第29話 羨望7

 上段の構えでゴブリンが出てくるのを待つ。

白煙は洞窟の中にどんどん進入している。


15分程だろうか。魔闘気で強化した目に4体のゴブリンらしき魔力反応を見た。

それは、出口を求めて走りながらこちらに向かってくる。


初めに顔を出した1体を右袈裟に切り裂く。

そして2体目の首を刎ねた。

3体目は心臓に突きを繰り出して貫く。

最後の一体も首を刎ねて一撃で倒す。


空で剣を一閃して血を飛ばす。

周りにはゴブリンの死体が4体転がっている。全て一撃で仕留めている。

第一波は何とか目論見通りに行ったか。

直ぐに第二波も来るだろう。油断せずに剣を構えた。


第二波が来る。次は8体だ。

数が多いが行けるか? いや、やるんだ。


ホルスターからダガーを6本取り出して、

2本ずつ投擲。

1体のゴブリンの眉間と胴体に刺さる。

続けて2本を投擲。

2体目のゴブリンの心臓と右足に刺さる。

出来ればもう1体外に出るまでに倒したい。

最後の2本を投擲。

3体目のゴブリンの喉笛と腹部に刺さった。

よし、倒せたか。


後のゴブリンは外に出た所を仕留める。

片手半剣を抜いて、構える。

4体目のゴブリンを右袈裟に切り抜き、

5体目のゴブリンの胴体を魔力で剣を強化して骨ごと断ち切る。

6体目は心臓を突きで貫き横に放り投げる。

7体目は瞬動で右袈裟に切り抜き、

8体目のゴブリンは首を刎ねた。


「はぁー……」


深く息を吐く。温まった体と神経が高ぶっている。

私の周りにはゴブリンの死体が無造作に転がっている。

直ぐ横にあるゴブリンの死体を邪魔にならないように蹴飛ばして、血が付いた剣を空で切る。

地面にゴブリンの血が縦に付く。


さて、今までで合計12体のゴブリンを倒したわけだ。巣穴のゴブリンの群れの大きさからして残りは8から18ってとこか。まだまだ気が抜けないな。

神経を研ぎ澄ませて、敵を待つ。

次の群れは11体だった。

だが、目に見えた魔力反応から少し普通のゴブリンよりも大きな魔力を感じる。

そして、それを守るように中心に大きな魔力反応。

前衛に3体ずつが2列。

大きな魔力反応の左右に1体ずつの布陣で出口に進んでくる。



まるで、中心のゴブリンを守るかのような配置をしている。

明らかに今までのゴブリンとは違って統率の取れた動きだ。

警戒しろ。ただのゴブリンじゃない。

舐めてかかると痛い目を見るぞ!


最後のダガーを2本投擲する。


前衛の中心のゴブリンに心臓と腹部に刺さる。

その場に崩れ落ちたが、ゴブリン達はその死体を踏みつけながら進んでくる。


おいおい、少しは引っかかるとか動揺するとかあってもいいのに!


ホルスターの中のダガーは打ち止め。もう何もない。

敵は10体。あとはこいつと自分の腕だけだ。

片手半剣を居合に構える。



全力で倒す! 魔闘気で剣を強化して出てきた最前衛のゴブリン2体を横薙ぎに胴体を両断する。

2体のゴブリンは絶命しながら、上半身が飛び散り、下半身がその場に崩れ落ちた。


後6体!


だが、次のゴブリン5体を見て驚愕する。

5体共、盾と剣を構え。身体を寄せ合っている。

まるで、後ろのゴブリンを守るようにだ。


その最後のゴブリンも洞窟から出てくる。

紫のローブと魔導士の杖みたいな小さい木で出来た杖。その先端には動物の骨が付いている。


あれはなんだ? 魔法使いか? だとすると上位個体はゴブリンシャーマンか!


推定Dランクの魔物。群れだとD+程度の実力はある。

ともかく、先制攻撃だ。


上段に構え、右袈裟に前衛の1体を切り飛ばす。


「ゲエェ!」



「グガァ!」


その隙を突いて剣でもう1体が胴を突いてくるが、左に体を逸らして躱し、首を刎ねた。


と、その瞬間に腹部に鋭利なものが刺さった。


「ウッグハッ!」


腹部を見ると鋭利で小さな氷塊が刺さっていた。

これが魔法か。矢のように速度は速いな。クソッ前衛のゴブリンがいて剣が届かない!

