第13話 目覚め12
「たくっアランはよー……なんで才能に恵まれてるんだ! 俺が魔闘気を武器に纏わせられるようになったのは魔闘気を習ってから三年だぞ!」
訓練後、エリカを見送った後にアレンと一緒に夕食を冒険者ギルドの食堂で行う。アレンは私の上達ぶりに酷く驚いているようで、エールを仰ぐように飲みながら愚痴を零している。
私は、エールをちびちびと飲みつつアレンの愚痴を真面目に聞いていた。
「聴いてんのかアラン! お前、魔闘気習ってからどのくらいだ!」
「八ヶ月かな……」
「八ヶ月! それで、魔闘気も紫電流もあそこまでの腕前になったっていうのか! お前自分がどれだけ凄いかわかってるのか?」
「自分じゃわからないな」
「まず、一般人が魔闘気を俺らまで使えるようになるには5年くらい毎日練習してる必要がある! それに剣技だって5~8年でも紫電流の中級のやつは五万といるんだぞ!」
「午前中の仕事中にも魔闘気使ってたり、寝る前も魔力がなくなるまで魔闘気を練っていたのも原因の一つなのかな?」
そう聴くとアレンはまた信じられないみたいな顔をしてこちらをみやる。
「魔力がなくなるまでだって!? 下手したら死ぬぞ! 魔力切れを起こすと死ぬ可能性があるんだぞ!?」
飛び掛かるように私の両肩をぐわんぐわんと揺らすアレン。まさかそんなに危険なことだとは思わなかった。魔力切れそうになってたら直ぐ寝てたから問題なかったのかな。
「知らなかったよ。こ、今度からは控えるよ」
「絶対だぞ」
「うん。絶対だね」
まぁ、嘘だけど。
「それにしても、そこまで身体をいじめてお前はマゾなのか?」
「いや、そんな事はないよ。痛い事は嫌だ。……だけど、目的があるからさ」
「……そうだったな。悪い。お前には目的があるんだったな。それなら、居ても立っても居られないよな」
「うん。そうだね。だからもっともっと強くなりたいんだ」
「わかったよ。俺も手伝ってやるよ」
「ありがとう。アレン」
その日はアレンとの久しぶりに会えた一日だったけど、とても濃い一日だった。紫電流の使い方。多対一との戦法に投擲術の訓練と月影流との戦い方。魔闘気を纏わせながら考え事をしていたが、魔力切れ寸前で疲れて眠ってしまった。
アレンとの訓練が始まって二ヶ月が経過した。訓練を開始してからもう十ヶ月にもなっている。外では紅葉も見え始めている季節になっていた。
「ハアアアアアッ!」
「せやぁ!」
アレンとの一進一退の攻防を繰り広げていた。アレンから時たま飛んでくるナイフも目を魔闘気で強化したおかげで迎撃を行えるようにまでなっていた。今は、円を描くように二人走り続け、じりじりと少しづつ自分の間合いに引き込んでいる。こちらからもけん制にナイフを投擲し、相手を酷使させる。次第に、狭まった距離――三間――でお互い止まる。居合の構えで相手を見据える。
どちらかとなく俊足にて交差。剣戟は一瞬にて終わる。
私が胴を切られ剣を大地に刺して大きく息を吸う。
誰もが、アレンの勝利を確信していたが、アレンはその場で、倒れ込んでいた。
「やった! アランが勝ったわ!」
エリカは自分の事のように喜び拍手をしてくれる。
だが、ギルド長は「喝ッ!!」と叫ぶと私に向けて言葉を放つ。
「紫電の太刀、よくぞここまで育てたな見事じゃ。だが、アレンは避けられないことを悟ると一撃耐える覚悟でアランの胴に一撃を入れた。訓練としてはアランお前の勝ちだ。だが、真剣だったらどっちも死んでいる。それを努々忘れるなよ」
「は、はい!」
「すまんがエリカ様は倅とアランに回復魔法をかけてやってくれ」
「大丈夫。お任せください」
アレンに向かってエリカが回復魔法をかけた後、こちらに向かって来て、胴に回復魔法をかけてくれる。
「痛みはある?」
「う、うん。いつもありがとう助かるよ」
「と、当然のことよ。それに練習にもなってるから! 私、回復魔法が聖級になって少し呪文が使えるようになったのよ?」
「それは凄いね! あとでお祝いしなきゃ!」
「そ、それよりも今日はアランがアレンに初めて勝った日なんだからお祝いしないと!」
そう、実感はぜんぜんわかないけど、この二ヶ月の間、投擲術に紫電の太刀の訓練。そして、毎日のアレンとの模擬戦をして、約60戦1勝59敗ってとこなんだ。自分でもまさか、勝てる日がこようとは思ってもいなかった。
「それは有難いけど、ほとんどたまたまみたいなもんだしなぁ……」
「たまたまでも勝ちは勝ち! 問題なんてないじゃない!」
