第14話 目覚め13

 まず初めにサバイバル生活で重要なのは水分だと思う。というかこれがないと十中八九、一ヶ月生き残ることは不可能だろう。

確か、人は3日間は食料がなくても動けるが、水分がないと死んでしまうとなにかの情報で見た記憶があった。まぁ、その情報事態も宛てになるかと言われれば怪しいが・・・。


 とりあえず、水源を探すべく森を散策する。魔闘気を目に集中させて周囲を観察する。

 これも気付いた事なのだが、魔闘気を目に集中させると視界がかなり良くなる。遠く先まで見通せるようにもなるし、魔力反応も見る事ができる。ここでの魔力反応は主に魔物や生き物の魔力が見れるということだ。これがあれば、敵を避ける事も不意打ちを受けることもかなり減るだろう。


 常時、目に魔闘気を流しながら森の中を歩く。途中、食べられる野草や軟膏になる薬草を背嚢に入れながら進んでいく。


 日が真上を射したところで、一旦休憩することにした。背の荷物(といっても野草や薬草以外なにもないが)を下ろして、近くの岩の上に座り込む。

早朝から歩いているので、恐らく4時間程度は時間がかかったと思われる。時計なんてものはないから推測だ。

 このまま闇雲に歩いても無駄に体力を消耗するだけ。ここは何かしらの手段を用いて、水源を確保するか食料を確保しなければ、1日目から野草だけを齧る生活になってしまう。

なにかしらの手段……。たとえば、高い木の上に登るとかだが、周りは同じ高さの木々で辺りを覆っている。登ってみてもそこまで遠くまで見ることはできないだろう。


となれば、他の手段だが、実は少し試したいことがあった。というのも、耳に魔闘気で覆い、身体能力を向上させるという手段だ。目に魔闘気を纏うだけで視力が上がったのだから、他の部位も使えるんじゃないかと思ったのだ。


早速、耳に魔力を多く流してみる。目を閉じて、音を聴く。森には、鳥の囀り。なにかの木が折れる音、なにかの咀嚼音。そして、水の流れる音がしっかりと聴こえた。

よし、思った通り成功だ。じゃあ、次は右耳にだけ魔力を多く流し音に集中する。微かだが水の流れる音が小さくなった気がした。

次に、左耳に魔力を多く流し音にに集中する。両耳に多く流してた時と同じ音の大きさで聴こえる。

これが思った通りなら、右に進めば、水源が、恐らく小川かなにかが見つかるはずだ。


 水源がある事を信じて、道なき道を進む。歩いてそんなに経たずに水の流れる音が聴こえてきた。

私は、歩くスペースを徐々に上げて道を進む。森を抜けると、小さな小川が流れているのが目に入った。小川の先は見える範囲ではかなり遠くまで続いている。どうやら、下流なのかな。

とりあえず、やった! これで水の問題は解消された。さて、あとは食料の問題と、ベースキャンプを作るかだが、どちらを優先しようか。

いや、ここはベースキャンプを優先しよう。一日くらい食べなくてもなんとかなるだろう。


 私は、手頃な石を何個も用意して、かまどを作る。次は、歩いている途中で拾った木を薪をかまどの近くに置いた。最後に鳴子を作ろう。

長い棒を1本用意し、その先端に細くロープのように捻じった木の皮をかける。ロープの先端には30センチくらいの木々に穴を空けてロープを通す。そしてベースキャンプから8間(15m程)のところ木々にロープとロープを木と木の間に這わして、最後に鳴子を大地に突き刺しておく。


