第61話 自由21

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


身体を拘束するような歪な魔力が吹き飛び、身体が軽くなる。


「ジィィィイク! 生き延びたいなら戦うか逃げろ!」


叫んだ。その隙に幼龍は弓兵部隊にブレスを吐きながらその場で回転する。

弓兵部隊の5人がそのブレスに巻き込まれて焼け死ぬ。


もうジーク達は20人いたパーティーが10人までになっていた。


「に、逃げたいものは逃げろ! 戦えるものは戦うぞ!」


傷口を深くするために同じ個所に剣を連続で叩きこむ。


幼龍は私を敵と認識して、噛みついてくる。

それを転がって躱す。

そこに鋭く尖った足が襲い掛かる。

その爪は一つ一つが精錬された剣のような鋭さを持っている。

刺されば人なんて一撃で屠られるだろう。

相手の一撃。

そのどれもが致命的な一撃になるのだ。


魔力を込めた足で地面を蹴って後ろに下がる。


ジーク達がこちらに向かって来る。

総勢6名だけだ。


重装歩兵が2名とジークと剣士で2人に魔法使い1名だ。


弓兵部隊は全員死んだか逃げ出していた。


幼龍は首筋から血を流しながらも私達に向けてブレスを吐く。


「散開しろぉ!」


ジークの声に全員がその場を離れる。


だが、重装歩兵の2名が逃げられずにブレスの餌食になる。


「ギャアアアア!」


「うわあああああ!」


その声を背に私は首筋の傷に剣を叩きこむ。

何度も何度も叩き込む。

その傷口はもうすでに4分の1まで来ていた。


「ジーク! 投網を掛けてくれ! そうしたら俺が倒す!」


「わ、わかった」


幼龍が尻尾を振り回しながら一回転する。

尻尾を身体を伏せて躱し、頭が戻ってくる時に傷口にもう一撃加える。

今度は幼龍のスピードが上乗せされていたのでかなり深くまで斬り込めた。


「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」


咆哮が襲って来る。

身体が言うことを気かないかのように鈍くなる。

幼龍の牙が開かれて私目掛けて迫ってくる。


身体が動かない。

プレッシャーで押しつぶされているかのような重さが全体に圧し掛かってきている。

死ぬのか?


いや、死ねるかよ!


こんなところで死んでたまるか!


俺はまだ、死ねないんだ!


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


全力でその場を転がる。

肩を牙で少し抉られた。

血が肩から流れ落ちる。


ポーションを飲んで瓶を地面にたたきつける。

痛みが和らぎ、少しずつじくじくと傷口が熱を持ってくる。


幼龍の連撃は止まらない。足による二連撃に噛みつき。

片翼の薙ぎ払いも来る。


その全てを回避し、首筋を狙い続ける。


「行くぞ! アラン!」


投網が再度かけられる。


それは折れた片翼と頭に引っかかる。

幼龍はその投網に引っ張られて身動きが取れていない。


ここだ。ここに全力を込める!


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


全魔力で上段に構えて大地を蹴る。

固定された頭の傷口に一撃が叩きこまれ、より深く鮮血が飛び散る。


「まだまだあああああああああああああああああああ!」


大地を全力で足で減速し、反転。

また、足から千切れるような音と骨が折れる音が聴こえる。


居合の構えにて全魔力で抜刀。

それは、首筋を逆袈裟に大きく傷をつけた。


幼龍からボタボタと首筋から血が流れ落ちる。

地面に赤い血だまりを作っている。

だが、倒れはしない。


尻尾の攻撃が来る。

身体を伏せて回避。

足の二連撃を転がって回避し、

最後の頭での噛み付きもすんでの所で躱す。

しかし、片翼の薙ぎ払いを胴に思いっきり入った。

メキメキと嫌な音がして吹っ飛ばされる。


「グフッ!」


「アラン! 大丈夫か!」


肋骨が軋み、鈍い痛みが襲う。

ああ、このまま沈んでいたい。そう欲求が生まれてくる。

こんな相手に勝てるはずがなかったんだ。

龍だぞ? そんな相手にちっぽけな人が勝てるわけがない。

眠気が襲って来る。魔力切れの兆候だ。

このまま眠気に身を任せたい。

だが、それは確実な死を意味する。

指のおもちゃの指輪が光った。


そうだ。そうだったな。

こんな所で死ぬわけにはいかないんだよ!


すぐに立ち上がる。立ち上がらなくては!


「あ、あぁ」


中級ポーションを飲んで地面に容器を叩きつける。


幼龍も身体が鈍くなっている。


もう幼龍も限界なのだ。


投網を振り払う力もないのだ。


幼龍にゆっくりと近づく。


幼龍は恐れているのか逃げようと必死になっている。


口から洩れる咆哮にも最初の頃の威圧感はない。

もう限界なんだな。

俺も限界だ。


「さあ、最後にしようぜ」


幼龍は投網に引っかかって逃げる事が出来ない。


頭部の目の前まできた。


上段に片手半剣を構える。


「はああああああああああああああああああ!」


全身の細胞を活性化させて魔力を爆発的に増やす。

その魔力は炎のように身体を覆う。

全魔力で大地を蹴り、首筋に右袈裟に斬り付ける。


「ハッ!」


そして、余裕を持って反転。


最後に全魔力を込めた紫電の太刀で首を狙う。


「終わりだああああああああああああああああ!」


それはおもちゃのような音を出しながら、幼龍の頭部が空へ投げ飛ばされる。

それと同時に、首筋から鮮血が血の雨となって辺りに降り注ぐ。


幼龍の身体がゆっくりと地面に倒れ伏し、大きな音を響かせた。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


雄たけびを上げていた。それだけ、激戦であり、何度も死を覚悟した戦いだった。


身体中が痛みで軋んだ。

それと同時に魔力切れの兆候が表れる。

最後の中級ポーションを飲んで地面に容器を叩きつける。


ギリギリの攻防だった。

ジーク達冒険者達がいなければ勝てなかっただろう。


そのジーク達も20人いたパーティーがジーク含めて6人にまで減っていた。


それほどの激戦だったということだ。


幼龍とはいえ龍。

やはり侮れないあいてだったということだな。


魔力切れで眠気と疲労が襲い掛かってくる。


特に、疲労は限界を超えていて、もうボロボロだ。


ジーク達がこっちに向かって来る。


「おおおおい! アラン! 無事か!」


「あ、あぁ」


「もう、限界じゃねぇか!」


「魔力切れなんだ。もう、眠くて動けそうにない。あとは任せた」


「おい! 何言ってんだよ! 大事なことが残ってるだろっておい!」


そう言って、私はジークに体を預け、

その声を後に、目を閉じた。

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