エリカが手を挙げてVサインをしている。そんなに喜んでくれると私も嬉しい。
「……おーいてて」
「あ、アレン! 大丈夫?」
「ああ、大丈夫だよ。……しっかし、まさか負けちまうとはなぁ……」
「ふん。弛んでる証拠だ。まだまだ、アランの紫電の太刀も遅い。なのに先を行くのを嫌って後にて待つから威力で押し切られたのだ。どちらも見極めが甘いわ」
「ちぇっ親父は厳しいぜ」
アレンは捻くれた様相で、天井を見ていた。なにか思うことでもあるのだろうか。
ギルド長も天井を見ながら考え事をしている。やっぱり、この二人って親子だなってつくづく実感した。考えている態度がそっくりだからだ。
「よし、じゃあ親父。アランの祝福も兼ねて恒例のあれを行っとくか?」
「そうだな。そろそろ、時期的にも良さそうじゃて、あれをやるのにもタイミングが良い」
ギルド長もアレンも嫌らしい笑みでこちらを眺めてくる。
すっごくいやな予感がする。
「あ、あのー……それっていったいなんなんですか」
「あーそれはだな」
「ずばり、一ヶ月のサバイバル生活じゃ!」
「え? サバイバル生活!?」
「武器の剣と小盾と投げナイフ7本と狩猟用ナイフだけは持ち込み許可してやる。だが、それ以外はなんにも持ち物禁止のとーっても楽しいサバイバル生活だ! しかも、東の魔物の森でな」
カラエドの正門から出て、東に向かうと街道と鬱蒼と生い茂る木々が森を成している。辺りは太陽の日差しを浴びても手前側しか良く見えない状態で奥は不気味なほど真っ暗だ。
私は尻込みする足を思いっきり前に突き出して、前進する。目的地はこの東の魔物の森。つまり、ここだ。
正式名称は名付けられておらず(カラエドから)東の魔物の森と呼ばれている。
生息する獣は、ウサギ、鳥、鹿、猪、熊と野生生物なのに危険なのが一部混ざっているよ。
生息する魔物は 魔狼、コボルド、ゴブリン、ジャイアントスパイダー、ジャイアントスネーク、オーガだ。
魔物に関しては
魔狼は1匹ならEランク群れならDランク。
コボルドは1匹ならFランク群れでもEランク。
ゴブリンは1匹ならFランク群れでもEランク。
ジャイアントスパイダーは1匹ならEランクで群れで行動はしない。
ジャイアントスネークは1匹ならEランクで群れで行動はしない。
オーガは1匹ならDランクで群れならC+相当はあるそうだ。
まぁ、簡単に言えば、オーガが群れだったら逃げろってことで、それ以外は倒せそうだってことかな。アレン曰く、私の実力は冒険者ランクはFランクだけど実力はCランクよりのDランクってことらしい。
一匹が相手ならどの相手も問題なく対処できるとの有難いお言葉を頂きました。ちくしょう!
サバイバルの知識もある程度アレンに仕込まれてから来たので、魔物が出ないなら問題はなく生活できそうだ。食べられる野草に磨り潰して患部に塗ると炎症を抑える薬草の場所も教えてもらった。
最悪、野草だけ食べて一ヶ月生活できることもできるってことだ! どんな一ヶ月一万円生活
だよ。いや、あれは最初に一万円あるからまだマシだな。こっちは武器しかない。完全なサバイバル仕様だ。食べられるものは自分で取れというスタンスだ。
だが、私が恐れているのは人型の魔物を倒せるかどうかということだったりする。虫や蛇ならなんとか倒せるだろうが、人型の魔物相手に私は手を出せるのだろうか。
アレンは先に
「いいか、魔物を、生き物を殺すことに気に掛けるな。お前が殺さなかったら、他の誰かがその魔物に殺されるかもしれないんだ。殺すことに抵抗がある程度で逃がしたら、お前は他の誰かを殺したも同然なんだからな」
と忠告を受けていた。確かにその通りなんだ。だけど、実際に対峙してみないとわからない。出来れば会いたくないが、冒険者として見つけたら魔物を発見したら即駆除することが推奨されている。やらなければいけないのだ。
他にもノルマはあって、1ヶ月の収入が500コル以下だった場合、さらなるペナルティがあるらしい。それは楽しそうにギルド長とアレンが言っていたので乗り越えなくてはならない。
エリカだけは私の身の安全を祈ってくれていた。まさに聖女だ。
「一ヶ月後に会える事を楽しみにしているわ」
と言って、彼女は手を振って見送ってくれた。頑張ろう。彼女の為にも、そして生き残るためにも。
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