第86話 安息18
四の鐘が鳴った。今は12時ということだ。
ということで、冒険者ギルドに行く。
冒険者ギルドに入ると、いつも通りノインさんはつまらなそうに窓の外を眺めている。
もう、一種のオブジェクトかなにかだよね。
というか獣人ってそんなに変なんだろうか? ただ、普通の人より猫耳とか犬耳とかそんなんついてるだけでしょうに。
そこまで、差別するのはどうなんでしょうね。
でも、人と違うっていう点が差別の対象なのかな。
人は違うものを嫌う生き物だからね。
とりあえず、ノインさんのとこに向かおう。
「ノインさん。来ましたよ」
「来たよ」
「ああ、アランにリリィ来てくれたか。じゃあ、昼食でも食べに行こうか」
「そうですね」
「あ! っとその前にリリィの冒険者証を出してくれないか?」
「リリィの? 良いよ。はい、どうぞ」
ノインさんがリリィから冒険者証を受け取って、何かを書いたり手をかざしている。
「はい、リリィ。Eランクアップおめでとう」
「お? おおー!」
最初、リリィは分かってなかったみたいだけど、自分の冒険者証に、FからEランクになっているのを確認すると、高く掲げて喜んでいる。
「そうか。ランクアップか」
なるほど。確かに、魔物の暴走スタンピードに参加したんだから、ランクアップするのは当然か。
一回の依頼でランクアップするなんてな。それだけ危険な依頼だったから、なんだけどさ。
「まぁな。Dランクの魔物を討伐したんだから当然、ランクは上げるさ。この前はそれを忘れてたんだ」
ノインさんはちらっと舌を出して答える。
それで良いのか受付嬢。
まぁ、ちゃんとランクアップしてくれたんだから良いか。
「良かったね。リリィ! 一回の依頼でランクアップするなんて凄いよ」
そう言って、頭を撫でる。頭を撫でると抱き着いてきて頭を押し付けてくる。
猫みたいで可愛い。
「ありがとう。お兄ちゃんってランクはいくつなの?」
「ん? ああ、Cランクだよ」
「ほぼ、Bランクなんだけどな」
ノインさんがボソッと呟く。
「えーっとリリィがEランクだからあと2つはランクアップしないといけないんだ」
「それも、DランクからCランクに上がるには、ある程度の実力と才能がないと無理なんだけどな」
「偶々ですよ。偶々、運が良かったからCランクになったんですって」
「幼龍殺しの英雄が良く言うよなー」
「やっぱ、お兄ちゃんは凄いんだね!」
「そんなに褒められるとなんか照れるね。リリィもこの前は凄かったじゃないか。あれなら直ぐにDランクになれるよ」
「ほんと? リリィ頑張る」
リリィが奮起している。
でも、精霊魔法が使えるリリィは、かなり優秀な冒険者だろう。
だから、ランクアップはそこまで時間はかからないでしょう。
寧ろ、直ぐに追い抜かれる可能性もあるのが怖い所だ。
それだけ、リリィの精霊魔法は群を抜いている。
その後、昼食後にリリィにランクアップ記念に何か奢る事にした。
すると、甘い物が食べたいというので、ノインさんのお勧めの喫茶店でショートケーキを奢った。
なぜか、ノインさんの分まで奢る羽目になったのだが、リリィが喜んでくれていたので良しとしよう。
私は飲み物だけで満足です。
ノインさんが休憩時間がそろそろ無くなると言って、冒険者ギルドに戻っていった。
リリィはお腹が一杯になって眠くなったのかうとうとし始めた。
仕方ないので、リリィを膝の上に乗せて寝かしつける。
店内は静かだ。人はそこまで多くなく、4,5人程度が他にいる程度だ。
ここもノインさん行きつけのお店ってことなんだろうな。
静かな所で考える。それはこれからの事だ。
本当は、頭の中を整理するためにペンと紙が欲しいのだが、そこは仕方ない。
まず、調べる事は転移魔法や時空魔法といったRPGお決まりの瞬間移動や時空を渡る魔法だ。図書館で調べた限りでは古代魔法文明時代には転送装置等があったそうなので絶対に何かしらあるはずだ。
これが一番私にとって重要な事柄だ。何としても見つけなくては……。
次はこの世界の情報だ。古代魔法文明時代には魔王との戦争が起きた。その時に残された遺跡は多々あるのではないだろうか。それらを調べる。または調査が出来れば……
まぁ、これもRPGお決まりのこじつけみたいなものだけど。
ただ、問題は私が魔法について何もわからないということだ。
それ専門の人がいると助かるんだけど、こればっかりはしょうがない。
他にも気になる事はある。
この世界の歴史の事。それに、光の乙女に四英雄の話も気になる。
四魔将と魔王についても気になるな。古代魔法文明時代に戦っていた存在だ。
今は光の乙女によって封印されているようだけど、そこを調べれば古代魔法文明時代についてもわかるかもしれない。
あとは……あ! 聖戦士についてだ。カラエドのギルド長が、私の事を聖戦士と言っていた。
だけど、歴史を調べても出ては来なかったな。
まだ、調べたりないのかもしれない。
今度、図書館に行った時に調べてみよう。
そう、頭の中で整理をしていると私も眠くなってしまった。
私も眠くなってきたな……。そのまま、リリィと一緒に喫茶店で眠ってしまった。
目を覚ますと窓から入る光が茜色になっていた。
あれ、もう夕方になっていたのか。
そう言えば、キースさんとの約束って……。
マズイ、今日の夕方じゃないか。
早く行かなくては!
「リリィ。起きて」
「うみゅ……」
「ああ、もういいか」
リリィを抱っこして会計をしてからキースさんの店に急いだ。
空は少し闇が深まっていたが、一応夕方だ。ギリギリ問題ないだろう。
そう、ギリギリね。
お店の中に入る。
すると、使用人の方が声を掛けてきた。
「アランさん。お久しぶりです。リリィもお久しぶりです」
「お久しぶりです」
「お久しぶり」
使用人の方はにっこりと笑顔で返す。
「ご主人様がお待ちですので、こちらへ来てください」
使用人の方の後ろに着いて行く。
結構、遅れたから怒られるかな?
大事な依頼のはずだもんなー。これはやってしまったか?
でも、やってしまったことは仕方ないし。
覚悟を決めよう!
「こちらのお部屋の中にどうぞ」
扉をノックする。
「アランです」
「どうぞ。お入りください」
中から声が聴こえたので扉を開けて中に入る。
部屋は前に見たことがある一室だ。
調度品とかが置かれていて、地味過ぎず、かと言って目立ちすぎない良い部屋だ。
「すみません。遅れてしまいました」
「良いですよ。まだ夕方ですし」
キースさんは何でもないかのように手を横に振ってくれる。
「それに先方はまだ来てませんしね」
「まだ、これから他に人が来るのですか?」
「ええ、今回の依頼でのアランさんの同行者の方です」
同行者? ってことはその人の護衛ってことなのか?
それとも同じ冒険者なのだろうか。
まさか、どっかの国に行って暗殺しろとか言われないよな。
第二王子ならやりそうで怖いんだけど。
「その同行者の方についてお聴きしても?」
「私もそこまで知っているわけではありませんが、考古学者らしいですね」
「考古学者……ですか」
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