第88話 真実1

 考古学者ってことは、なにかの調査ってことになるのかな。

そうすると、私は護衛をするってのが今回の依頼だろうか。


「ということは調査か護衛ってことですかね」


「私からはなんとも言えませんね。ただ、この依頼は権力者からの依頼だ。ということを認識して頂いて欲しいです」


権力者からの依頼だと? それってもう王族からの依頼ってことじゃん。絶対に第二王子でしょう。


「ということは第二王子からの依頼ということなんですね」


キースさんは何も言わない。

だけど、その沈黙が第二王子からの依頼だ。

ということを証明しているようなものだ。


「分かりました。ありがとうございます」


「いえ、答えられなくて申し訳ないです。考古学者の方が来たら全部話せると思いますので、お待ち下さい」


その時、ドアからノックの音が聴こえてきた。


「ご主人様。お客人がいらっしゃいました」


使用人の方の声だ。ついに、考古学者が来たってことなのだろう。


「そうか。入って貰ってくれ」


「失礼する」


そう言って、入ってくる人は白髪の混じった髪に、シルクハットと片メガネにマントと黒いコートを着た50代くらいの方だ。

この人が考古学者なのか。もう少し、お年を召していると思っていたな。


「座っても宜しいかな?」


「はい、どうぞ」


キースさんの隣に考古学者は座る。

さて、どんな人なのか。今の所、そんな変な人には見えないけど……。


「まず、吾輩の名前を伝えなくてはな。吾輩はアルフ=シューベル。国の考古学者をやっている者だ」


「私の名前はアランです。宜しくお願いします」


「うむ。知っておるよ。幼龍殺しに、魔物の大群(スタンピード)にも活躍したという英雄だ。今は貴族の間でも話題になっておるのだ」


「そうですか。そんな大した人間じゃないんですけどね」


苦笑する。そんな大した人間じゃない。

多くの人の犠牲や協力の上に成功したのだ。自分だけの力ではない。


「謙遜するとは、謙虚なのだなアラン殿は。その歳で、これだけの活躍をしたものは、そうそういないものだぞ」


「そうですかね? ちょっと恥ずかしいですね」


「ハッハッハ! 気に入ったぞアラン殿。それと、隣のお嬢さんが例のハイエルフの少女か?」


例のハイエルフの少女ってことは、リリィの事を知っているって事か?

あれは緘口令が布かれているはずなんだけど。

噂は防げないって事か。

仕方ない。


「そうです。ハイエルフの少女。リリィです。今は私の冒険者パーティーの一人です」


「リリィだよ。おじちゃん」


ちょっと! いきなり会った身分の高そうな人に、おじちゃんなんて失礼でしょう。

だ、大丈夫かこれ。問題はないよね? そうだよね?


「ハッハッハ! おじちゃんか。良いぞお嬢ちゃん」


だが、それは杞憂なようだった。

考古学者なんだからハイエルフについても、かなり喉から手が出る程、気になるだろうに。


「とりあえず、全員の挨拶が終わった所で依頼についてお話ししましょうか」


「うむ。そうだなキース殿」


やはり、キースさんとアルフさんは知り合いのようだ。

なんで考古学者についても知り合いなんだろうか。

知っている程度なら分かるけど、キースさんの人脈は恐ろしいな。


「今回の依頼は、新しく発見された遺跡の調査です」


「新しく発見された遺跡の調査ですか?」


ってことはやはり護衛がメインで、アルフさんが遺跡の調査をするってことなんだろうな。


「うむ。ここから北西に馬車で一ヶ月の森の中で、巧妙に隠された遺跡が発見されたのだ。先遣隊として、遺跡の表層については調査したが、今回は最深部を目指しての調査だ」


表層は別の冒険者が調査していたのか。

それで表層については安全が確認出来たから、最深部の調査に踏み切ろうということなんだろうな。


「なるほど。最深部までかかる日程とかも、わからないってことですよね」


「その通りだな。表層だけで3、4日だ。魔物もそこそこ現れる。そして、表層の最後の扉。そこで、大きな扉があって中に入れないようなのだ。最深部の深さは分からない。だから、かなりの日程が掛かると予想される」


ふむ。その表層の扉がどうなっているかを調査。出来るなら最深部に入って中の調査をするのか。


「その扉についてはなにか分かっているのですか?」


「それについては扉に壁画が描かれている。ということなので、それをどうにかしたら扉が開くだろうと睨んでいる」


なにか大事な物が保管されているのかな。

だとすると防衛機構とかがあって危険かもしれない。

充分に警戒する必要がある。


「分かりました。では、詳細な依頼内容と報酬も教えてください」


「それは私が。まず、依頼は表層の最後の扉の調査。また、その奥の最深部の調査が依頼内容になっています。基本はアルフ殿の護衛が、アランさんの基本的な任務です。報酬金は1日の護衛に30コル。最深部の調査に成功した場合は、成功報酬としてその価値に応じて払います」


往復で二ヶ月。調査もあるとしたら、最大でも一ヶ月はかかるとみて三ヶ月ってところか?

だとすると三ヶ月で2,700コルか。

結構な金額だな。それに、追加の成功報酬まであるのか。

どの程度貰えるかは不明だけど、護衛だけでもかなりの報酬だ。

受ける価値はあるな。

それに。


「もしかして、これって私のBランクアップも関係してますかね?」


「良く分かりましたね。アランさんは聴いたお話だと、まだ冒険者になって浅い。せめて、2年はあれば角が立たないということです。この依頼の期間で2年は経過するはずなので、Bランクになっても問題ないということですね」


やはり、Bランクアップも関係していたか。

そうだとは思っていたけどね。


「どうだアラン殿。受けてくれるか?」


「そうですね。受けないとは言えないのでしょう?」


「ええ、この依頼は第二王子ヴァルト様からの依頼です。なので、受けないという選択肢はありえません」


やっぱり、ヴァルト王子が関わっていたか。

これは、この前のオークションの借りを返せということなんだろうな。

まぁ、良いさ。

依頼としてもそこまで悪くはない。報酬金も良い。

Bランクアップは別に良いけど、あれば良いだろう。


「理解しました。それでしたら、この依頼を受けようと思います」


「良かった。私も助かりますよ」


キースさんは私を通じてヴァルト王子と関係がより深まるからなんだろう。

世話になった恩もあるし、これで良かったのかもな。


「では、アラン殿。明日は準備に1日掛けて、2日目の早朝に馬車で森に向かうとしよう」


「はい、分かりました」


「ならば、吾輩はこれで去ろう。キース殿にアラン殿、それにお嬢ちゃん。吾輩の事は任せるぞ」


アルフさんは立ち上がる。


「護衛はお任せください」


「頼もしい。では、さらばだ」


アルフさんはそう言って、部屋を出て行った。

ふぅ……緊張したな。

でも、依頼の事についても分かったし、これで良かったか。


「ふぅ……緊張しましたね。アランさん」


「キースさんも緊張していたんですか?」


あのキースさんが緊張するって、アルフさんはどんな人物なんだ。


「アルフ殿は考古学者の最高権威の方で、古代魔法文明時代について調査をしているのです。色々とこの国に貢献されている古龍国の一番の学者ですよ」


「え! そんなに偉い人だったんですか?」


「そうですね。でも、古代魔法文明時代の研究以外には、そこまで興味のない方なので、敬語とかそこらへんは気にしなくても結構ですよ。そこらへんは安心してください」


ははぁ……それなら良いけどさ。

早めに言ってくれれば良いのに。

キースさんも結構、良い性格してるよね。

何がとは言わないけどさ。

何がとは。

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