曹操2  化物じみた鑑識眼

曹操そうそうは若い頃に、

人物鑑定で知られる喬玄きょうげんと出会っていた。


曹操を見るなり、喬玄が言った。


「誰も彼もが

 好き勝手に暴れようとしておるが、

 奴ばらをねじ伏するるは、

 およそ、君を措いてはおるまい。


 とはいえ君は乱世では英雄だが、

 平和な今には鼻つまみ者であろう。


 あぁ、既に年老いておるのが恨めしい。

 わしは、君が栄達するのを

 見届けられぬのだろう。


 どうかわしの子孫のこと、

 お頼み申し上げる」



 

曹公少時見喬玄,玄謂曰:「天下方亂,群雄虎爭,撥而理之,非君乎?然君實亂世之英雄,治世之姦賊。恨吾老矣,不見君富貴,當以子孫相累。」


曹公は少き時に喬玄に見ゆ。玄は謂いて曰く:「天下は方に亂れ、群雄が虎のごとく爭わんとせるも、撥して之を理むは、君にあらざらんか? 然れど君は實に亂世の英雄にして、治世の姦賊なり。恨むらくは、吾れの老いたるか。君の富貴なるは見えず、當に子孫を以て相い累ぬべし。」

(識鑒1)




喬玄

後漢ごかん尚書令しょうしょれいにまで上り詰めている。尚書令って、皇帝専属の秘書のリーダーみたいなもんだ。そう言う人が、まだ二十歳にもなってない曹操のことを見て慨嘆してる。ヤバい。それにしても、この下りに「この少年が、のちに魏武ぎぶ(魏高祖武帝、の略)となる」とかが乗ってこないのが世説新語の面白さであり、また面白がるためのハードルでもある。

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