第4話
「カタナ?」
「そう、カタナ。それがあなたの武器。」
幼い頃の記憶が鮮明に蘇る。
「片側にしか刃が無いよ?」
「そういうものなのよ。ただし…」
そこで女性は僕に笑顔を向けてまた口を開く。
「切れ味だけは保証するわ!」
記憶は飛び、次は雨の日だった。
「カタナ、折ったのか」
声の主は気難しそうな爺さん。
雨に打たれる僕と、根元で折れてしまったカタナを見下ろしている。
「…そいつを貸せ。まだ生きている。」
爺さんはカタナの柄を拾い上げてマジマジと見る。
「こいつは今までのお前の相棒であり、そしてお前の明日からの相棒でもある。
名は______」
そして意識が蘇る。
もはや眼前に広がる瓦礫の山。
落ちながらだとポーチを探るのもままならないらしい。なかなか目的のものは出てこない。
しかしギリギリ間に合ったらしい。
俺は手に掴んだ、それを思っきり振り抜く。
ガァン!!!
轟音を立て、俺は回転しながら地面へ落ちる。
なんとか怪我はないようだ…。
「…ふむ」
顔を上げるとエイレーンがこちらを見下ろしている。
「その手に持ったものは、なんだ?」
俺の手を指差しそう言う。
俺の手には真っ黒い、まるで剣の柄のようなものが握られていた。
「『ソードメモリー』だよ」
「いけしゃあしゃあと…。ただのメモリでは無かろうが!!」
語気を荒くこちらを睨めつけるエイレーン。
それもそのはず。
ソードメモリーはこの国では極一般的な量産型の武器だ。
名刀、妖刀、魔剣と呼ばれる物の長所や特有の力の一部のみを抽出して、持ち主が魔力を流し込んだその時のみその刃の姿を現す、いわばカタナのコピーだ。
ほんの少しの才がある者なら誰でも使用出来る代物だ。
まぁ、もちろん俺のソードメモリーはそんなチャチなものじゃない。
「6年前、とあるカタナがこの世から消えた」
「はぁ?」
脈絡のない俺の話にイラついたのか俺へ向けて水晶の弾幕をぶつけてくる。しかしそれを俺は全てたたき落とす。
「…と言っても、俺が壊しちまっただけだがな。
__同じ日、とあるメモリがこの世に生まれた。」
「……………」
エイレーンは無数の水晶をこちらへ向けている。避けるのはまず、無理だろう。
膝がガクガクする、正直さっさと逃げたい。死にたくない。
「お前さん、さっさと逃げたらどうだ?
そのメモリが普通のものでは無い事は良くわかった。…お前さんが他のものとは違う何かを秘めている事も分かっ」
「…銘は『紅炎』
燃えろ火柱ッッッ!!!!!!!」
俺は数ヶ月ぶりに絶叫した。
エイレーンの言葉を遮った事も気にならない。
瞬間、叫んだ喉がヒリヒリと焼き付く。
視界は白く染まり肌は燃えるように熱くなる。
火柱が消え去るまでたっぷり5分ほど。
出る時も突然だったが消え去る時も突然に。
燃えカスとやけたゴミの匂いだけを残し目の前には灰の山と化した景色が広がっていた。
「え、エイレーン…は…」
普通なら直撃する位置に火柱を出したんだ、死んでもおかしくない…が彼女ならかわせるだろう、と謎の信頼を抱いた結果のこの攻撃だったんだが…もしかして…モロ直撃…?
「くっ…………ゲホッガホッ……………」
咳の音と共に目の前の空間に穴が開く。
そこから出てくるのはエイレーン。
「短い詠唱だから威力はそうでもないと思っておった自身を呪うわ………
なんじゃ今のは…………」
キッ、とこちらを睨むエイレーンだが口は笑っている。
……こっちからしたら(自分で言うのもあれだが)ここまでの威力の、ましてや不意打ちをこんな簡単に躱されたら自信のひとつやふたつ失うもんだ…
「…正直な、お前さんが勇者候補である以上実力がある事は知っておった。
が、イマイチお前さんのヘタレ具合を見るとそれが信用出来なくなってのぅ」
「へ、へたれ…」
「当たり前じゃ!!幼子に畑仕事を命じられノコノコ手伝うやつがおるか!」
「あっ今幼子って言った。やっぱり800歳じゃないん
「揚げ足を取るな!」
セリフを言い終わる前にビタン、と雑巾を顔にぶつけられる。何処から出したそれ…。
「と!に!かく!
お前さんが単なるヘタレじゃないのは分かった。
だからこそ行くとしよう。」
「は?どこに…」
「決まっておるだろう?」
正直もう予想はついてる。
勇者(候補)を見つけてまで目指す場所なんてひとつしかない
「そうだ、魔王を倒しに行こうではないか」
魔王退治は悪霊と共に くらげ @ragi
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