やりにくいなぁ! 


私は腹部の氷塊を抜いて放り投げる。

視線でゴブリンシャーマンを見ながら、前衛の3体を見る。積極的に群れで襲い掛かっては来ず。

身体を寄せ集めて、身を固めている。

そして、中空に幾何学的な模様が浮かんでそこから氷塊が矢のように飛んでくる。


転がりながら氷塊を避ける。

見ながらなら避けられるな! それも、魔力で強化した目なら幾何学的な模様が浮かぶ様も見れるので、魔法が来るタイミングもわかりやすい。

だが、避けているだけでは駄目だ。

こうなったらこっちも切り札を切るか?

いや、ダメだ。それで倒せなかったらあいつらに殺される。それに、こんな森の中で魔力切れで倒れたら十中八九他の魔物に殺されるだろう。

切り札は切れない。


なら、地道に削るしかないな!


私は地面のゴブリンの死骸を持ち上げて、3体の前衛に投げつける。

盾で受け止めるが、小柄なゴブリンでは受け止めきれずに尻もちをついた。


「グゲェ!」


ここだ!


瞬動にて1体を盾ごと右袈裟に切り抜き、紫電の太刀で2体毎まとめて横薙ぎに一閃。


「グッハァッ!」


その瞬間にゴブリンシャーマンから飛んでくる小さな氷塊が左腕に刺さる。

相手は一瞬で3体がやられたことで動揺しているようだった。


「ギッギャア!」


その瞬間を突いて、瞬動にて近づきゴブリンシャーマンの首を刎ねた。


「はあぁぁぁぁー……」


深く息を吐いて緊張を解く。後ろのホルスターからポーションを取り出して飲む。ゴブリンシャーマンにやられた傷が少しずつ塞がっていく。

結構、強かったなぁ。


それに魔法というものがかなり厄介な事も分かった。前衛が守りを固めて後ろから魔法で攻撃する。単純な手だが、ゴブリンでもあのくらい厄介なのだ。

これがもっと数が増えていたら倒すのはかなり厳しかっただろう。


そういえば、まだ洞窟の中を見ていなかったな。調べておくか。

布で鼻を口を覆い、簡易のマスクを作り焚火を消す。


20分程、白煙が洞窟の外から出ていくのを待ってからランタンと片手剣を持って背を低くしながら進む。


奥には玉座のような岩とその前に血で塗られた五芒星が描かれている。

一体何をしていたんだろうか。まぁ、魔法の使えない私にはわからないことだ。

村に帰ったら聴いてみるか。


中になにもいない事を確認すると、外に出て、ゴブリンから討伐証明の鼻と魔石を取り出す。

忘れずにダガーも回収する。


魔石はゴブリンが22個。ゴブリンシャーマンが1個と合計で23個になった。

まだ、小規模な群れで良かった。これが30体の群れだったらもっと大変だったな。

一人じゃ対処出来なかったかもしれない。


最後にゴブリンシャーマンの杖を持って、後を去る。


傷口はもう癒えており、血も出ていない。

ポーション様々だな。下級回復魔法程度の物らしいが、あのまま出血したままだと血が失われて、最悪には失血死もあり得たかもしれない。


今度からポーションは忘れずに用意しよう。


さぁ、村に帰るか。


その後、村に帰るころには日も暮れており、夜になっていた。


冒険者ギルドに行った方が良いかな? と思ったけど、まぁ明日でも良いかと思い、宿屋に戻る。

荷物を置いて、おばさんから夕食を貰ってから夕食を取った。


寝る前に魔闘気の鍛錬とジャックの魔力を見えにくくする方法を練習する。

鍛錬の結果、薄っすらと少し魔力反応が小さくなった。

だけど、完全に消えたわけじゃない。これではまだ実践では使えないかな。


最後に、燃えるような魔闘気の鍛錬をして、魔力切れでベッドに横になって眠った。

そういえば、アレンが魔力切れになると最悪死ぬかもしれないって言ってたな。

全然、約束を守ってないや。くすりと笑いながら眠気に身を任せて就寝した。

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