第85話 安息17

「またまたー嘘言わないでくださいよ。あんなに笑顔の良い人そうはいませんよ」


「お前、絶対悪い奴に騙されるぞ」


失敬な。流石にそこまで人を見る目は悪くないと思うんだけど。

というか同じ受付嬢なんだからそんなに仲悪くて良いんですか。


「そんなことないでしょうよ。ね? リリィ」


「大丈夫。お兄ちゃんはリリィが守るからね」


リリィはなにかやる気を出しているようだ。

っていうか、それはフォローになってないんだけど。

そんなに、私は頼りないのかねぇ。

今の所、悪い人には当たってないんだけどな。

カラエドでも、その道中の村でも、首都でもさ。


でも、それって周りの人が良いだけだっただけなのか?

そうかもな。アレンが良い人じゃなかったら、奴隷として売られてたかもしれないんだし。


「んむむむ……。まぁ、良いです。とりあえず、依頼の報酬金を貰っても良いですか?」


「おう。だけど、その前に指名依頼が来てるからそれの説明もさせてくれ」


「指名依頼ですか? 何故に私に」


「幼龍殺しだぞお前は……自分が有名な人物だってことを自覚しろよ」


そんな事言ったら、ジーク達だって有名になってるでしょうに。

あ、でも幼龍を殺したのは表向き私って事になってるんだよな。

主に報酬金の関係で。

だから、有名なのも仕方ないか。不本意だけどな。


「とりあえず、休憩所で話すぞ」


「はい」


ノインさんが受付から出て、休憩所に向かう。

休憩所で席に座るとノインさんが話し始める。


「とりあえず、魔物の暴走スタンピードについては昨日の夕方に冒険者達が大勢集まったから確証は取れた。ギルド長からも昨日、冒険者達に声明が出たからこの件は一件落着だな。だから、アランとリリィにも参加報酬と討伐報酬を渡すよ。二人で2,560コルな」


そう言って、銀貨2枚と銅貨5枚と鉄貨6枚を渡される。

私は、それを小袋に入れて、リリィに報酬の半分。銀貨1枚と銅貨2枚に鉄貨8枚を渡した。


「おー! 報酬」


私からお金を渡されたリリィは素直に喜んでいる。

それを大事そうに小袋に入れている。


「聴いたぞ? アラン一人で40か50体は倒したんだろ? それなのに一人4体討伐にしたとかさ。お前は欲が無いのかね」


「良いんですよ。討伐に関して話してたら長引いてたし喧嘩にもなってたかもしれません。それならいっそ、全員で割ったほうが早いし、文句もでない」


「まったく。まぁ、良いけどさ」


「それにリリィだって一人で10体とか倒してましたよ?」


「え、そうなのか? でも、リリィだろ? 何で倒したんだ?」


「リリィは魔法が得意なんですよ。だから、かなり魔物の暴走スタンピードでも活躍してましたよ」


「えっへん」


「へー、そうなのか。なら、尚更、討伐報酬も全部受け取ればよかったのにな。60体だとしたら4,200コルだぞ」


「まぁまぁ、良いじゃないですか。みんなで協力して倒したことは確かなんですし。な? リリィ」


「うん。柵作ったりとかみんな頑張ってた」


「そうそう」


「本人が良いなら良いけどな……おっと、魔石の金も渡すぞ。リリィには80コルだ。アランは660コルな」


「え、なんか私だけ多くないですか?」


Dランクの魔石が一個20コル程度だから、オークキングの魔石は600コルになるぞ。

これは貰いすぎでは?


「そりゃそうだろ。B-ランクの魔石だぞ。それだけで、どれだけ街の魔道具を動かせると思ってるんだよ」


そうなのか。知らなかったけど、B-ランクの魔石でこんだけなら幼龍の魔石ならどれだけの値が付いていたんだろうか。

まぁ、知らない方が良いだろうな。知ったら後悔しそうだし。


「知らなかったです。でも、まぁそこまでお金があっても使い道は余りありませんからね」


「冒険者ならポーション買ったり、武器を新調したりとか金がかかるだろうに。まったく。欲が無いよなぁ」


やれやれとノインさんは落胆しているようだ。

武器はカラエドのギルド長の物があるし、片手剣もアレンの物だ。思い入れもあるし新調する気はない。まぁ、ダガーは新しく買ったけどね。


「それは置いといて、指名依頼について話してもらっても良いですか?」


「ああ、そうだったな。だけど、この依頼なにかちょっと変でな」


ノインさんは依頼書を見ながら頭を掻いている。

変な依頼とはなんだろうか?


「依頼の内容は機密。報酬も機密。拘束期間も不明と、正直、お勧めするのも可笑しい話なんだけどな」


何だその依頼? どんな内容かわからないようじゃ決めようがないじゃないか。


「だけど、キースって知ってるか? あの高級奴隷商人なんだけど」


「キースさんですか? はい、知ってますけど」


いきなり、思わぬ人物の名前が出てきた。キースさんなら護衛をしてたから知ってるよ。

でも、いったいなんだ?


「そこで、依頼の内容を話すそうなんだ。もし、アランが良いなら今日の夕方にでも集まって以来の内容について話したいそうだ」


「キースさんの店で、ですか……」


なんだか嫌な予感がする。

そう、なにかが引っかかるような気持ち悪さだ。

それが取れない。

でも、キースさんが関わっているってことはそれだけ機密性の高い依頼ってことなんだろう。

なんて言ったって王族と縁のある人出しな。


「あ! ……いえ、なんでもないです」


「なんだ? いったい」


胸のつっかえが取れた。

そうか。もしかしてこれ第二王子からの依頼の可能性があるのか?

キースさんを通している時点でその可能性は高い。

それならこれって拒否権はないんじゃないだろうか。

うわぁ……。それはそれでマズイ依頼だよなぁ。


このまま高飛びしたい欲求が出てくるが、流石にそんな事したらキースさんにも迷惑が掛かる。

それは出来ないな。

リリィの件でお世話にもなったわけだし。


「わかりました。その依頼受けます」


「本当か? 正直、得体のしれない依頼なんだけどな」


「キースさんにはお世話になりましたので良いんですよ」


「そうか。なら受諾の旨を先方に伝えとくぞ。今日の6の鐘が鳴った時にキースの店に行けば良いらしいからよろしく頼むぞ。その時に詳しい説明をするそうだ」


「わかりました。ありがとうございます」


第二王子が関わってるなら逃げるわけにもいかない。

これは受けるしかない依頼だ。

はてさて、どんな依頼になるのだろうか。


「蛇が出るかそれとも……」


一抹の不安が取れない。


「お兄ちゃん?」


思わず、リリィの手を握ってしまった。


「いや、なんでもないさ」


そう、なんでもない。

大した依頼じゃないさ。きっとそうに違いない。


「じゃあ、とりあえず、説明は終わったし、昼になったら一緒に飯でも食いに行かないか?」


ノインさんからお誘いが来た。

願ってもない。リリィも喜ぶし、ノインさんの選ぶ店は老舗って感じで知る人ぞ知る店なのだ。

美味しいし、外れはない。


「ええ、ぜひお願いしますよ」


「リリィもノインお姉ちゃんと一緒に食べる」


「良かった。じゃあ、昼になったらまた冒険者ギルドに来てくれよ」


「わかりました」


あと、2時間くらいかな?

とりあえず、露店でも見ながら時間でも潰そう。


リリィの手を取って冒険者ギルドを後にした。

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