第58話 自由18

 城門を馬を引いて、出る。

入る時には検問があるようだが、出るときには検問は必要ないようだ。

簡単に出る事が出来た。

人の波が無くなったところで、馬の背の背嚢が落っこちないか確認して、馬に乗る。


そして、ゆっくりと次第に早く走り出していく。

どんどん早くなっていく。

だが、お尻が痛くなる。


「いててっ」


2時間程経って、休憩をすることにしたのだが、その時にはかなりお尻が痛くなっていた。

今まで、馬に乗った事がないので上手く乗れてないのだろう。

お尻がかなり痛くなっていた。

馬に乗っている人はどんな風に乗っていたんだっけか。

競馬とかだと、前傾姿勢になって馬の前後する動きに合わせていた気がする。


試してみるか。まぁ、まだ時間はあるんだ。ゆっくりと慣れていこう。



休憩後、また乗馬して走り出す。

今回は前傾姿勢になって、膝を折って馬の前後するリズムに合わせている。

大分、前の時よりお尻が痛くないし、楽になった。

足に結構、疲れが溜まるが、これなら長時間乗っても耐えられそうだ。


昼に休憩をまた取る。小川で馬に水を飲ませながら考える。

結構なスピードで首都から出ることができた。

ただ、その分、馬の消耗が激しい。

馬には帰りにも頑張って貰う予定なので、行きだけで馬を潰すことなんて出来ない。


これは少しペースを落として行くべきか。


首都から目的地の山までは十日かかる。

往復で二十日だ。今は四月の第一週目だから、そこまで時間があるわけではない。

だが、幼龍退治が1日や2日程度で倒せれば、大分余裕が出来る。

この差は重要だ。

馬には無理をさせないようにしよう。

水を飲んで、草を食んでいる馬の頭を撫でる。


「頼んだぞ。お前だけが頼りなんだからな」


馬は鼻を鳴らして嘶く。


私も、干し肉を食べて休憩する。

たっぷりと30分程の休憩を取ってから、再度、馬に乗る。


「さぁ、行こうぜ。相棒」


乗馬にも慣れてきて、進む行先は順調だ。

この調子で行こう。


途中、魔狼3匹に襲われた。

馬はかなりビビッて逃げようとしたが、馬の前に立ちふさがって魔闘気を纏わせると馬が逃げる事は無くなった。

動物は敏感に頼れる者を感じ取れるのだろうか。


まぁ、良い。今は魔狼退治だ。


ホルスターからダガーを4本取り出して、

魔狼の先頭の1匹目に2本投擲する。

続いて、2匹目に2本投擲。


ダガーは1匹目の首と心臓に刺さり、そのまま倒れる。

2匹目も首と足に刺さった。即座に死にはしないが、その場に倒れ込む。


最後の3匹目は紫電の太刀で首を刎ねた。

剣を一閃して血を払う。


まだ、生きている個体に止めを刺して魔石とダガーを回収した。


馬は安心したのかもう怯えてはいない。


「ふぅ……さて、行きましょうかね」


馬に跨って、先を進む。


その日はそれ以外に魔物に会うこともなかった。


夜、日課の鍛錬を行う。

そういえば、最近鍛錬をやっていなかったなと思った。


馬車の生活に慣れて、気が緩んでしまったのかもね。

これは、より一層身体を痛めつけないといけないな。


深夜まで剣技と魔闘気の鍛錬をしてからその日は眠りに付いた。

横になると馬が真横に座ってくる。


「なんだよ。お前、結構、寂しがり屋なんだな」


笑いながら頭を撫でる。

馬は本能的に私の横が一番安全だと思ったのかもしれない。

でも、それだとしても私にとっては寂しさが紛れる行為であり、癒しだった。


「一人は寂しいもんな」


ぽつりと心に沸いた言葉が口に出る。

一回出てしまうと波のように寂しさが心を襲って来る。

アレンはどうしているのかな。

師匠はいつものようにしかめっ面をしているのか。

デニスさんはいつものように公正公平な仕事をしているんだろう。

そして、エリカはもう目は覚ましたのかな? 

それとも、もう目はとっくに覚めて、何かしているのかもしれない。

彼女の行動力からしてその可能性は高いだろう。

また、デニスさんを困らせているんだろうと思うと笑みが浮かんだ。


カラエドのみんなは何をしているのかな。


思えば、カラエドを出た時と一緒で今は一人だ。

まぁ、違いがあるとすれば馬がいるってことくらいだけどさ。

やっぱ一人は辛いよ。


ジャックとエリシャさんの事も考える。

今は狩猟期間も超えた事だから違う仕事をしているのかもしれないな。

思えば、ジャックとエリシャさんにもかなりお世話になったものだ。

期間は一ヶ月だけど、それでも楽しかった。

なにより、あの夫婦を見ているとそれだけでこちらも幸せになってくるのだ。

それくらい仲が良い夫婦だった。


それに比べて今はどうだ?


見っとも無い。ただ、それだけだ。

子供の癇癪を起したようにムキになって危険に飛び込んでいる。


このままじゃだめだ。


明日も鍛錬を積もう。心を無心にして、闘気を剥き出しにするのだ。

強大な敵だ。

なんていったって龍だ。

生半可な考えで倒せる相手じゃない。


策を弄し、こちらの土俵に持ち込まなくては勝ち目なんてないだろう。


だのに、未だになんの戦法も浮かばない。


そう言えば、2日前に20人規模のパーティーが幼龍退治に行ったとノインさんが言ってたな。


その人達と連携すれば上手くいくかもしれない。

それにかなりの大規模だ。

勝算はあるのだろう。


だけど、それに乗るってことは報酬金も減るってことだ。


協力はできない。

泥棒のようだが、横から掠め取るくらいの勢いで行かないとダメだ。


でも、少し話してみたくなった。


どんな策で倒すのか。興味が沸いてくる。

道中か目的地で会えるだろう。

その時を楽しみに待つことにした。


そうして、その日は眠りについた。



 早朝、モゾモゾと寝床から這い出て、干し肉を齧る。

そう言えば、昨日は鳴子もせずに寝てしまったな。


「なにやってんだか……」


夜に魔物に襲われてたら寝ている所を一方的に襲われていただろうに。

その危険性を考えずに爆睡なんて、気が緩んでいるとしか言いようがなかった。


まぁ、良い。今日から気を付ければ良いんだから。


水を補給して、馬に跨る。


二日目にして、結構慣れてきたもんだ。

馬のリズムに合わせて体重移動をすると楽になる。


ただ、それだけ腰と足がパンパンになってしまうのだけどね。


今回も休憩を何回も取る。


昼間でに小休止を取り、昼に30分程の休憩。

その後、2時間程で15分程の休憩を取ってからまた走らせて、夕方になったところで本日の移動は終了だ。


軽い夕食を食べた後、剣技と魔闘気の鍛錬を行って、鳴子を用意して寝る。


次の日も、同じようなルーチンで行く。


四日目の昼には隣村に着いた。

宿屋で今日は一泊する事と、代金を払い、馬に干し草と水を上げてもらう。


宿屋の人に聞くと、20人規模の冒険者がここで一泊したということを聴いた。


村長に聴けばもっと詳しい話を聴けるかもしれない。


私は、村長宅を村の人に聴いて、直ぐに村長宅に向かった。


「すみません。村長さんはいますか?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る