第10話 目覚め9
「え? 本当に? 嘘じゃなくて?」
「うん。本当よ。水晶が何色にも光ってないもの。適正があるならなにがしかの色が水晶から見えるんだけど、何も変化なし。つまり、適正なしね」
ガーン。まさか、魔法適正がないなんて……。こう、異世界にきたなら魔法チートとかそういうもので無双するのが夢だったのに。魔法が一切使えないなんて……。
「そ、そんなに落ち込まないでよ。ね? ほら、大抵の人は使えない人が大勢いるんだし、さ? でも、魔闘気も纏えてるし、魔力量も相当あるように感じたんだけど一体どうして適正がないのかしら」
「ん……魔闘気ってもしかして魔法適正ない人でも出来る魔法なの? あと魔力量が多いって聴こえたんだけど」
「そうね。魔闘気は身体能力を向上させる魔法で無属性魔法と言われているわ。これは魔力があれば誰でも出来る魔法の事ね。他にも無属性魔法はあるけど、一子相伝の秘術だったり、古代文明時代の魔法だったりで、使える人は余りいないわね。魔力量については、なんていうか。会った時に纏っている雰囲気? ていうかオーラみたいなものが多く見えたのよ。これは、魔法使いなら立ち会っただけで力量がある程度わかったりするものなの」
つまり、魔力量は多いけど魔法適正はないから誰でもできる身体能力向上魔法しか出来ません。ってことね。自分で言ってて虚しくなる。
「あーぁ……私も大魔法とかバンバン使ってドラゴンとかと戦ってみたかったなぁ」
「そんなのおとぎ話じゃないんだから無理よ。現実を見なさい」
それもそうか。幸い魔闘気は使えるんだし、地道に鍛錬をするのが私には向いているってことなのかもしれない。もし、魔法を使えても剣術も魔法も中途半端な状態で使い物にならないかもしれないしね。
この日は魔道具での魔法適正が皆無だったことが分かったので、木杭に打ち込む訓練を再開することにした。エリカは私が鍛錬している姿をずっと見ていることに決めたようだ。何が面白いのだろうか。今度聴いてみよう。
夜になってそろそろ鍛錬を止めるかと切り上げて、エリカの下に向かう。結局、木杭には少し切れ目が伸びたくらいで切り落とすなんて考えても無理そうだった。
エリカが冒険者ギルドから去っていく姿を見送った後、夕食を取って、修練所でまた魔闘気を纏って打ち込みを魔力がなくなるまでやった後、自室のベッドに倒れ込むように眠りに落ちていった。
次の日も午前中に冒険者ギルドの仕事をした後、午後から訓練を開始する。素振りや走り込みはなくなり木杭に打ち込む訓練を行っていた。60回程打ち込んでからまた、魔力切れの兆候に怠さと眠気が出てくる。ふと、魔闘気を解いてみた。そういえば、魔闘気を使って身体全身を覆っていたが、実際には両腕と足腰しか使っていないことに気づく。そう思えば、頭等の使っていない部位は覆わなくても良いのかもしれない。
試してみよう。目を閉じて魔闘気を下半身と両腕だけに流れるようにイメージすると、そこだけが覆われている。どうやら出来たみたいだ。今までは無駄な魔力を他の部位に流していたが、これで節約できる。
「ハアアアアアッ!」
走り込み、右袈裟に切り落とす。うん。威力もスピードも落ちていない。正解だったみたいだ。
「どうやら気付いたようだな」
その時、ギルド長から声がかかった。
「魔闘気は身体能力を向上させる魔法だ。実際に使う部位のみに流せば魔力を節約できるし、
その分の魔力を使用する部位に流し込めば威力もスピードも上がる」
なるほど、それならば、走り込む瞬間に魔力を込めて打ち込みの瞬間に魔力を込めればもっと威力が出るかもしれない。ギルド長が藁束を切り落としていたのもこれを使っていたからか。
「だが、応用はかなりの難易度だ。一長一短で出来るものでもない。少しずつ、モノにしていけ」
「はい!」
上段に構え、後ろ足を蹴り出す瞬間に今までの2倍の魔力を込めると余りの速さに壁に激突しそうになった。
「気をつけろ! 直ぐに出来るものじゃないんだ! 少しずつ魔力量を増やしながらやっていけ!」
「わかりました!」
その後、打ち込みを100回程、魔闘気を纏いながら打ち込む事が出来た。そして、ギルド長との模擬戦をするも惨敗し、エリカに文句を言われながら回復魔法をかけてもらうのだった。
二ヶ月後。
「ハアアアアアッ!」
後ろ足を魔力を使って踏み込む瞬間に爆発的に放ち、右袈裟に振り下ろす瞬間に魔力を込める。杭は斜めにコンッと床にぶつかり、音を響かせる。
「よくぞ出来たな。アラン。合格だ。本当は三ヶ月かかると思ったが、早かったな」
「いよっし! ありがとうございます!」
私は、ガッツポーズしてギルド長の下に向かう。
「今のが紫電流の歩法の基礎。――瞬動だ」
「紫電流……瞬動ですか?」
