第59話 自由19
ドアをノックして尋ねる。
すると、少しして中から誰かが近づいてくる音が聴こえてきた。
そして、ドアが開かれる。
「誰ですかな?」
その姿は行きの時に私に幼龍退治を依頼してきたその人だ。
あの時にはキースさんを使って追い払ったけど、結局、私が倒しに行くことになったのだから何とも言えない複雑な気持ちだ。
「ええ、以前に大規模な冒険者パーティーがこの村で一泊したと聴いたのですが……」
「おお、そうですな。つい、2日前程の事だったと思いますぞ」
「で、ですね。覚えている限りで良いので冒険者の事について教えて欲しいのですが」
「ふむ。まず、あなたは何をしにこの村へ?」
「幼龍退治の依頼を受けてきました」
「なんと! 一人でですか?」
あの時は冒険者が私だけだったのだけど、そこに驚くってなんでなんだ?
もしかして、幼龍の腹を満たすために誰でもいいから冒険者を生贄にしてたとかそんな暗い話じゃないよね?
「ええ、その通りです。ですが、当然、実力はあると思ってくれて構わないですよ」
いえ、嘘です。ごめんなさい。
でも、こうでも言わないと信用してくれなさそうだし、仕方ないよね。
「そうでしたか。2日前の冒険者ですが、リーダーはジークという若い男でした。山のどのあたりに龍を見たのかとか頻度はとかそういうことについて尋ねていましたね」
大規模冒険者パーティーのリーダーはジークっていう男か。覚えておこう。
「なるほど。他のメンバーがどのような格好や武器を持っていたかとか教えてくれませんか?」
村長は頭を抱えて考え込んでいる。
「んーそうですなー。確か、大きな盾を持った男が4人に弓矢を持った男女が8人。あと、杖を持った者が2人に後は、普通の剣を持った冒険者が6人と言った所でしょうか。馬車を3台連れて、山に向かっていましたね」
「ありがとうございます。今日は一泊して、明日の早朝に幼龍退治に向かいたいと思います」
「ええ、頼みましたぞ」
村長は前のパーティーに期待しているようで、私には軽い言葉で返していた。
まぁ、一人だからそう取られても仕方ないか。
それにしても、
大楯を持った男が4人。
弓矢を持った男女が8人。
杖ってのは多分、魔法使いだろうそれが2人。
それに冒険者が6人か。
どういう戦術だろうか。
重装歩兵が4人前衛に立って、けん制。
その間に前後左右から遊撃するスタイルなのかな?
これだけの情報だとまだわからないな。
それに魔法使いの事も気になる。
赤龍ってことだから火魔法は効果が薄いだろうからそれ以外の魔法を使うと思われる。
まぁ、これもただの推測だけどさ。
魔法なんて使えないからな。ただの適当な考察だけさ。
さて、まずは水を買おうか。
その後はとりあえず、剣と魔闘気の鍛錬をしたら今日は早めに寝よう。
4日とは言え、少し疲れてしまった。
それだけ、一人旅は気が張ってしまうからね。
次の日、五日目だ。村から北上して山に向かう。
森の中を進むので、馬の進む速度は遅いが、先を通ったであろう馬車の大きな跡が残っている。
彼らが戦う頃には参加出来そうかな?
魔物にも襲われないため、道中はスムーズだ。
もしかしたら、先に先行しているパーティーが倒していたのかもしれないけどね。
森の中をスムーズに進んでいる。
あれからもう5日は経っていた。
馬車の跡は次第に濃くなっている。
そろそろ見えてきてもおかしくないだろう。
そして、次の日の昼頃に馬車が3台止まっているのを見つける。
大規模パーティーに遭遇できた。
出来れば、話の合う人だと良いんだけどな。
馬を下りて、近場に繋いで馬車の方へ向かう。
「あのー……すみません」
馬車の中を覗く。
だが、誰も中にはいない。雑貨があるだけだ。
他の3台も同じように誰もいなかった。
なので、歩いてもう少し先に進む。
半刻程で、山と森の切れ目に到着する。
と、そこに大勢の人がいるのが確認できた。
穴を掘っているようだ。
また、大きな岩を何個か穴の付近に置いているのも見れた。
それを色々と声を出して指示をしている人物がいる。
多分、彼がこの大規模パーティーのリーダーのジークだろう。
「すみません。あなたがジークさんですか?」
ジークさんに向かいながら声を掛ける。あちらはこちらを見て、訝しげにしている。
そりゃそうだ。こんなとこに一人で来るなんて酔狂と取られても仕方ない。
まぁ、実際その通りだけどさ。
「あなたはいったい?」
「私は冒険者のアラン。今回の幼龍討伐の依頼を受けたものです」
彼は納得したようだが、仲間が誰もいない事に違和感を持っているようだ。
「なるほど。でも、仲間は誰もいないのか? 幼龍程度と言っても簡単に倒せるものではないぞ」
「それはそうなんでしょうがね。まぁ、私一人なんですよ。それだけ実力はあると思ってください」
「ほぅ……なるほど。剣を使うみたいだが流派と級位は?」
「流派は紫電流。級位はちゅ……いえ、上級です」
「その若さで上級か! なら、一人なのも多少は納得できるな。でも、悪いが、こっちが先に仕掛けをしているからそれが失敗するまでは手を出さないでくれよ」
ごめんなさい。上級だか中級だかわかりません。嘘つきました。でも、しょうがないよね?
「ええ、分かっています。ただ、チャンスがあったら手を出しても良いでしょう? 討伐依頼は早い物勝ちですし」
「そうだな。だが、まぁ見てろよ。こんだけ念入りに準備しているんだ。倒して見せるさ」
「そうですね。では、お手並み拝見させてもらいますよ」
そう言って、その場を後にする。
彼らは大きな穴を掘っている。
恐らくだが、なにがしかでその穴に落として、岩や弓矢で攻撃すると言った所だろう。
原始的だけど、効率的だろう。
少し懸念があるとしたら、幼龍とは言え翼を持っている。
穴に落ちたからと言って、直ぐに抜け出してしまう可能性も無きにしも非ずだ。
まぁ、そこらへんはあのジークさんがなんとかするんだろう。
こっちはこっちで、見学させてもらうさ。
狙うは漁夫の利だ。
良い頃合いを見て、討伐させてもらおう。
幼龍の討伐証明は頭との事。
頭を刎ねればそれで良いのだ。
ただ、龍の鱗は鋼のように固いとノインさんが言っていたな。
この剣で斬る事が出来るだろうか。
いや、やらなくてはいけないんだ。
寝床を用意し、神経を研ぎ澄ませる。
不安を消すかのように剣の鍛錬を行う。
大丈夫。大丈夫さ。
ジークさんもあんなに余裕そうだった。
倒せないなんてことはないだろう。
事故なんてあるはずないさ。
私は、どさくさに紛れて首を貰って、逃げればいい。
そうすれば報酬金は手に入る。
そうさ、無理して危ない橋を渡る必要なんてないんだから。
そうは思っても、不安は心から取り除けない。
薄い膜のように心の中にあり続ける。
言いようもない気持ち悪さがする。
魔闘気の鍛錬を終えて、体を拭いて、から寝床に横になる。
彼らも馬車に戻って寝ているようだ。
もう十日も経ってしまったんだな。
早く、倒して首都に戻らないと。
間に合わないかもしれないじゃないか。
でも、そんな簡単に倒せるのか……。
一抹の不安を抱えながらも私はそのまま寝てしまった。
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