第30話 羨望8

 早朝、宿屋のおばさんの朝食を食べる。

お、今日は焼き魚とスープに玄米か。うん。美味しいな。

朝食に満足して、荷物を持って冒険者ギルドに向かう。

おばさんにジャックがきたら冒険者ギルドにいるということを言伝を頼んだ。


冒険者ギルドでは、もうギルド長が受付で目を擦っていた。


「お、待ってたよ。アラン。さぁ、そこの机で待っててよ」


言われた通り、机に席を引いて座る。直ぐに受付からギルド長がやって来て、対面に座った。


「んで、アランの報告は一旦置いておいて、こっちの話から良いかい?」


「ええ、わかりました」


「とりあえず、村の被害を昨日調べたんだけど、どうやら家畜の山羊が1頭いないらしい。どうやら、ゴブリン達に夜中に捕られたようだね」


「そうですか……それ以外に被害はありましたか?」


「いや、幸いなことにそれ以外に被害はなかったよ。これが、女性だったらかなりの大問題になってたところだね」


ゴブリンはメスが生まれない。なので、人族の女性を狙って、繁殖を行うのだ。その繁殖力は凄まじく、一週間で胎児が生まれ、一週間で大人になる。

村に女性の被害者はいなかったが、もし出ていたら、一ヶ月で爆発的に増えていただろう。


「そうですね。でも、それについては問題なかったみたいで良かったです」


「んで、今度はアランの話を聴いても良いかい?」


「はい。ゴブリンの群れはここから5時間ほどの山の岩壁の洞窟に巣を作っていました」


「あらら、かなり近場に巣を作ったみたいだね」


「そうですね。規模は23匹の群れで、上位個体はゴブリンシャーマンが1体。10体がかなり連携をして戦術を知っているような動きで戦っていましたね。残りのゴブリンは新入りなのか通常のゴブリンと同じく戦術なんて知らずに突っ込んでくるだけでした」


そう言って、ゴブリンシャーマンの杖を机に置く。それと、討伐証明の鼻も全て机に置いた。


「23匹にゴブリンシャーマンか。発見が遅れてもっと時間がかかっていたら、野生のゴブリンを吸収して群れの規模は今の2倍くらいまで増えていたかもしれないね」


「ええ、早期に発見して退治出来たので良かったです。これで、村周辺に魔物が現れることも多少は減ると思います」


「良くやったよアラン。本当は、巣穴だけ発見して、討伐隊を組んで退治しようと思っていたんだけど、23匹を一人で全部倒しちまうなんてね! しかも、上位個体もだ」


「ありがとうございます。まぁ、作戦が上手く行ったのと、運が良かっただけですけどね」


「それでも凄いさ。さ、冒険者証を出しておくれ」


「どうぞ」


ギルド長はそれに手をかざして魔力を込めた。淡い緑色に光り、光は消えていった。


「今のはいったい?」


「おや、Eランクなのに知らなかったのかい? 冒険者証に依頼の達成を記録したんだよ。魔力を込めるとカードに依頼の達成度合いやどのランクの依頼を何回達成したとかもわかるんだよ。まぁ、ギルド員だけが見れる機能だけどね」


「へぇー……そうなんですか」


知らなかった。Eランクにはなったけど、あれってカラエドのギルド長に知らぬ間にやって貰ったから見たことなかったんだよね。


「ゴブリンの巣穴の調査、討伐がDランクだからアランはあと、大体、Dランクを6回くらいやったらDランクになれるよ」


「ほう、そうなんですか。私がDランクにかぁ……」


「でも、Dランクってのは、誰でもなれる一種の壁だって言われてるんだよ」


「と、言いますと?」


「DランクってのはEからDランクの依頼。まぁ採取とか簡単な魔物の討伐を何回も繰り返せば、なれるもんなんだけど。Cランクになるには依頼の規定回数の達成の他に、Bランク以上の魔物の討伐をしてやっとCランクになれるのさ」


「え、それって一人だと厳しくないですか?」


「そう、だからパーティーを組んでBランクの魔物を討伐してCランクになるのが一般的なのさ。だから、実力が試される。腕が無かったらパーティーから追い出されるし、組んでももらえない。ランクアップは永久に無理ってこと。だから、DランクとCランクには超えられない壁と名声があるのさ」