「ああ、現代には三大流派があってその中の紫電流は速さを極める流派だ。紫電流には二つの技しかない。その中の一つが先ほどの瞬動だ。もう一つの技はワシが今からみせよう」
そう言うと、ギルド長は木剣を左腰に収め居合切りのように構え、目を閉じる。
――瞬間、気付いたら木杭の直ぐ後に木剣を振り上げた状態で静止していた。
木杭がずり落ちるようにゴトンッと音を立てる。木杭は斜めに一撃で真っ二つになっていた。
「これが紫電流が奥義――紫電の太刀だ。どこまで見えていた」
「い、いえ……気づいたら木杭が真っ二つになっていたとこだけでした」
「そうか。では、もう一度やる。今度は目に魔闘気を覆ってから見ろ」
「はい」
また、ギルド長が居合切りのように持ち、目を閉じる。
――瞬間、後ろ足を踏み込んだと思ったら、木杭の目の前に立ち逆袈裟に切り上げていた。
「いまのはどうだ」
「はい。後ろ足を踏み込んだ所までは見えましたが、気付いた時には木杭を逆袈裟に切り上げていました」
「そこまで見えていたか。いやはや、全盛期は剣聖級とまで言われたワシでももう歳かもしれないな」
今ので、全盛期よりも遅いのか。それは飛んだ化け物じゃないか。二ヶ月毎日かけて切り落とした木杭を意図も簡単に一撃で切り倒したんだぞ。しかも、二回もだ。
「アラン。お主はまずは瞬動に磨きを掛けろ。紫電の太刀はそれから身につけろ」
「わかりました」
それから、木杭をまた切り倒す訓練が始まった。慣れてきたのか、一ヶ月で1本は切り倒せるようになっていた。だが、木剣を使って一撃で真っ二つに出来る紫電の太刀なんていつになったらできるのだろうか。いや、待てよ。まず、木剣で真っ二つなんて物理的に考えて不可能じゃないか? どんなに腕力や速さを魔力で底上げしても所詮、木剣。切れるわけがない気がする。
となれば、新たな仕掛けがあるに違いない。ギルド長のことだ。確実にある。
多分、木剣だ。これに仕掛けがあるに違いない。そう、恐らくだが身体だけじゃなくこの木剣にも魔闘気を纏わせるんだ。
身体の一部のように魔力を流すと思った通り、木剣に魔闘気を纏わせることができた。よし、これで。
瞬動から木杭を右袈裟に切る。木杭の指の第二間接くらいまで切り込む事が出来た。やはり、これで間違えてなかったようだ。思わず、顔が綻んだ。
だが、改めてギルド長の凄さに驚く。一瞬にして足に魔力を込め、両腕と木剣に魔力を纏わせて逆袈裟に切り上げたのだ。しかも、木杭を一撃で真っ二つに、だ。おそらく生身なら即死しているだろう威力を秘めている。
私は、踏み込みと打ち込みを木剣に魔力を込めて開始するが、直ぐに魔力が切れてしまった。
ちなみに、エリカにこの技を見せたとき、「アラン。どんどん人間離れしてるわね」って呆れられてしまった。
訓練を初めて半年が経った。今も変わらず瞬動と打ち込みを繰り返している。魔闘気の流し方も慣れてきて、より早くスムーズに出来るようになっていた。ちなみに木杭は私が壊し過ぎたため、ギルド長に訓練に使うことを禁止されてしまった。
今は、何もない空間を往復しながら打ち込みを繰り返していた。
「アラン。そろそろ、紫電の太刀を開始してみろ」
ギルド長にそう声を掛けられた。ついに、紫電流の奥義を習得する時が来たのか。少し身震いしてきた。
「はい、わかりました」
木杭はないが、左腰に木剣を収め、居合切りの構えをする。足に魔力を込めて爆発的に踏み込む。そして、逆袈裟に木剣を振り上げた。
「ふむ。まだ、魔闘気の流れが乱れているが様になっている。今度からは魔闘気の流れを淀みなくかつ早く流せるように鍛錬しろ」
「はい!」
私は紫電の太刀がある程度できていることを認めてもらったかのように思い、柄にもなくはしゃいだ。
「アラン。話がある。近々、二ヶ月ほどだが、首都に行かねばならない。その間、鍛錬を見てやれんのだ」
「そうですか……それは仕方ありませんね」
「ああ、ワシも惜しいが、その間、ワシの倅に鍛錬を頼んだ。」
「え、アレンさん戻ってくるんですか? 新規ダンジョンの調査依頼についてはひと段落したってことですかね」
「うむ。そうだ。 あやつは紫電流の使い手ではないが、野伏としての戦いや知識、それに月影流の上級だ。違う流派だが、良い刺激にもなる。教えを乞え」
「月影流……新しい流派ですね。これはどんな特徴が?」
「それは身をもって体験するのが一番良いだろう。まぁ、楽しみにしておけ」
「はい。そうですね。アレンとはもう半年ほど会ってないから今から楽しみです」
「そうか。まだワシも5日はいるからその間は紫電の太刀を練習しておくんだぞ。それと、アレンと模擬戦をするにしても、決して木剣に魔闘気は使うなよ。最悪、死ぬ可能性もあるんだからな」
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