第87話 記憶5

 カラエドから出てオオエドへと、東に向かっている途中。

オオエドとは、首都のキョウトの次に大きな街。

商いの人達や鍛冶職人に、冒険者が拠点にしていたりと、かなり古龍国にとっては重要な街になっているみたい。

そこでは星読みの巫女の神殿等もあり、多くの信者が足繫く通っているそうだとか。

エリナ曰く、その神殿の方が女神様からの声が届きやすいんだと。

キョウトでも神託を聴こうとしたのだけど、聴き取りづらかったようなんだってね。


そして、古龍国の守護龍はオオエドから、北に三週間行った辺りの洞窟にいる。

と、エリナが言っていた。


私達は2つの馬車でオオエドに向かっている。

一つはエリナと私にアレンと、護衛の2人で5人の馬車だ。


もう一つはオオエドまでの荷物を乗せた馬車。

そんなこんなでカラエドから一ヶ月経った辺りで村に着きました。

そこそこ大きな村で規模は200人程度の村だそう。

そこで、村長が大袈裟な態度で、私たちを歓迎してもてなそうとしてきますが、アレンが軽くあしらう。

だけど、村長はそれでも食い下がりません。しまいには土下座をしてきました。


「お話だけでも聴いてみませんか?」


流石に見かねたのかエリナが声を掛ける。

すると、村長は流石巫女様! と大喜び。


「星読みの巫女様が言うんじゃ仕方ない。村長さん。言ってみな」


「ありがとうございます。実は、最近この辺りの墓地から、アンデッドが現れて村の者を攫って行くのです」


「アンデッド……」


アンデッドとは魔物と同様の魔石を持つ魔物。

ただ、進化をする為に魔力を溜め込むというよりは、生物を憎み、その血肉を啜り貪り食うモノといった本能のが強い。


私達は急ぎ旅をしている身。

それなのに、おいそれと寄り道をするのもなんだけど……。

流石に人の命が失われると思うと居ても立っても居られない。


「私達で退治しましょう!」


私は大声で答える。


「おいおい、そんな安請負いしていいのかよ……」


「私も構いません。寧ろ、民の平穏が取り戻せるなら積極的に取り組みましょう」


エリナも同意してくれた。

すると、アレンはやれやれと頭を抱えてしまう。


「はぁ……まぁ、分かった。じゃあ、依頼を受けよう」


「本当ですか!? ありがとうございます! 星読みの巫女様 光の乙女様!」


依頼料の件も言われましたが、断りました。ふふん、お金には困っていませんからね。

だけど、アレンは不服そうです。私に同意してくれるのはエリナだけ。

全く、守るべき民から命を救うのに、お金を貰うなんてご先祖様達が許さないわ。

私のご先祖様は無償で、人助けをしていたのだから当然なの。


「んで、村長さん。アンデッドの正確な情報を教えてくれ。数とかどんな敵なんだとか現れる場所とかさ」


「はい、それはこちらの猟師が説明します」


と、隣の人が前に出てきます。


「私がこの村の猟師の――」


「――ああ、名前は良いから情報だけ教えてくれ」


アレンは猟師さんの名乗りを止めてしまう。全く、せっかちなんだから。


「わかりました。数は30体程で、スケルトンが12体。ゾンビが15体に外套を被った骸骨が3体です。場所はここから3日程徒歩で北に向かった森の墓地にです」


「その外套を被った骸骨に関して、詳しく教えてくれ。もしかして、喋っていたりしなかったか?」


「え? あ、はい! 喋って指示を出しているようでした」


「マジかよ……最悪だな」


更に頭を抱えてしゃがみ込んでしまったアレン。そんな危険な相手なのかな。


「アレン。そのアンデッドはどんな魔物なの?」


「恐らくスケルトンキングが3体だ。冒険者の適正ランクはBランク。それが3体もだ。しかも、スケルトンにゾンビの軍勢ときたもんだ……寧ろ、まだこの村が生き残っているのが不思議なくらいだぜ」


「Bランク……」


Bランクは小さな村が滅ぶ程度の強さ。Aランクは町が滅ぶくらいの強さ。

そんなアンデッドが3体も……。

こうしてはいられない直ぐにでも退治しないと!