これを、6本程作り、ベースキャンプを中心に大体8間のところに設置した。

まぁ、一先ずこれで、寝ている間に奇襲に会うことも多少は減るだろう。ジャイアントスパイダーには効きそうがないけどね。


 気づいたら、辺りは日暮れになっていた。闇の帳が少しずつ夕暮れ空を侵食している。

私は、小川で泳いでいる魚を見つけると、魔闘気で加速したダガーを投げて頭を一刀で刺し殺す。

やっぱり、アレンに投擲術習っておいて良かったな。得物を仕留めるのにも便利過ぎる。

3匹仕留めて、その日の食料確保は終わった。


 明日の朝食用に1匹を残して、棒で串刺しにした2匹をかまどの近くで焼きあがるのを待つ。

日は完全に落ちていて、辺りはもう真っ暗だった。周りには不気味なほどの静けさが漂っており、魚の脂が焼ける音と薪木が鳴らす音以外、何も聞こえない。

充分に焼きあがった魚をふーふーと息を吹きかけて冷ましながら、魚肉の余りの熱さに唸りながら食べる。余りにも美味しかったので、もう1匹もぺろりと完食してしまった。




 一日の終わり、草を敷いただけの簡易の寝床に寝転びながら今日の事を考えていた。森に入る時から夜の今までずっと魔闘気を纏っていた。魔力量が増えて、使用時間が増えたということでもあるのだが、余りにも気を張り詰めすぎていたかもしれない。魔物は基本、夜行性の物が多い。だから、早朝は彼らも活動を止めているからさほど危険ではないのだ。なのに、ずっと警戒していたのは、恐れからかそれとも緊張していたのか。


まぁ、今日1日は乗り越えられた。拠点も作れたし水源も確保できたのだ。このまま、一ヶ月間暮らせる目途はついた。だが、他に課せられた目的に500コルを集めるとの内容だ。このまま、薬草を採取してたりしていたんじゃ絶対に集めきれない金額だ。

なにせ、魔狼の魔石で20コル。毛皮と爪の合わせて全てで40コルくらいとアレンが前言っていた。そうすると、魔狼を13匹狩らなければ行けないが、毛皮の剥ぎ取りなんてうまくできないし、13匹も狩ってたら相当な量だ。一ヶ月間も持ち歩けるわけがない。


だから、そうだ。魔物を積極的に狩りとって魔石や小さな収集品で500コル稼ぐのだ。

明日からは積極的に狩りにいこう。

――カラン


その時、鳴子の鳴る音が聴こえた。反射的に目と耳に魔力を通す。なにかの歩く音。恐らく2足歩行の者が3体だ。


鳴子の鳴った音の方角に向かい茂みに隠れる。魔力を通した目から輪郭がわかる。小型の5,6歳児くらいの大きさだ。それが3体。多分、ゴブリンだ。


ゴブリンたちは鳴子の音に一瞬止まるも気にせずベースキャンプまで近寄ってくる。

5間(約9m)の程度になってゴブリンの姿が見えた。上半身も下半身もなにも纏っておらず、頭部に動物の骨を被っているものが中心に1体。他は動物の骨を被っていないのが両端に2体だ。

恐らく、中心の物があの三組のリーダーなのだろう。


私は、茂みから片足立ちの状態でダガーを取り出す。魔闘気で強化した腕とダガーで胴体を狙い撃ちする。

鋭い風切り音が鳴り、両端の一体の右胸を貫通して大地に噴煙を撒き散らせながらゴブリンを一体倒す。もう1本ダガーを取り出し同様に片割れのゴブリンの胴体を貫通し大地に噴煙を撒き散らせる。

最後、一体になったところで、立ち上がり骨ゴブリンに向かって駆け出し、瞬動を使い右袈裟に切り伏せる。


や、やったか? 心臓の音が煩く鳴り響いていた。動く気配はない。様子を見るがダガーで倒した2体は死んでおり、骨ゴブリンも一撃で死んでいた。


私は、ゴブリンの心臓に解体用のナイフを突き立てて、傷口を開いて魔石を取り出す。血が溢れるように溢れ出る。魔物の血も赤色なのか・・・

同じように3体の魔物から魔石を取り出した。


そして、鳴子に故障がないと分かるとダガーを2本拾って直ぐに寝床に帰って寝転んだ。

未だに心臓は煩くなっていた。両手に抱いた片手剣がカタカタと音を鳴らしている。

手の震えが止まらなかった。

だって、あんなに肉を骨を切る感触が!

あんなに血が溢れ出す光景が!

