第45話 自由5
夜中、リリィが寝静まる頃に魔闘気の鍛錬をする。
いつもの鍛錬を行う。武器に魔闘気を纏わせ聴覚、視覚を強化する。
その後に、爆発的に魔闘気が増える技を行う。
「ふぅ…………ハッ!」
瞬間的に魔力が爆発的に増える。炎のように体の周りを魔力が覆う。
その状態を1分間続けて止める。
そして、また同じく炎のように魔闘気を纏い、今度は30秒続けて止める。
今度はそれを20秒で、10秒でと短くしていく。
5秒で消す事は出来なかった。
「ダメか……」
この鍛錬は以前にオーガの変異種と戦った時に、知らずに出来た私の切り札だの改良だ。
いつものように魔力を垂れ流し続けていくと5分で魔力が枯渇して、眠気と怠さが襲って来るのだが、それを一瞬だけ技を使用して魔力が枯渇しないようにする節約術だ。
これが思う通りに出来るようになれば攻撃する瞬間だけに爆発的な魔力で敵を斬る事も出来るはずなのだ。
それが出来れば、かなり戦いの幅が広がる。硬い甲殻に覆われた敵や盾や鎧で武装した相手も斬る事ができるだろう。
まぁ、人相手に使いたくはないのだが、もしかしたらそういう状況もあるかもしれない。
出来る事は増やしておくことに越したことはないのだ。
だが、魔闘気を爆発的に増やすには溜めが必要だ。大体、最低でも10秒から20秒程。精神を集中してこんなに時間がかかるのだから、戦闘中には更に時間が掛かるかもしれないな。
まぁ、これが最初出来た時は変異種のオーガが私の事を格下と舐めていた。ゆっくりとのんびり歩きながら近づいてきていたから出来た技だ。
もし、あの時、あの変異種のオーガが走りながら襲ってきていたらこの技を使うことも出来ずに殺されていただろう。
まぁ、出来たけど瞬動と紫電の太刀を使っただけで右足の骨折と筋が切れてしまったのだから身体が耐えられなかったわけなんだけどね。
だからこその攻撃の瞬間に出来ればという発想だ。
そうすれば身体への負担はかなり減る。
何度もこの技を使うことが出来るかもしれないからだ。
切り札があっても切り札が使えなかったり、その後に負傷なんてしまったら意味がないからね。
これも立派な工夫だ。
しかし、それも20分程で、魔力切れの兆候が表れる。
いかんいかん。私は護衛なのにこのまま寝てたら意味がないじゃないか。
気合で眠気を耐える。
窓の外を見ると月の光を受けて小さく白い光が地面に降っていた。
――雪だ。
ジャックと狩りをしていた時も雪が降った事は一回あった。
あの時は寒かったなぁ。寒い森の中を雪を踏みしめながら得物を一日中探し回ったっけ。
結局、見つからなくて木も湿って火を起こせないから村に帰る羽目になっちゃったんだよね。
今夜は冷えるだろうな。
自分用に貰った毛皮をリリィのはみ出している肩にかける。
身体は寒かったので外套で身体を丸めてその夜は耐え忍ぶのだった。
早朝、使用人の人達とキースさんが昨日、焚火をしていたところの雪をどかしている。辺りの横倒しになっている木や石に毛皮や布を敷いて、その上に座っていた。
火は起こせないだろうなと思ったのだが、なにか正方形の金属で出来たものを持ってくる。
なにかを操作すると正方形の中心から火が点いた。
おお、あれは火を点ける魔道具か。便利なものを持っているな。流石、高級奴隷商人と言った所だろうか。
リリィも目を覚ましたので「おはよう」と二人で挨拶を交わす。
上半身を起こすと寒さと外の一面が真っ白な光景に少し驚いているようだった。
「……寒い」
「昨日の夜に雪が降っていたからね。少し、積もったみたいだよ」
「……綺麗」
蒼い瞳で窓の外を見る。心なしか彼女の瞳が輝いているように見えた。
と、腹の虫が鳴った。
「ご、ごめん」
「私もお腹空いた」
「そっか。じゃあ、貰って来るよ」