「直ぐにでも退治しましょう!」


「待て待て。まずは、準備をしてからだ。それに、今は夕方だ。明日の早朝からその墓地に向かおう」


「ええ、そうですね。急がば回れというもの。しっかりと準備をしてから参りましょう」


エリナはたおやかに微笑んでいる。


「ぶー……分かったわ」


そうして、私達のアンデッド退治が決まったのでした。


アレンは直ぐに、道具屋で買い物をしたり武器の点検等で忙しそう。

私達はエリナと一緒にのんびりと、宿屋で夕食を取っています。

護衛の人は食堂の入り口に2人で立っている。正直、気まずい。


「全く、アレンたら困ってる人からお金を取ろうとするなんて酷いわ」


そうエリナに言ったら、くすくすと笑みをこぼして笑う。


「エリカ。冒険者とは依頼を受け、その対価としてお金を受け取るのよ。今回だって、命を懸けてアンデッドを討伐するんですもの。当たり前の事なのよ」


そう、説得されてしまった。


「でも、ご先祖様は無償で退治をしたりしていたもの。私もご先祖様に恥じないようにしたいのよ。分かるでしょ?」


「その気持ちは立派ですが、それはお金に余裕があるものだからこそ出来る事。ノブレスオブリージュよ。普通の冒険者や一市民には関係ない事なの」


「そっかー……まぁ、私は貴族だけど。アレンはただの冒険者だしなー。そういう考え方の相違って事なのかな」


「そうですよ。だから、どちらも悪いという事ではない。ということは覚えておいてね」


「はーい……」


ウィンクしながらエリナは私に言い聴かせてくる。同性から見た私からでも、しっかりして可愛く見える。

1歳しか年齢が違うけど、エリナは私のお姉ちゃんみたいな態度だ。

まぁ、実際に頼りになるし、私よりしっかりしてるし、魅力的だし……。

ああ! もう、うじうじするのはやめやめ!

明日からはアンデッド討伐に向かうんだからしっかり頭も心も休めないと!


早朝。準備をした私達は出発する。

護衛2人にアレンとエリナと私の5人。

エリナは何が出来るのかと聴いたら4属性の聖級魔法使いらしい。

なので、前衛3人後衛2人と言った構成ね。


そして、3日間の道中で2日目にスケルトンを5体。ゾンビを3体倒した。

アレン曰く、あれは村への先遣隊だそうだ。

威力偵察をして、村がどの程度の対応をするかを見極めてから、大部隊で村を攻める算段なんだろうとの事。アンデッドなのにそこまで頭が回るとは流石、Bランクね。


墓地に着きました。すると、100m先に3体の外套を被った骸骨がいる。

そして、地面からスケルトンとゾンビが現れ始めた。

その光景は気持ち悪いとしか言えない。

けど、ここで弱音を吐く訳にはいかない。自分から言い出した事なんだから!

スケルトンは7体にゾンビは12体、スケルトンキングが3体の22体だ。


前進しながら敵を各個撃破する。

アレンはスケルトン用に片手に鈍器を持ち、片手に剣を持っている。

月影流ってなんでも出来るのね。


「と、ホーリライト!」


光魔法を受けたゾンビがそのまま消滅していく。

エリナも同じく光魔法を放って、ゾンビ達を消滅していく。

護衛の二人も、前衛としてゾンビとスケルトンを斬ったり、叩き潰している。


足が遅いというのもあって、後ろに下がりながら魔法と打撃に斬撃で、敵を確実に減らした。

遂に、全部を倒してスケルトンキング3体だけになった。

逃げようとするけど、そうはいかない!


「サンクチュアリ!」


実際は範囲防御魔法だけど、スケルトンキングと私達を逃がさない用に、鳥籠のように張った。


「「生命をもたらしたる精霊よ。不死なる者に救済を! ターンアンデッド!」」


エリナと二人の詠唱で光の聖級魔法を放つ。

スケルトンキングはその光に浄化されて、1体消滅した。

残りは2体!

アレンが1体を斬撃と打撃で攻撃する。


「月影流――車掛かり」


空中で回転しながらスケルトンキングの片腕を斬り飛ばして着地。


「――猿廻」


上段斬りを連続で浴びせて胴体と首を確実に潰した。

残りは1体。まだ、魔力は全然余裕がある。

最後の一体はどうにかして逃げようとしている。


「エリナ!」


「ええ」


「「生命をもたらしたる精霊よ。不死なる者に救済を! ターンアンデッド!」」


その一撃に、最後の一体は魔石を落として消えていった。


こうして、アンデッドを全部倒して村に平穏を取り戻した。

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