第28話 羨望6

「そうですか。なら、安心して出来そうです」


「そうかい?」


「とりあえず、明日一日で調査してみます。あ、そうだ討伐報酬のお金貰っても良いですか」


そう言って、背嚢から討伐証明の素材を取り出す。


「ふむ。言った通りに魔狼4匹にゴブリン7体か。合計で61コルだね」


ギルド長のおばさんから鉄貨を6枚。青銅貨を1枚受け取る。


「ありがとうございます。では、私はこれで」


席を立って、冒険者ギルドの入り口へ向かう。


「アラン。決して無理はするんじゃないよー」


その言葉を背に私は冒険者ギルドを後にした。


その後、道具屋にて魔石の売買を行う。


魔法使い風のおばあちゃんから魔石分136コル。銅貨1枚。鉄貨3枚。青銅貨を6枚受け取る。

そうして、ランタンと砥石等を購入して、宿屋に戻った。宿屋のおばさんに帰った旨と夕食入らないと伝えて、自室に戻る。



砥石でダガーを研ぎながら、ゴブリンについて考える。恐らく時間はかけていられないだろう。

知恵のある上位の個体がいるとしたら野良のゴブリンを吸収して、さらに個体数が増えて大きくなるだろうからだ。

時間を掛ければ掛けるほど敵はやっかいになっていく。

早々に片づけるのがこの村の安全のためだ。


後、ゴブリンが岩壁などの洞窟に住み着くのが一般的だ。

片手半剣をだと、洞窟内が狭すぎて対処できない可能性もある。

その場合はアレンから貰った片手剣の出番だ。

これで、紫電流を使えるかはわからないから今から鍛錬をしておこう。


私一人でゴブリンを退治するのだ。恐らく敵は20から30体ほどの規模かもしれない。

なにか策を考えないと一人で倒すのは無理だろう。



無心になって剣を振るう。策は考えた。あとはそれが成功するかを祈るだけ。

片手剣を振りながら間合い等を確認する。

すると、直ぐに夕方になっていった。

日がほとんど沈みかけた頃に、ジャックの下に行こう。


部屋に戻って布で汗を拭きとり、荷物を置いてからジャックの家に向かった。


「ようこそ。アラン。待ってたよ」


「いらっしゃいアランさん。今日はゆっくりしていてくださいね」


「どうもありがとうござます」


二人に歓迎されて席に着く。直ぐにエリシャさんが料理を持ってくる。

それはぶつ切りに切られたカモが1羽と野草が入ったスープと、鹿の肉と野菜を炒めた料理に玄米だった。


「おぉ……美味しそうですね」


「ありがとうございます。さぁ、食べてください」


「「「いただきます」」」


三人は食事を開始する。スープは出汁が出ていて凄い美味しい。肉も野草の香りがして美味しい。

鹿の肉も赤身の肉で美味しい。なんか美味しいしか言ってないな。でも、美味しいんだから仕方ない。


「美味しいです! エリシャさんは料理が上手なんですね」


「そんな、ありがとうございます」


「エイシャは料理が昔から得意なんだよ」


ジャックが自分の事のように自慢している。

そういえば、ジャックとエリシャさんの馴れ初めは一体どんな感じだったのだろうか。


「ジャックとエリシャの馴れ初めってどんな感じだったんだい」


そう言うと、二人はもじもじし始めた。なんとなくジャックにムカッとした。リア充オーラを感じる。


「僕たち幼馴染なんです」


「幼馴染か。良いね」


「ジャックったら子供の頃からいつも怪我ばかりしてなんかほっとけなかったんです。猟師を継ぐって聞いた時も不安で不安で……そしたら、私が支えなくちゃって考えて、意識し始めた感じです」


