第4話 懐かしい景色
目の前には現実の風景より若干、違和感のある草原。
VRヘッドディスプレイ越しの人口の映像。簡易に設置された嗅覚と触覚はまだまだリアルに比べるとうそ臭い。そんな非現実のVR空間で俺は一面360度見渡せる草原に一人佇む。
なーんて、気取るが周りには他にもちゃんと人影がある。
だけれどそれは俺がプレイしていたゲーム開始時よりはだいぶ人も減っていた。当たり前だが、イモ洗いのように犇いていた始まりの草原も
ゲーム開始から2年の歳月。だいぶ落ち着いていた。
そしてこの時期に始まりの森でモンスターを狩ろうなんて輩はやはり疎らだ。自分以外の数人が横を駆け抜けて、覚えたてだろう技を繰り出しモンスターにダメージを与える。
大型のアップデートをしたと言っても、その初日じゃない。一週間は過ぎた始まりの森。そしてそのアップデートで新たに追加された新キャラ姿のどこまでも俄かのミーハープレイヤーの俺。レベルは10に満たない。
このまま初クエストからチュートリアルを終わらせれば30近いレベルになる。今はお帰りなさいプレイヤーさま。いらっしゃい新規プレイヤー様のイベントで新キャラに限りかなりのレベル上げのバフがついている。
通常より3倍ほどレベルが上がりやすい何ともお得な始まりの森である。
「あー、なんかこの感じ。このベタなファンタジー感。戻ってきたって感じだな。」
variousは一つのアカウントで4つのキャラを持てる。言うならば4通りの主人公になれる。
最初に作った種族、属性、性別、容姿などである程度プレイして別のものを試したくなったら同じアカウント内にゲームを楽しめる別のキャラを使いえる。
一つのノートパソコンで複数のアカウントを作るに似た感覚で
入った時にまたはログイン内のメニューからキャラを切り替えてプレイできる。
俺はなんとなく昔、遊んだキャラでログインするのではなく新しいキャラを作ってログインした。キャラはもちろん保存も削除も自由に出来るが、一度削除したキャラはもう復活は出来ない。
色々と昔放置したままのキャラにはその時持っていたアイテムやメールも
溜まっているだろうが、キャラを作りたてでまだ何も手をつけてなかった。
ただの久しぶりの、感傷に惹かれての一度っきりのログインで終わるかもしれないのだ。あまり自分の痕跡を残したくなかった。
そしてゲームを去って一年近く経ったアイテムなど最強ではなく凡庸に成り下がって初期キャラには役立つだろうが、それほどこだわるものにも思えなかった。
そのどれもがかつて仲間と苦労して手に入れた一級品であったとしても。
歳月とは無常である。
ゲームの感覚を取り戻すつもりで、近くでエンカウントしたウササモンという最弱モンスターに切りかかる。こいつは弱い。なにせレベル一桁で数度叩けばきゅうっと退治されてしまうウサギなのである。
それを狩るってある意味、人間って怖いよね。
世の無常をなんとなく口にして危なげなくモンスターを倒した。
さすがにここで足止めを食らうことはない。
「すまぬ、うさちゃん」
その後もこのいたいけなモンスターを俺は10匹以上狩ることになる。
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