第3話

「こんにちはっ!こんにちはーっ!えへへ…」

「…………何言ってるんだアンタは…」

 今俺は1週間ぶりの街へ訪れている。

 とは言え逃げ出した勇者とバレれば恥だ。勿論顔バレしないように気を遣っている。

「お兄ちゃん早く早くーっ!」

 少し先を先導していたエイレーンだが俺の袖を掴み早く早く、と催促する。

「(顔を隠した怪しい男と幼子がいたら怪しさしか無かろうが…)」

「(なるほど)」

 王宮のあるこの街は言わば国の中心。

 貿易商や旅人は勿論たくさんの貴族達も街道にはちらほら見える。

 勿論俺がつい先日逃げ出した王宮も…。

 王宮を見る度に苦い記憶が蘇る。

 そう言えば何と言ったか、俺以外に勇者候補だった男がいたはずだがそいつは何をしているのだろう。

 そんなことを考えていると足を蹴られる。

「(ボケっとするな!言いたいことは分かるが早く割り切れ!)」

 まぁ、女の子に喝を入れられてるぐらいだ。こんな奴に勇者の座を奪われたなんてあいつはどんな顔をしているだろうか。



「さて、と」

 歩くこと数時間。

 畑からは10kmは離れていたと思う。それくらい歩いた。

 街を抜け、廃墟を進み、どう見ても瓦礫が崩れて撤去されずに放っておかれてるのであろうくず鉄山に俺達はいる。

「エイレーン、もう日も傾き始めてる。何をする気だ?」

「言ったはずだが?」

 言ったはず?一体何のことだ?

 そう言いたかったのだがそれは言葉にすることは叶わなかった。

 なぜなら気付いた時には僕の身体は真上に吹っ飛んでいたからだ。


「タイムリミット、だ。

 お前さんには一先ず死んでもらおうかの」


 遥か下にいるはずのエイレーンの声がまるで耳元で囁かれたように聴こえる。

 これが、魔術師か。

 俺は落下に備えて受け身をとる準備をしようとするが途中でやめる。

 代わりに腰のポーチに手を突っ込み、あるものをまさぐる。

 目の前には瓦礫の山が、死が迫っていた。

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