第12話 目覚め11

アレンも前へ一歩進み出る。突然、右肩に衝撃が来るが、堪えて紫電の太刀を繰り出す。だが、一瞬の怯みにアレンは勝機を見逃さずに前へ進み、無防備な胴へ一太刀。


「ぐはっ!」


そのまま私は受け身も取れずにその場に倒れ込む。エリカが直ぐに私の方に向かってくる。


「うっ!」


「身体を伸ばして。回復魔法をかけるから」


右脇腹と右肩に回復魔法をかけてもらってる間にアレンはゆっくりと近づいてくる。


「アラン。今のはわかったか」


「ある程度は……でも、確信はありません」


「そうか。まず最初の瞬動からの袈裟切りは見事だった。まさか来ると分かってても返すのがしんどかったとは思わなかったぜ」


「説明すると……紫電流の構えは上段の構えと居合の構えが基本だ。簡単に言えば、上段に構えられればほぼ袈裟切りが来ると思って良い。だから、月影流の返し技でいなして、一撃を加えたってわけだ」


「なるほどね。紫電流は技が少ないから相手にとってもやりやすい相手なんだね」


「そういうことだ。そして、最後の二撃目は、お互い背を合わせていたから振り返り、俺はアランの居合の構えを見た。だから、そこに投げナイフを右肩に3本投擲し、アランが怯んで一瞬遅れた時に胴切りでおしまい。ってこと」


そうか紫電の太刀を繰り出す瞬間にきた右肩の衝撃は投擲による攻撃だったのか。

瞬動は切り込んだ後、相手を抜き去ってしまうからその分の距離が開いてしまう。

その間、飛び道具を持っている相手には失速し振り返ろうとしている相手は余りにも隙が多すぎると。


「ただまぁ、紫電の太刀を受けた木盾はもう使いない程にボコボコになっちまったがな。いやーお嬢。後で手の甲に回復魔法をかけてくれよ。内出血しちまったよ」


「あなたは軽いから後にしなさい!」


「それにしても、凄かったよアラン。あれが月影流だっけ? 一撃目のいなされてから宙返りしながら切りつけたり、投げナイフ投げてからカウンターに胴切りとかなんか忍者みたいだったよ」


「忍者って……まぁ、月影流は言っちまえば、徒手空拳から蹴り、投擲、弓、槍、短剣に片手剣と最後に暗器となんでもござれな剣技? というか流派でな。どんな無手な状態からでも生き残る術を覚えるのが強みなんだ」


「面白いね。生き残ることを優先する剣技か。でも、それだと、紫電流は技が少ないしちょっとおかしく見える」


「確かに返し技は多くある。だが、一番広まっている剣技も紫電流だ。そしてなにより、技が少ないってことは逆に言えばそれだけ”極めれば返せない”っていうことにもなるんだ」


極めれば返せない。確かにそうなのかもしれない。先ほどの一撃目がギルド長の瞬動からの右袈裟だとしたら? 紫電の太刀だとしたら? それは、アレンの両腕が粉々になっていて、木盾ごと逆袈裟に切り裂いていたかもしれない。


「つまりだ。紫電流に技なんていらないんだ。瞬動と紫電の太刀だけを極めれば返せないし、躱せない。最強の一撃になるんだ」


「じゃあ、今のは私の練度不足が原因ってことか~……」


「なんだ落ち込んでるのか?」


「うーん。少しね。でも、アレンが強いってこともなんか嬉しいな」


「はっ! こちとら5年は冒険者してんだ。まだ訓練初めて八ヶ月しか経ってない奴に負けるわけないだろ」


「それもそうだね」


そこでアレンはふと思案顔になる。何か気になることがあるのだろうか。


「多分、親父がアランの訓練をやるように言ったのには訳があったのかもしれないな」


ギルド長がアレンに頼んだ意図? それはいったいなんだろう。今まで紫電流しか習ってないから月影流の技を覚えるためってことなのかな?


「月影流の技を覚える為……とか? なのかしら」


「うーん、それはないかもなぁ」


エリカの疑問にアレンは首を振る。そして、「わかった!」と大声を出して立ち上がる。


「アレン。お前は今まで紫電流しか習ってこなかったんだよな」


「うん。そうだよ」


「だとすると、紫電流は一対一を想定して作られた剣技だ。親父はアレンに多対一を想定した対処方を覚えて欲しかったんだな」


「多対一を想定した月影流の技を覚えるってことかな?」


「それも一長一短で覚えられる事じゃない。どっちつかずで中途半端になる。簡単に言えば、遠距離攻撃をする手段を覚えろってことだろうな」


「なるほど。紫電流は敵と密着して切り結ぶ剣技。多対一に囲まれる前に敵を倒す術を身につけることが重要だとギルド長は考えられていたみたいね」


私もアレンみたいに投擲術を覚えるってのがギルド長の考えだったのか。回りくどいなギルド長も。せっかくなら一言言っておいてくれればいいのに。


「投擲術を習うなら投げナイフにしときな。嵩張らないし、投げても安いからな。弓は剣持ってできないから論外だし、なによりセンスと訓練をしないと的に当てるのも難しいからな」



