第77話 安息9

 リリィを寝かしつけてからまた、本を読むことにする。

昨日の本の続き、魔闘気についての本だ。


席に座り、魔道具のランプを付けてからページを捲る。

ふむふむ。なるほど。

今まで使ったことない使い道があるな。

それに、ジャックが自然に使っていた技術も記載してある。


まず、今まで使ったことがない方法だが、鼻に魔力を集中させて嗅覚を強化する魔法だ。

これを「嗅(キュウ)」と呼ぶらしい。

魔力で強化しすぎると、鼻への匂いが強烈過ぎておかしくなるらしい。

その点は要注意だな。

使い道は余り無さそうだ。

あえて上げるなら獲物の血の匂いを嗅いで追跡するとかかな。

それも猟師とかが使えると良い物で、冒険者の自分にはそこまで恩恵はないだろう。

まぁ、なにか役に立つ時があるかもしれないから頭の片隅にでも入れておこう。


次は舌に魔力を集中させる方法だ。

これを「舌(ゼツ)」と呼ぶ。

これは単純に味覚の強化だろう。

これを使えばより美味しくものを食べる事が出来るのだろうか。

今度使ってみようか。

まぁ、戦闘では確実に使い道がないな。

覚えておく必要もそこまでない。

グルメなら覚えておいて損はないな。

ワインのテイスティングとかに使えるのか? それぐらいしか用途がわからない。

ソムリエとかになれそうだ。


次からはやっと戦闘で使えそうな技法だ。

魔力反応を極力減らし、敵から見えにくくする技法だ。

これは「陰(イン)」と呼ぶそうだ。

ジャックが獲物を狩る時に浸かっていた技だな。

まるで、隣にいるのに消えたかのようだった。

これが使えれば、隠密行動が出来るようになる。

例えば、敵の隙を突いたり、回り込んだり等、追跡にも便利そうだ。

ただ、この技術はかなり使用者のセンスが問われるようだ。

中には出来ない人も多く。出来ても魔力反応を小さくできる程度。

完全に消えるのはかなり難しいらしい。

それでも、瞑想等で鍛えることはできるようだ。


まぁ、完全に反応を消せなくても見えにくく出来るようになればそれだけで有利になれる。

この技法は毎日、鍛錬しよう。


そして、次は物体に魔力を流し、強化する技法だ。

この技は「浸(シン)」という名だ。

良く、片手半剣やダガーに魔力を流して強化していたが、これがそれのようだ。

水を流すかのように魔力を物体に流し込むから浸(シン)というらしい。

なるほどね。この技は魔物と戦う時にかなり使う。

なるべく早く、薄くかつムラが無いように武器に魔力を流し込むのが結構難しい。

極めれば、斬る瞬間だけに浸(シン)を使うこともできる。

今の私ではそこまで早く浸(シン)を使うことはできないが、いつかは出来るようにしたい。

そうすれば、かなり魔力の消費も少なくなる。

つまり、継続戦闘能力が高まるということだ。


次は魔力を体の一部分に集中して流して強化する技法だ。

これは「連(レン)」という名前だ。

これも私が良く使う技だな。

瞬動を使う時に大地を蹴る時に足に魔力を大幅に流し込んで速度を強化する。

また、さっきの武器に大量の魔力を流し込んで切れ味を増したりなどでも幼龍戦ではやっていたな。

魔力量によっては恐ろしい程の威力を発揮するようだが、魔力で強化した際に人の身体がその動きに耐えられずに怪我をすることがあるようだ。

これは実際にあったな。

変異種のオーガとの戦闘の時とか、幼龍戦で使った瞬動で右袈裟に斬り掛かってからの反転して紫電の太刀を繰り出す私の一連の技だ。


でも、これを使うと反転するときに足が完全にやられるんだよね。もっと、筋力を強化すればそれも少しは負担が減るだろうか。


正直、最後の奥の手感はあるので、安易に使えないのが玉に瑕だ。


まぁ、でも瞬動で斬り掛かるだけでもかなりの速度になる。

これも練習次第で身体に流す魔力量を早く、瞬時に強化出来るようになる。

鍛錬が重要ですな。


そして、遂に見つけた。


そう、他の技も知りたかったけど、一番知りたかったのはこれだ。

これを知りたかったのだ。


