魔王退治は悪霊と共に

くらげ

プロローグ

第1話

 街の郊外、私は畑にて土を耕す。

 ザクッザクッ、と土からは喜びのような声。

 この畑は私の唯一の収入源、1日たりとも疎かには出来ないのだ。

 ふと街の方へ耳を傾けると喧騒の気配。

 そう言えば勇者とやらが現れたんだっけ…

 そんな事を思い出しながら私はまた土を耕し始めた。






「勇者様!バンザーイ!」

 と、周囲から歓声が上がる。

 ただ剣を抜いただけで勇者なんぞに担ぎ挙げられ旅を命じられる理不尽さに初めは憤りを感じたものの今はもう半分諦めてしまっている。

 しかしそれでもストレスは拭いきれなかったのだろう、だがそれが原因で俺の運命は思いもよらぬ方向へ変わっていった。





 街の郊外、俺は生まれた家が比較的裕福だった為この辺りには来たことが無かった。

 そんな俺が何故ここに来ているのかというと…、まぁ、ちょっとした家出のようなものだ。

 本当は旅へ行かなければならないのだが残念ながら俺のメンタルはそんな重圧に耐えられなかったらしく足が自然と王宮ではなく逆方向へ向かっていき…そして成り行きで。


 郊外にある畑の近くに腰掛け、息をつく。

 畑を見るとそこは小さいながらもとても整備されている。なるほど、この国の野菜が美味しいのも頷ける。

「…悪いですけど、うちの畑に何か用ですか」

 背後から声がかかり振り向くと、不機嫌そうな顔をした女の子が仁王立ちしていた。

「君の畑?君のお母さんかお父さんは?」

「いません。私の、私1人の畑です」

「そっか、ごめん」

 街には孤児の為の施設も充実していたはずだが…しかしきっと費用や定員、もしくは身分など囁かれないだけで存在する問題もあるんだろうと思い僕はそれ以上言及するのはやめた。

「お兄さん…勇者さんですよね、早い旅立ちなんですね」

 どうやら僕はこんな街の郊外でももう有名なようだ。

「はは…まぁね」

 しかし逃げ出したなんてかっこ悪くて言えず適当に誤魔化す。

「茶菓子は出せませんが、どうぞ、付いてきてください」

 女の子は優しく微笑むと僕を立たせ、手を引いてどこかへ案内してくれる。

 歳は僕より4、5歳くらい下だろうか。

 僕が今18だから14か13くらいということになる。

 そんな子が一人で畑で生活をしているだなんて…。

「着きました。」

 畑の少し先に小さな小屋があった。そこが彼女の家らしい。

 木製のその小屋は作られてから相当古いらしい。ギシギシという音が十分聞こえる上に何度も穴をふさいだ跡がある。

「お、お邪魔します……」

 中へ入るが覚悟していたほど中は汚くなく、むしろ清潔感に溢れていた。

 あの外見からは想像もできな______




 ______目が覚めた。

 手足は縛られていて身動きが取れない。

 もう夜になっているらしい。

「遅かったな」

 声が掛かる。

「そこまで強力な催眠ではないはずだったが、お前さんはこの手の耐性はからっきしらしい」

 誰の声だ…?

 いや、聞き覚え自体はある、というか一人しかいない。しかし余りにも口調が違い過ぎないか?

「ほれ、顔を上げてみい」

 言われるがまま俯いていた顔を上げる。

 目の前にいたのはやはりと言うべきか、昼間の少女。

「なに、がも、くてき…」

 呂律が回らない。伝わってくれただろうか。

「目的ねぇ、ふむ、考えてもみなかった」

 何を馬鹿な、目的も無しに僕はこう縛られてるというのか……

「と、いうのはもちろん冗談でな。先に自己紹介をしておこう」

 そう言うと彼女は立ち上がり、窓辺へ腰掛けこちらを見る。

 僕は畳に横たわるような恰好なので彼女を見上げる状態なのだが窓から射し込む月光の効果で彼女がとても妖艶に見える。月は人を狂わせるなどとよく言ったものだ。


「私の名はエイレーン。882歳だ」


 は?

 と、唖然とする僕を置き去りに彼女は自己紹介を続けようとする。

 しかし次の言葉で僕の運命は、否、世界の命運自体が狂ってしまったのだった。



「私をお前さんの付き人として旅の一員に加えてくれないだろうか」

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