても一言も交わさず。鍾の起ちて去らんとせるに、康は曰く:「何をか聞く所とて來たらんか? 何をか見た所とて去らんか?」と。鍾は曰く:「聞けるを聞く所とて來たれば、見れるを見る所として去らん」と。


(簡傲3)




向秀

竹林七賢のうち、晩年に出仕したから他の人たちよりグレードが落ちる、って扱われてる人。いやけど何人か三公いるじゃないすか竹林七賢。それにしてもこんなガキの喧嘩キメといて嵆康サマに四本論しほんろん提出しようとするとか、ちょっとキャラ崩壊著しいって劉義慶りゅうぎけいさん思わなかったんですかね。まぁ面白いからいいんですけど。


原文のやりとりの組立が面白いわけですけど、敢えて超訳。こういうのできるのも原文併記の強みですね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る