『エイレーン』

第2話

 ザクッザクッ、と土を耕す。

 土からは喜びのような…

 って、

「なんで俺は畑仕事なんてしてるんだろうなぁ…………」

 俺は道具を置き太陽を恨めしげに見上げる。

 本当なら今頃は勇者として世界各地を跋扈しているはずなのだが…しかし重圧から逃げてしまった僕にそんな大冒険が待っている訳ではなく………

「おいそこの手、早く動かさんか」

「はいはい…」

 と、このように13、14程度の女の子に扱き使われる始末。

「エイレーン、そろそろ俺はここを発ってもいいと思うんだ」

「そうか、私はそう思わん」

 と、俺をここから動かす気は全くないようだ。



 1週間前、か。

 勇者の責務から早々に逃げ出し畑へ辿り着いた俺がこの女の子、エイレーンに捕まった時期は。

 どう見ても14歳程度の見た目なのに「882歳だ」などと嘯いている。


 あの夜、旅の一員に加えてくれ、と頼む彼女へ返事はしなかった。

 と言うより出来なかったのだ。

 彼女があの時発していた重圧は少女のモノではない。そしてその眼には僕如きでは計り知ることすら出来ない何かに満ちていた。

 結局、黙りこくる俺に彼女は

「…よかろう、ならば畑でも耕してゆっくり返事を待とうかの」

 と、微笑んだ。と、同時に俺の意識は途切れてしまっている。

 と言ってもただ寝落ちしただけなようで、バッチリ次の朝からは畑仕事へ駆り出され…そして今に至るわけだ。



「さてと、勇者よ」

 畑と格闘する俺へ声が掛かる。

「お前さんも畑仕事の楽しさを見出してきたところ、申し訳ないがそろそろタイムリミットのようなのでな」

 すると眼前のクワが勝手に持ち上がり用具入れの方へすごい速さで吹っ飛んで行った。

「おっと、そう身構えるな

 何も取って食おうというわけではない…」

 いや、身構えるだろう普通。

 とは言ってみるがこの挙動を見る限り彼女は魔術師やそのへんの類なのだろう。徒手空拳な僕に勝ち目はないだろう。

 …魔術自体使える人間は相当限られているのに詠唱なしでここまでとは。全くもって恐れ入る。

「…何が目的かはわからないけど、俺を利用して出来る事なんて殆ど無いぞ」

「…自分で言ってて恥ずかしくないか?」

 呆れたような、笑っているような彼女の顔に少し安堵する。

 どうやら本当に取って食おうとはしていないらしい。

「まぁ、ただちょっとだけ用事に付き合ってもらうだけだ

 そうさなぁ、即ち…………


 お兄ちゃんっ!一緒にお使いに行こっ?」









「えっノーコメントなのか」

「そりゃ素のアンタを知ってる訳ですし…」

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