 一休憩取った後、投げナイフの練習をすることにした。狙いは藁束だ。


「アレンどうやって持つの?」


木ナイフを7本用意したは良いが、いかんせんやり方がわからない。


「ああ、一刺し指と中指の間に1本挟んで中指と薬指の間にもう1本挟む。そしたら、手首のスナップと指の第一関節を使って投げる感じだ。狙いは胴体を狙え。少し的を外したとしても身体のどこかには当たるからな」


「わかった。やってみるよ」


そう言って、教えられた通りナイフを挟んで手首のスナップと指関節を使って投げる。刺さりはしないがコツンッと小気味いい音がする。そして、投げたナイフを回収し、また投擲する。繰り返し練習するが体力も消耗しないし、今までの訓練に比べれば雲泥の差だ。思わず楽しくなる。


「これじゃあ、今日は刺さるとこまではいかないかね」


「あら、アレン。私は今日中に刺さると思いますよ?」


「お嬢はアランを高く買ってるねぇ。焼けてくるぜ」


「お、おほん! 毎日見ていますから当然の事です」


「あ、アレン! 刺さったよー!」


「げ、言って直ぐこれかよ!」


「ふふっアランさんなら直ぐにできると思ってましたから」


アレンはめんどくさそうに立ち上がり私の方に向かってくる。なんか二人でやり取りをしていたようだが、どうやらアレンが頭を掻いている辺り、エリカになにがしか負けたのだろう。


「んじゃあ、次のステップだ。アラン魔闘気を流しながら投げてみろ」


「わかったよ」


私は、前足を強く踏み込み右腕を魔力で強化し、手首と指の関節に魔力を纏わせて投げる。

投げられたナイフは回転しながら綺麗な直線を描きながら藁束に深く突き刺さる。


「上出来だな。魔闘気についてはアランは天賦の才能でもあるのか? 俺は部位に魔闘気を瞬時に纏わせたりするのが苦手で会得するのに2年と半年はかかったぜ?」


「え、そうなんだ。ギルド長から普通にやるように言われたから、それが当たり前かと思ってたよ」


「馬鹿が! 親父は大事なことは口では言わないんだ! コツとかは自分で考えるものだってな!」


「そうかな。今思えば結構、優しかった気もするよ」


「そう思ってるのはお前だけだアラン」



 その後、アレンの投擲術の講義を受ける。


「んでだな。敵が4体の時、アレンはまずどうする?」


「んー、一先ず4人に投擲して傷を負わせるか倒す? かな」


「うむ。半分正解ってとこだな」


「後方に逃げながら追ってきた相手に投擲をする。じゃないかしら」


「お嬢。当たりだ。つまりだ。4人にも足の速さってものがある。逃げれば相手も追いかけてくる。そこに投擲で傷を負わせる。他の早い奴が来たら投擲をする。そして3人目に投擲をする。1体目から3体目に傷を負わせられたり倒せたりしたら、最後の一体が元気に走ってくるだろう。それ、一対一だ。そいつを倒して他の追ってきた奴を一対一で倒せば良いってわけだな」


なるほど。まず、如何に一対一の状況を作るかが重要なんだ。後方に下がり追ってを一対一で倒せるように工夫する。そういう発想が紫電流には必要ってことなんだ。


「まぁ、アランの言ったように投擲に自信があるなら4体同時に倒すのも案としては悪くないが。基本に忠実に行くならこれが一番楽だ」


アレンはそう言って腰のベルトから木ナイフを取り出すと、野球選手のようなフォームでナイフを一刀投げつける。それは藁束を貫通しその背にある壁にめり込んでいた。


「ま、魔闘気を纏わせたナイフなら同時に倒すことも可能だってのはこういうことだ」


アレンはどうだと言わんばかりにこちらを見やる。

私もアレンのマネをして先ほどにナイフに魔闘気を纏わせて全力投擲する。それは高速で藁束を貫通し、背の壁に深くめり込んでしまった。


「あ、アラン……お前、もう武器に魔闘気を纏わせることができるのかよ!」


アレンは開いた口が塞がらないと言わんばかりの表情で私を驚愕の表情で見た。

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