「なるほど。でも、私はそこまでランクには拘ってないですし、そこまで気にしてないんですけどね」


「なんだい勿体ない。あんたならCランク。いや、それ以上になれる可能性だってあるのに。パーティーを組めば絶対にCランクになれるよ。それだけの器があるね」


「ははは……流石に褒め過ぎですって。私はそんな大したものじゃないですよ」


「……まぁ、こればっかりは本人次第だからね。でも、パーティーを組むことも考えたほうが良いと思うよ。旅は道連れ世は情けって言うし、なにより寂しくないし、安全だからね」


それは確かにそうかもしれないな。一人だと、飯の準備や薪を集めたり寝床の準備をしたり、罠を作って、夜の睡眠を確保したりと忙しいからなぁ。

せめて、一人だけでも増えたら労力は半分になる。大分助かるな。

ジャックと狩りを行っていた時もそう思った。


そのうち、パーティーを増やすことも考えてみるか。出来れば女性が良いな。むさ苦しい男より、花があるし、それにラッキースケベも……いやいや、何を考えているんだ。妻がいる身でこんな事を考えるなんて弛んでるぞ!


「ありがとうございます。前向きに検討しようと思います」


「そうかい? なら良いけどね。とりあえず、依頼の達成と討伐金額を渡しておくよ。討伐報酬150コルにゴブリン22体で66コル。ゴブリンシャーマン1体で15コルだ。合計で231コルだね」


銅貨2枚と鉄貨3枚に青銅貨を1枚受け取る。それを小袋に入れて「ありがとうございます」と言うと、ギルド長は少しため息を付いた。


「いったいどうしたんです?」


「いや、なにさ。隣町で行商人が盗賊に襲われたらしいんだ」


「行商人がですか。それは災難ですね。盗賊は捕まったんですか?」


「あぁ、おかげで保存食の値段も上がるだろうさ。それと、盗賊はまだ捕まってないんだ。それで、隣町では警戒が強くなってね。街道に兵士を置くようになったそうなんだ。それから盗賊の被害は無くなったみたいなんだけどね……」


その言葉の先がわかる気がする。っていうか、嫌な予感がひしひしと伝わってくる。


「もしかしたら、隣村のどちらかに盗賊が襲い掛かってくる可能性があるかもしれない。……ということでしょうか」


「そういうことさ。アランもジャックと森に狩りに行く時は何気なく気にかけておいてくれ。盗賊の痕跡や人数だけでもわかればそれだけで金は出すからさ」


「わかりました。気を付けたいと思います」


「あぁ、じゃあ頼むよ」


「ええ、では、またの機会に」


そう言って、私は立ち上がって冒険者ギルドを後にする。

盗賊か。いやいや、まさかね。そんな都合良く襲って来るわけはないでしょう。

流石に私の早とちりだ。


でも、その危機感はもやもやと心の中でずっと渦巻いているのだった。


 その後、道具屋にて魔法使い風のおばあちゃんに魔石の換金をお願いする。

ゴブリンの魔石22個とゴブリンシャーマンの魔石1個だ。

全部で196コルになった。銅貨1枚。鉄貨9枚。青銅貨が6枚だ。

小袋の中身がかなり増えたな。もう1500コルは超えていた。


この調子なら2000コルも間近だ。

まぁ、お金があったからってなにがあるわけじゃないんだけどね。


道具屋で買取をし終わった後、ジャックの家に向かう。


ジャックは外で毛皮になにかを塗って木の板に釘を打っていた。


「おはようジャック。今日も森の中に行くんでしょう?」


「おはようアラン。そうだね。とりあえず、もう少し待っててよ。家の中にいて良いからさ」


「わかった」


私は扉をノックしてエイシャさんが出てくるのを待つ。


「はーい。どちらさまですか?」


扉が開く。相手が私だと分かると、エイシャさんは両手を顔の前で合わせて喜んでいた。


「まぁ! アランさん。どうしたんですか?」


「ジャックから家の中で待つように言われましてね」


「そうでしたか。では、あちらにおかけください。お茶をお持ちしますね」


「どうもありがとうござます」


席に着いて、お茶を頂く。

ふぅ……和むなぁ。

エイシャさんを見ていると、小さな小動物がぴょこぴょこと歩き回っているようだ。

癒される。

こんな良い奥さんを貰ったジャックはもげたほうが良い。ていうかもげろ。


 私の妻もエイシャさんのようにいつも笑顔で活発な人だったイメージがあるなぁ。

エイシャさんに妻の面影を重ねながら、羨望の眼差しでエイシャさんを見続けるのだった。


それから1時間くらいして、ジャックは仕事を終えたのかエイシャさんから布を貰って汗を拭いていた。


「アラン。少し休憩を取ってから森に入りましょうか」


「わかった。今回も宜しくね」

「こちらこそ護衛よろしくね」

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