凄く照れくさそうに笑う。ジャックも「おいおい」と言いながら笑っている。


「いや、本当にお似合いだね」


「ははは、ありがとうございます。エリシャは私の一番の自慢ですから」


「もう……ジャックったら!」


中の良さそうな姿に心に針を刺されたような痛みを感じた。

私も妻とこんな風に笑いあったりしていたんだろうか。

猛烈に懐かしい気持ちと寂しい気持ちが訪れる。

あぁ、私も妻に会いたいな。

羨望と嫉妬に寂しさが入り混じった心が私を攻撃する。


「――ッ!」


それは久々に感じた。記憶を思い出そうとしたときに起きる鈍痛だった。


「アラン。大丈夫かい? 顔色が悪いみたいだけど」


「ほんとだわ。お水持ってきますね」


あぁ、二人に悪い事しちゃったな。せっかく招待してもらったのに。

その後、鈍痛は治まって、彼らと他愛もない話をしながら食事は終わった。


夜、宿屋に戻っておばちゃんから湯が入った風呂桶を貰って身体を洗ったり、洗濯をした。

そして、魔闘気の鍛錬を行ってから眠った。


「――和人さん」


「――和人さん。起きて」


不意に誰かから声を掛けられたような気がして目を覚ました。窓を見ると、薄っすらと日が出始めていた。

今のは何だったんだろうか。

誰かに起こされる夢を見た。あれは妻だったのだろうか。

そうすると、呼んでいた名前は私の名前か?


私は和人と言うのだろうか。でも、今更思い出したところでどうこうなるわけでもない。

それにこんな事じゃあ手がかりにもならないじゃないか! ああ、頭が混乱している! 


私は着替えて、宿屋の外の井戸水で顔を洗った。

今更、名前を思い出したところで意味などない。私はアラン。この世界ではアランなのだ。

和人の居場所等ここにはない。あるとしたら現実の世界だ。それまでは意味がない。


でも、記憶を思い出した事は僥倖だ。この調子で思い出していって欲しいところだ。



宿屋に戻ると、おばさんが受付に立っていた。眠そうな目を擦って、欠伸をしている。起こしてしまったのだろうか。


「早起きなんだねぇ。朝食は食べるかい?」


「はい。お願いします」


「わかった。じゃあ、待っててね」



朝食後、部屋にて準備をする。いつもの装備にアレンから貰った片手剣を腰に帯びて、背嚢を背負う。


さぁ、出発だ。




森の中はまだ早朝だということもあって、少し薄暗い。だが、これくらいならなんてこともない。魔闘気で目を強化してどんどん先に進んでいった。


目指すは、山の岩壁だ。なるべく村の近くにあるはず。


森に入る前から大体いるであろう当たりは三ヶ所付けていたのでその一つ目に向けて歩く。

道中は安全で、魔物の姿も野生生物の姿も一向にしない。


真昼になった頃で最初に検討を付けていた岩壁に辿り着くがゴブリンや他の生物の気配はしない。


洞窟を発見したので中を探索することにする。

ランタンを左に掲げて、片手剣を右に持ちながら暗闇の中を進む。

さて、何が出るかな……。


5分ほど歩いたが奥には何も見つからなかった。どうやら、ここは外れのようだ。


では、次の目的地に向かおう。


二つ目の目的地はここから2時間程で着いた。村から直線で来るとしたら4,5時間ってとこだろうか。


岩壁に大き目の洞窟が空いていて、3体のゴブリンが周囲を警戒している。


ビンゴ! ここがゴブリンの巣穴だろう。


森の切れ目から洞窟までは15mと言った所か。

私は50m手前から匍匐前進で相手との距離が30m地点まで行くとダガーを6本取り出して、片膝立ちの状態で3体を狙う。相手は暢気に欠伸をしていたりと見張りなのに何も警戒していない。

チャンスだ!


魔闘気で強化された腕で投擲されたナイフは1体の頭部に命中し、1本は外れた。

2体目には心臓と腹部に刺さる。

3体目には喉笛と頭に刺さった。


声を出させずに倒す事が出来た。よし。これで仲間を呼ばれる心配はなくなったな。


次の仕掛けに入るために私は今までの道中で拾ってきた薪木や藁を入り口の前で燃やす。

どんどんと火は激しくなり、煙が洞窟の中に入っていく。

私は辺りから木を切ったりしながら燃料を投下して煙が洞窟の中を充満するのを待った。

狙い通りなら上手く行くはず。

私は片手半剣を抜いて入り口の前でゴブリンが顔を出すのを待った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る