第84話 安息16

ノインさんと別れて、冒険者ギルドを出た。

時刻は夕刻だ。今日は公衆浴場で身体を綺麗にしよう。

そして、宿屋で夕食を取る。

そのプランで行くか。


「リリィ。宿屋で荷物を置いたら公衆浴場に行こうか」


「うん。良いよ」


リリィの手を取って二人歩く。

背嚢が肩に食い込んで少し痛い。

毎日のように背嚢を背負っていたから肩が凝ってしまったのかな。


宿屋で荷物を置いて、一応、片手剣を帯刀して公衆浴場に行く。


番台でお金を払ってから男湯の暖簾の中に入って服を脱ぐ。

脱いですっぽんぽんになった所で、隣に誰かいる事に気づく。


「ありゃ、また来ちゃったのかリリィ」


リリィが隣で服を脱いでいた。

なんでもないかのように頷いている。


「うん」


まぁ、この前もそうだったし良いか。別に問題はないだろうし。

9歳ならギリギリ大丈夫だ。うん、そうだろう。


リリィが脱ぎ終わってから、リリィの身体を見えないように布で巻いていく。

そうして、公衆浴場に入る。人はかなり少ないようだ。


とりあえず、身体を二人で洗い、流し合う。


そして、風呂の湯に浸かる。


「ふぅー……」


思わず、息が漏れる。

暖かい湯が体に染みる。

やっぱり、遠征をしていると、暖かい湯には浸かれないからね。


「はふぅ……」


リリィも定位置の私の膝の上で体を預けてくる。

少女の甘い香りがする。

女の子っていうのは不思議だ。

どうして、こんなに良い匂いがするんだろうね。

私なんて、汗臭くて良い匂いがするわけもないだろうに。


「お兄ちゃん。リリィの頭嗅いでどうしたの?」


「んー、リリィは良い匂いがするなーって」


なんか、自分で言ってて変態な事言ってないだろうか。

いや、まだ子供だからセーフ。ギリギリセーフだろう。


「リリィもお兄ちゃんの匂い好きだよ」


そうかな? 男の匂いってキツイ気がするんだけどな。

それに、野営してたりとかだと風呂にも入れないしね。


「そうかな? 汗臭くいだけな気がするけど」


「それが良い。なんかお兄ちゃんの匂い嗅いでると安心する」


きっぱりと言われてしまった。

もしや、リリィは匂いフェチの才能があるのでは!?

まぁ、別に良いけどね。嗅がれてもそんな嫌な事ないし。


「そうかぁ……」


それにリリィは身寄りの無い子だ。

実際には記憶喪失なだけで家族がいるかもわからないだけなんだけど。

それでも、独りなのだ。

今は私しかいない。甘えたい年頃なんだろう。


リリィが正面を向いて私に抱き着いて来た。

顔を胸に埋めて息をしている。


「ふぅ……やっぱり、良い匂い」


風呂に入って体を洗ったからじゃないかね。

そんな、お風呂のバ〇みたいなものじゃないぞ。


というか、幼女が抱き着いている絵柄は周りから見たらかなりマズイ恰好なのではないだろうか。

いや、家族だからなんだろうとか思ってくれるかな?

そうじゃないと、臭い飯を食うことになるぞ。


「お兄ちゃん。お尻に硬いのが当たってる」


「おうふ……」


リリィの柔らかいお尻がマイサンに当たっている。

流石にこの状況はマズイ!

リリィを抱っこして横に下ろす。


「お兄ちゃん。さっきの硬いの何?」


リリィがキョトンとした顔で聴いてくる。

ナニです。って親父か!

さてどう返すのが正解だろうか。

1.これは男の生理現象だよ。

2.リリィが魅力的だからおっきくなっちゃったんだよ。

3.これはナニだよ。

どれもマズいだろ! というか2は流石に変態すぎる。


ふうむ。考える。今度、図書館で本でも見せたほうが良いのかな。保健体育みたいなやつを。

とりあえず、今の状況を打破しなくては。


「これはね。男の生理現象なんだよ」


「生理現象って何?」


そうきたか。まぁ、正確に返すのが良いか。


「興奮したりすると思わずなっちゃうことなんだ」


「ふぅーん。そうなんだ」


それ以上の追求はなかった。良かった良かった。

その後は、なにも問題はなく無事に公衆浴場を出た。


その頃にはもう空に闇が侵食していた。


「お腹空いたね」


自分の腹を撫でる。流石に腹が減ったな。


「うん。お腹空いた」


リリィも同様なようだ。

今日のご飯はなんだろうか。

もう、肉はこりごりだ。オークをたくさん食べたしな。

それに、道中は干し肉だったし。

肉ばっかりだと、栄養バランスも悪い。


「今日は魚が食べたい気分だなー」


「うん。お肉はもうたくさん食べた」


そうだよね。オーク肉はこりごりです。

って、そういえば、和幸で出てたとんかつってもしかしてオーク肉なんだろうか?

あれは一応、豚肉の味だったしとんかつだ。って出されても気付かないけどさ。

気になってくるとかなり不安になってきた。かなりお気に入りのお店だから、そこは普通の豚であって欲しい。


宿屋について夕食を頼む。

今日の夕食は焼き魚定食なようだ。

ああ、良かった。なんか凄く気分が晴れたよ。

なんの魚だかは分からないけど、身が柔らかくて美味しい。

これだよこれ。今度から保存食に干物でも買っていこうかな?

隣のリリィも黙々と食べている。

顔は変わっていないが、リリィにしては速いスピードで食べている。

多分、喜んでいるようだ。良かったね。


その後、夕食を食べた後、自室にてリリィと一緒に眠った。

本を読まないとなぁ、と思っていたのだが、思いの外疲れていたようだ。

リリィと一緒に眠ってしまった。


次の日の早朝。

宿屋で、朝食を食べてから冒険者ギルドに向かった。

今日は依頼の報酬金と魔石の換金もお願いしていたのだ。


冒険者ギルドに入ると、今日も人は少ない。

朝にしては10人いるかどうかってところか。

受付も空いている。

今日こそ一番人気の子の所に行こう!

と、思ったのだが、ノインさんが手招きして来る。

はい、そうですね。分かってますって。


ちょっと肩を落としてからノインさんのとこに向かう。


「おう! なんだその不服そうな顔はよ」


ノインさんは少しご立腹なようだ。

まぁ、ノインさんは面倒見が良いし良い人なんだけどさ。

でも、たまには一番人気の受付嬢に頼みたいよね。

これは男の性ってやつです。


「いえ、別に……」


「どうせ、一番人気の受付嬢が良いなーとかそんなこと思ってたんだろ!」


「この人! 私の脳内を直接見たのか!」


「あー! やっぱりそう思ってたのかよ。この野郎が!」


「たまには変化が欲しいんですよ。たまには」


「っけ、まったくあの腹黒女のどこがいいんだか」


腹黒なのか。あの清純そうな顔からは想像もできないんだけど。

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