第62話 自由22
目を覚ますと目の前にジークがいた。
「お、起きたか!」
「ジークか。いまはいつだ?」
「ちょうど、半日と少し経った早朝ってとこだ」
「そんなに寝てたのか」
上半身を起こす。肩には包帯が巻かれていた。
「うちの魔法使いに治癒魔法をかけてもらったんだ。感謝してくれよな」
「なるほど。通りで痛みが少ないわけだ。有難いね」
「で、だ。今回の件、アランはどうするんだ?」
「別に私は討伐証明の首と依頼の報酬金が貰えれば構わないよ。あ、でもジーク達はランクアップも兼ねていたんだっけ」
「いや、それについて話し合ったんだが、まだ実力不足だと実感したんだ。だから、今回はランクアップは見送ろうと思う」
「そっか。分かった。じゃあ、幼龍の遺体は任せるよ」
「それは嬉しいけど、本当に良いのか? 幼龍だとしてもかなりの金額になるはずだぞ」
「良いんだ。私は、報酬金が貰えればそれで良い。それに、私一人で倒したわけじゃない。ジーク達と一緒に倒したんだ。そうだろ?」
そう言うと、ジークは目を潤ませて感動していた。
他のメンバーも同様に感動している。
そんなおかしい事言ったかな?
「なんて寛大な人なんだ。独り占めしたって文句無い状態なのに! アニキと呼ばせてくれ!」
「あ、アニキ? まぁ、別に良いけどさ」
「とりあえず、アニキは休んでてくれ。回復魔法を掛けたからと言って、直ぐに治癒できるわけでもない。あと一日は安静にした方が良い」
少し考える。確かに、身体は未だに悲鳴を上げている。
中級ポーションに回復魔法を掛けてもらったとしても、肋骨や足にはかなり痛みが走っている。
ここは甘えさせてもらって一日休ませてもらおう。
疲労が残っていたのか直ぐに眠ってしまった。
起きた時にはもう太陽が燦燦と輝いている。
目が光で眩しい。
「お、アニキ起きたか。一日ずっと寝てたからビックリしちまったよ」
「い、一日も寝てたのか!?」
「あ、ああそうだよアニキ」
一日ってことはもう12日はかかったということか。
帰りには10日かかるとしたら日数はかなり危ない。
直ぐに出なくては!
「悪いけど、私はそろそろ行くよ」
立ち上がり、装備を点検する。
うん。大丈夫だ。
「アニキ、もう行っちまうのか? それに怪我は大丈夫なのか?」
「中級ポーションに回復魔法を掛けてもらったからもう大丈夫さ」
実際に、もう痛みはそこまで感じない。
多少痛むがその程度だ。
これなら旅にも支障はないだろう。
横に置いてある幼龍の首を布で包む。
「じゃあ、悪いけど先に行くよ」
「分かったよアニキ。俺たちは遺品とか幼龍の遺体を集めたら首都に戻るつもりだ」
「そうか。じゃあ、また首都で会おう」
「ああ、じゃあまた会いましょうアニキ!」
ジーク達に手を振って別れを告げて、自分の馬に向かう。
馬の背に布で包んだ幼龍の首と背嚢を固定して、自分も馬に乗る。
「さぁ、出発だ」
道は順調だ。魔物は一向に現れない。
だが、馬をここで潰す訳にはいかないので、一日に4回の休憩を取って、充分に休息を取る。
馬を走らせて6日目に村に到着した。
宿屋に一泊する事を告げて、馬を馬小屋に入れる。
余りにも疲労していたようだ。ベッドの上に横になると食事も取らずに直ぐに寝てしまった。
次の日、目を覚まして、朝食を取る。
そして、装備の点検をしてから馬小屋の馬に乗り、村を出た。
一応、村長に幼龍を討伐した事を言おうかとも思ったのだが、そんなことをしたら絶対に村はどんちゃん騒ぎになり、宴会に巻き込まれるだろう。
それでなくても日程が厳しいのだ。
ここはジーク達に任せて、そのまま去るのが賢明だろう。
4日目に首都の西門に着いた。
だが、西門に多くの馬車や商人に冒険者達が並んでいた。
それは余りにも長い行列になっている。
そう言えば、奴隷のオークションが開催されるんだ。
この人の群れはそのオークションに参加する人達の群れなのだろう。
失念していた。これでは、今日中に首都に入る事は出来なさそうだ。
どうにかして首都に入るか?
無理やり突破するとかか? いや、そんな事したらもっと危険な状態に陥る。
それは無理だな。
仕方ない。ここは順番待ちするしかないだろう。
案の定、日が暮れた時に門が閉められた。
そこにはまだ人の群れが半分ほど減った程度だ。
私の後ろにもかなりの人が行列を作っていた。
とりあえず、今日の検問は終わった。
明日を待つしかないだろう。
次の日になる。まだ、行列は捌き切れていない。
私が検問を受ける頃には太陽が真上を射していた。
もう、昼になってしまったか。
とりあえず、レンタルしていた馬を返してから、荷物を背負い、幼龍の首の入った布を片手に持つ。
冒険者ギルドに着いて直ぐに受付に行く。
相変わらず、ノインさんの列には誰もいない。
肘を付いて窓の外を眺めている。
その相変わらずな姿にくすりと笑いが漏れた。
やっと戻ってこれたんだな。
そう思った。なんだか安心してしまう。
ノインさんの所に向かう。
「やぁ、ノインさん。元気ですか?」
ノインさんは私の声に反応して、こちらを見ると驚いたような顔でこちらを眺めてくる。
「おう、アランじゃないか。どうした? 幼龍の討伐に失敗して戻ってきたのか?」
「はははっノインさんはいつも通りですね」
「なんだよ。そのいつも通りってさ。良い意味に聴こえないんだけど」
「いえ、良い意味で言ったんですよ。なんだか安心しました」
「っと、これをお願いします」
布に包まれた幼龍の首をカウンターに置いた。
「ん? これはなんだ?」
「まぁ、見てみてくださいよ」
ノインさんはおっかなびっくり、ゆっくりと布の結び目を解いていく。
そして、幼龍の首が出てくる。
「は? これなに?」
ノインさんは開いた口が塞がらないかのように問い質してくる。
「幼龍の首ですよ」
「え、えええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!」
「本当にた、倒したのかよ!」
「はい、倒しました」
ノインさんはそのままくらりと頭を抱えて座り込んでしまった。
「とりあえず、討伐証明の首を持ってきたんで、報酬金をお願いしますね」
「あ、ああ。分かったよ。ちょっと、落ち着いたら持ってくる」
しばらく、ノインさんが立ち直るのに時間が掛かった。
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