一時的に身体に流れる魔力を爆発的に増やし、炎のように纏う技法。

私の本当の奥の手だ。

これは「炎(エン)」というらしい。

人間は大抵、頭によってある程度の使える力の限界を定めている。

この技は普段、力をセーブしている頭のリミッターを解除して、身体に流れる魔力を燃えるように増やす技だそうだ。


だが、その分、身体に大きな負荷が掛かり、大きな怪我を負ってしまう危険性もある。

最悪、死ぬ可能性もある技でもある。


そして、魔力を急激に増やすので直ぐに魔力切れの症状も現れる。


それに、この炎(エン)は才能によって使えるかどうかが分かれるらしい。

使えない者は一生使えない。そういう特別な技だ。


鍛える方法は、日常的にこの炎(エン)を使い続ける事。

それによって、魔力量も身体にかかる負荷も鍛える事が出来る。


早速、使うべきだろう。


「ふぅ……ハァッ!」


魔力が身体を炎のようにメラメラと覆う。

この炎(エン)が長時間使えるようになれば、それだけ自分の強みになる。

これが、私の奥の手だ。

これを鍛える。それが、魔法が使えない私の為だ。



10分程で、身体を覆っていた炎が消えかかってきた。

それと同時に眠気と疲労が襲い掛かってくる。


魔力切れだ。


今の私では10分が限界ということなのだろう。


戦闘中だとしたら他にも炎(エン)の他に連(レン)や浸(シン)も使うことになる。

だとするならこの半分か恐らく三分の一。

3分か5分が使える限界だろう。


本によると、炎(エン)の時間を1分長くするだけでも一ヶ月はかかると言われているらしい。

実際に戦闘が起こるとするなら30分は長く持たないと強者とは戦えないだろう。

30分ってことは一時間は使えるようにするってことだ。


考えると凄い長い期間が必要な事に気づいた。

しょうがないね。気長に続けていこう。


さて、眠気と魔力が限界だ。


リリィを起こさないようにベッドに入って直ぐに眠った。




早朝、いつも通りに首に抱き着かれている状態で目が覚めた。


はぁ……やっぱり、この状態には慣れないね。


「ほら、リリィ。起きて」


ゆさゆさと揺らして起こす。


「んみゅ……」


目を擦っている。

そして、蒼い瞳で私を見つめてにっこりと微笑む。


「おはよう。お兄ちゃん」


「おはよう。リリィ」


挨拶をしてからそれぞれの準備をする。

そして、準備が終わったところで、食堂に向かった。


今日のご飯はキノコの炊き込みご飯と味噌汁にベーコンエッグだった。

勿論、美味しく頂きました。


一応、自室で武器の確認をしてから宿を出た。


今日はギルド長から直々にお言葉を頂けるのだ。


はっきり言って行きたくない。

だって、絶対に厄介事だろうしね。

でも、Cランク冒険者としては仕方なく聴きに行くしかないのだ。

それに無理そうな依頼なら逃げてしまえば良いしね。




そんな事を考えながらリリィの手を引いて冒険者ギルドに着いた。


扉を開けると、いつもはもう少し少なかったギルドに大勢の人がいる。

これ全員、冒険者か? マジかよ。かなり、大事なんじゃないのかこれ。


二の鐘が響き渡る。時刻は8時か。


3階から白髪のダンディーな老人が下りてくる。

この人がギルド長か?

しかも、首都のギルド長だから多分、この国で一番偉い人なんだろう?


そのギルド長は2階のロビー前に止まると声を掛ける。


「さて、冒険者諸君。集まってくれてありがとう」


冒険者達はシンとしている。どのような内容なのか待っているのだ。


「ここから4日の西の村で幼龍が討伐されたのは知っているだろう」


はい、倒したのは私です。って、そんな事言わないけどね。


「幼龍が倒されたことで、多くの魔物が奥の森から村に向かって来るのが地元の猟師から伝えられた。我々は村を守るために、この魔物の暴走(スタンピード)に対応する! 我こそはというものはこの依頼に参加して欲しい!」

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