外に出て、キースさん達の下に向かう。
「おはようございます。キースさん。その四角い金属の物って魔道具ですか?」
「おはようございます。アランさん。そうですよ。魔石を燃料にして火を点ける魔道具です。錬金術師が作った代物で大体、100コルくらいするんです」
「へぇ……雨が降ったり、こんな雪が降っていると木が湿って火が起こせないから重宝しますね。私も欲しいくらいです」
「あるとかなり便利ではありますよ。ただ、燃料にする魔石が直ぐに減ってしまうので燃費が悪いのが玉に瑕ですけどね」
「なるほど。私は冒険者なので魔石は換金する物だと思っていましたけど、こうやって魔石を使って生活を便利に出来る魔道具があるって言うのは良いですね」
実際に、魔石を燃料に火を点ける魔道具を見ると便利だなぁと思う。こんな雪の降り積もる中でも火が起こせるんだから旅をする人たちにとってはかなり有用な魔道具だ。
「面白いですよね。魔物は野生生物にとっても人にとっても害悪です。ですが、その魔物からとれる収集物や魔石は私たちの生活を豊かにするんです」
確かにそうだな。魔物も悪いだけじゃないんだ。まぁ、人や野生生物を襲う点については許容できないけど。魔物から取れる魔石は様々な道具として利用される。
「まぁ、その魔物が危険なんですけどね」
「ははは、そうですね。でも、そこは冒険者の方々が頑張って頂いていますから」
「それが冒険者の仕事の一つですからね」
そう答えて、食事を受け取ってキースさんの下を去る。
馬車に戻り、リリィに食事を手渡す。
そして、二人で食事を始める。
リリィは雪が気になるのか今日は窓の光景を見ながら食事をしている。
雪なんて見ても大したもんじゃないけどな。滑ったら危険だし、雪かきは大変だし。って、それは現代世界についてだったな。
まぁ、歳相応の仕草だ。可愛らしいもんだな。
食事が終わって、片づけが終わったら馬車が動き始める。
道は雪が降っているので、進む速度もそこまで早くない。
「リリィは雪で遊んだことはあるかい?」
「雪で遊ぶ? ……ううん。ないよ」
リリィは雪で遊んだことがないようだ。なら、気になるのも仕方ないか。
「じゃあ、昼の休憩の時に雪だるまを作ろうか」
「雪だるま? それって何?」
「雪が降ったら作る定番の物さ」
「……わかった」
リリィは両手をギュッと握っている。少しは楽しみに思ってくれたのかな。ちょっと、気分が良さそうだ。
「とりあえず、昼まで寝るから後はよろしくね」
「うん。おやすみなさい」
その声を聴きながら体を横にして、外套で身体を丸めて眠った。
昼になった。昼食に軽い軽食を取った後、扉を開ける。
「ほら、リリィ。雪だるまを作ろう。」
手を差し伸べる。リリィはゆっくりと私の手を取って、外に出る。
「……寒い」
「そりゃあ雪だからね。じゃあ、雪だるまを作ろうか。まずはこうやって雪を丸めて転がすんだ」
雪を丸めて転がす。そうして、雪玉を少しずつ大きくしていく。
リリィも見様見真似で雪玉を丸めて転がす。
「それで、大きくなった雪玉を合体させてっと。これで雪だるまだ。ちょっと味気ないから木の実と木の枝で顔と手を作ってあげようか」
リリィの作った雪玉と私の作った雪玉を二つ合わせる。そして、木の実と木の枝で顔を作る。
不格好だけど、小さな雪だるまが出来た。
「……可愛い」
リリィは雪だるまの出来に満足しているようだ。ちょっと変な形の雪だるまだけど喜んでくれてよかった。
やっぱり、リリィも女の子なんだな。
「さぁ、そろそろ戻ろうか。休憩時間も終わりそうだしね」
「うん。……あのねお兄ちゃん。これ、持ってっても良い?」
「ああ、良いよ」
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