第78話 安息10
「敵はオークの群れ。猟師曰く、大地を埋め尽くさんばかりの数がいたらしい。恐らく、100か200は下らん数だろう。ギルドはこの魔物の暴走(スタンピード)に参加するだけで1,000コル。オーク1頭の討伐に50コルの報酬を約束する! さぁ、我こそはというものは依頼に参加してくれ!」
ギルド長からの熱いスピーチに冒険者達から歓声が上がる。
そして、我こそはと言わんばかりに受付に参加していく。
私とリリィはただ、その人の行列とさっきの言葉に唖然としていた。
ただ、考える。
参加するだけで銀貨1枚だ。それに、討伐をすればさらに報酬は増えるだろう。
美味しい依頼ではある。
というか、かなり依頼としては破格の依頼ではないだろうか。
だけど、なんか引っかかるんだよなぁ。
裏がありそうで怖いというか。
何とも言えない気持ち悪さがした。
周りを見ると、動かない冒険者達も数名だがいた。
ふむ。どうするか。
まぁ、まずはノインさんに詳しい話を聴いてから受けるか決めるか。
それが一番安全だろう。
受付は4人態勢で、いつも人気のないノインさんの所にも大勢の冒険者が並んでいる。
それがいなくなるまで待つか。
一時間程度で、受付に並ぶ冒険者達はいなくなった。
恐らく、装備の点検や道具の補充。ポーションを買ったり、保存食を購入しに行ったのだろう。
先に行っておけば良かったか? まぁ、今更気にしても仕方ないか。
受付に向かい、ノインさんに挨拶をする。
「おはようございます。ノインさん」
「ああ……アランか」
ノインさんは結構、疲れているようだ。
そりゃあ、あんだけの人数の相手をしていたんだ疲れもするか。
「先ほどの依頼で詳しく聴きたいことがあるんですけど、良いですかね?」
「あー……そうだな。分かった。良いぜ」
迷っていたようだが聴き入れてくれた。良かった。
聴きたい事は結構あるからな。
「とりあえず、ギルドの食事処で休憩しよう。どうせ、もう誰も来ないだろうしな」
「わかりました」
リリィの手を引いて、ギルドの食事処に向かう。
お互いにコーヒーを頼み、リリィにはホットミルクを頼んだ。
その飲み物を飲みながら、聴きたい事を聴く事にする。
最初に口を開いたのはノインさんだ。
「んで、聴きたい事っていうのは?」
「さっきの依頼の事で、魔物の暴走(スタンピード)でオークの群れが来るって言ってたんですけど、オークの討伐ランクとか今回の魔物の暴走(スタンピード)の原因とか村はどうするのかとか、依頼の適正とか諸々聴きたいです」
「あー……そうだな。とりあえず、一つずつ説明するぞ」
「はい、お願いします」
「まず、オークについてだが、豚が人間みたいに二足歩行した魔物だな。魔石は心臓にある。食用にもなるので、結構狩られてたりする。味は豚肉と余り変わらなくて結構美味しい。ってこんな情報はいらないか。オークの適正討伐ランクはDランクだ。群れならCランクかな。あと、ゴブリンと一緒で人の女性を攫って繁殖するからかなり危険な魔物だ」
ふむ。ここまではオークの一般的な情報だな。RPGとかでもよくある話だ。ただ、食用になるのは聴きたくなかったな。今度から魔物の肉を食っているのかと不安になってしまう。
討伐ランクもDランクで群れならCランクか。
大した相手ではないな。
でも、数が数だからなぁ……
「んで、今回の魔物の暴走(スタンピード)の原因だけどな、恐らく幼龍が倒されたことが原因だと思われる」
「え? 幼龍が原因なんですか!」
倒しちゃったの私なんだけど!
「幼龍が村の北にある山頂にいたせいで山の向こうから魔物が来なかったんだろう。ただ、今回その幼龍がいなくなったわけで、魔物の大群が一気に南下してきたってことだな」
えぇー……それって、やっぱり私が原因じゃないか。なんたるマッチポンプ!