とても忘れるなんてできなかった。くそ、どうして俺なんかを狙ってきたんだよ。


震える頭でアレンの言葉を思い出した。そうだ、アレンは言っていた。


「魔物を殺さなかったら他の誰かが魔物に殺される。」


そうだ。私は魔物を殺した。誰かが魔物に殺されることもない。私は誰かを救ったのだ。

そう思わなければやっていけなかった。

念仏のように「私は誰かを救ったんだ」と唱えていると、興奮した身体はいつしか落ち着き、日中と戦闘の疲れによって意識は薄れていった。



 目が覚めて直ぐに上半身を起こす。右手に持った片手剣は未だにしっかりと手の中にあった。

剣を見て、昨夜の事を思い出すが、多少の気持ち悪さは軽減されていた。

立ち上がり、小川で顔を洗って、火を起こすと薪に木を何本か入れた後、朝食用に残していた魚を焼いた。

燻ぶっている火は白い煙を空に昇らせる。

目覚めは最悪だった。何度も肉の骨の切る感触が手の中に残っている感じがする。

私は、他の誰かもしれない人を救ったのだ。そう思わなければやっていけなかった。


Eランクの魔狼の魔石が20コルで、Fランクのゴブリンの魔石が3個。恐らく、3個で20~25コル程度だろう。脅威度的にもそんな感じがする。

あと480コルというところだろうか。さて、頑張らないとだな。焼けた魚を食べながら今日の予定を考える。森を散策して魔物を倒して魔石を集めるってことだ。


あ、そういえば、昨日投げたダガーの先端が一刺し指の第一関節くらいまで折れていた。

武器に魔闘気を纏わせて戦うのはオーバーキルということなんだろう。今度からは、武器に魔闘気を纏わせるのは控えよう。

ダガー残り5本 内2本損傷

片手剣1本と鞘

これでいけるだろうか。いや、まだ2日目だ。あと28日もある。生き残らなければ!

 2日目も食事を取った後、ゴブリンを倒したところを見に行った。だが、そこには、死体はなくなっていた。

もしかして、血の匂いで他の生き物か魔物が持って行ったのだろうか。良く見ると、這いずった後が続いていた。

これを辿って行けば、なにがしかの生物が見られるだろう。生き物だったら、襲ってこないなら何もしなければいいし、魔物だったら討伐してしまえばいい。


散策を続けて日が真上を射す頃に岩壁に洞窟があるのを発見した。入り口の両端には見張りなのかゴブリン程度の背の犬が二足歩行で立っている。コボルドだ。どうやら巣のようだ。ゴブリンの死体を持ち去ったのも彼らだろう。武装は石斧だけのようだ。


入り口まで15間くらいのところに近づいて、肩肘立ちで身体強化してダガーを投げる。それは、一体のコボルドの右足に突き刺さった。


「キャインッ!」


一撃で仕留めそこなった。私は駆け出して無傷のコボルドに紫電の太刀を繰り出す。


肉を引き裂く音を聴きながら、振り抜く。即座に、ダガーを投げたコボルドの首を刎ねた。紫電の太刀で切り裂かれたコボルドはそのまま石壁に叩きつけられてずるずると這いずり落ちる。首を刎ねたコボルドは血を吹き出しながら頭がとんと大地に落ちた。


「ふぅ……」


と、一息吐くが、洞窟の奥から犬の鳴き声が聴こえてくる。それも、何体もだ。暗闇の中を目を強化してみると魔力の流れがコボルドの体を形どっている。

恐らく、4、5匹か。私は入り口から5間程離れて、ばらばらに洞窟の入り口から出てくるコボルドに対してダガーを投げつける。3本を最初に来た1,2体に胴体に投げる。それらは1体の左足に刺さり、2体目の右腕と右足に刺さった。


「キャンッ!」


「キャッキャウン!」


外に出て直ぐに攻撃されるとは思っていなかったのか、敵は驚いた様子だ。最初の2体は走るのも難しく、歩きながら近づいてくるが、所詮、子供の足だ歩いてくるならかなりの時間稼げる。


新しく、3体が出てきたので、残りの2本で2体の胴体を狙う。1本は右胸を刺している。もう1本は左胸に刺さっていた。

無傷のコボルドが四足歩行で走り寄るが、間合いに入った瞬間に首を刎ねた。

残ったコボルドも向かってくるが、一対一を心がけて比較的、動きの速い物から片づける。


戦闘が終わると、そこには、7体のコボルドの死体がある。

こちらに傷はない。完勝だ。私は心臓を刺して7匹全ての魔石を集め、ダガーを6本回収する。


洞窟の中もしらべてみたが、昨日のゴブリンであろう骨と血だけでほかはなにもなかった。


7体を相手取ったのは初めての経験だったが、やっぱりアレンに投擲術を習っておいて良かったと心から思った。そうしなければ、かなり苦戦した戦いになってだろう。

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