これ、私報酬受け取って良いのだろうか。
「あの、なんかすみません」
「ああ、良いんだよ。幼龍は倒さなかったら村は潰されてたし、今回の事も仕方ない事さ。だから、あんまり気にすんな。それと、村の住民は今、首都に向かって避難をしているから村に被害はそんなに出ないだろうよ。精々出ても家畜が食われる程度だな」
「はぁ……それなら良かったです。それにしてもあの村も災難続きですね」
「そうだなぁ。まさか、オークキン…ってやべ!」
明らかになにか言いそうになって止めたよ! これ絶対、聴かないとヤバイ情報でしょう!
「ノインさん! 何ですか今の! 包み隠さず教えてくださいよ!」
「あーうん。そうだな。とりあえず、ここだけの話だけどオークってのは10匹とか多くても20匹で群れを組んで生活する魔物なんだ。それが、今回は100から200はいるって話だろ?」
それは、ジャック達の村でもあったゴブリンの変異種がいた時と似たような感じに思える。
まさか変異種が生まれたってことか?
「オークの変異種が生まれたってことですか」
その言葉にびしっと指を指して「正解」と言った。
「つまり、多くの群れを操る指揮官。群れの王が生まれたってことだ。恐らくだが、オークキングが誕生したんだろうさ」
「そのオークキングの討伐適正ランクは一体?」
「群れもいる事だからB+ってとこだな」
「それって、幼龍とあんまり変わらないじゃないですか……」
「流石に幼龍程、強くはないさ。群れだから強いってだけで、一体ならB-くらいだ」
「じゃあ、今回の依頼って……」
「まぁ、危険度の割には報酬はそこまで良くないな」
えー……それをノインさんが言っちゃうのか。
まぁ、自分でも何か裏があるなとは思ってたけどやっぱり危険度の高い依頼ってことじゃないか。
「これ、依頼の拒否したいんですけど」
「ダメに決まってるだろ? Cランク冒険者なんだからさ」
「ですよねー……」
「ま、諦めて退治するんだな。幼龍殺しさんよ」
肩をバンバンと叩かれる。痛い。痛いです。
そして、なにより肩が重い。
こんな依頼受けたくないよ……。
結局、依頼を受ける羽目になってしまった。
まぁ、冒険者も40人くらいいたからなんとかなるか?
「お兄ちゃん。リリィもその依頼受ける」
と、リリィがここでとんでもない事を言い出した。
ええ、リリィがこの依頼に? 流石にそれは許容できないな。
「ダメだよ。危険だからリリィはここで待ってて。ね?」
「いや! お兄ちゃんに着いて行く!」
「でも、危険なんだよ? 死ぬかもしれないんだ」
「それでも行く!」
なんでここまで強情なんだろうか。そこまで行きたい理由があるのか?
「だって、冒険者は自由なんだから! だから、お兄ちゃんに着いて行くのも私の自由なの!」
リリィは胸を張って答える。
そうか。確かに冒険者は自由だって教えたのは私だけど……。
「決まりだな」
ノインさんもリリィの意見に賛成のようだ。
「危ないと思うなら、アラン。お前が守ってやれば良いじゃねぇか。そうだろ?」
「まぁ、確かにそうですけど。それでも、守れるかどうか不安ですよ」
「大丈夫。リリィだって戦えるよ!」
そうか。そういえば、リリィには精霊魔法があったな。
実際に見たことはないけど、普通の魔法程度なら自分の身を守ることも出来るだろう。
危ないし、危険だろうけど。
――冒険者は自由だ。
なら、リリィの意志を尊重しよう。
「わかった。じゃあ、一緒に行くか。ただ、その前に実力は実戦前に見せてもらうからね」
「うん。頑張る」
「よし、じゃあこの依頼にサインしな」
リリィがノインさんからの依頼書にサインするのを見る。
一抹の不安は残るが、リリィを守る。それだけはなんとしてもしてみせよう。
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