第9話 目覚め8
「回復魔法……凄い。あんなに怪我していたのに全然、痛みがない」
「そうよ。感謝してよねー。まぁ、私的には良い練習台になるから良いけどね」
そう言って、眩しい笑顔で語る姿に妻の面影を見てしまうが、頭を振ってその幻想を振り払う。
「でも、回復魔法も万能じゃないんだから気をつけなさい。骨折程度なら中級回復魔法が必要で私でも治すのに2日はかかるんだから。まぁ、軽い怪我なら下級回復魔法でなんとかできるけどね」
「骨折も治せるんですね。上級回復魔法になると、部位の欠損まで治せたりするのかな?」
「上級回復魔法でも部位を接着して治癒することはできるんだけど、元になった部位が無かったり、
古傷とかだともう治せないわ。そこまで万能じゃないの」
「それでも、凄いな。私にも回復魔法が出来れば楽なのになぁ……」
「ちなみに、魔法適正は受けたことあったりするの? それで、適正がないと魔法を覚えるのはかなり難しいのよ」
「魔法適正? いいや、受けたことはないね。それってお金とかかかったりするのかな。それだとちょっとまずいんだけど……」
「大丈夫よ。私の家にある魔道具を使って調べてみましょう。まぁ、といってももう夜だし魔法適正を調べるのは明日にしましょう。ねっ」
彼女は立ち上がりスカートの埃を叩く。魔法と言えば、RPGの鉄板だしこれは期待するしかないな。もしかして、才能があり過ぎて魔道具が壊れたりとかなっちゃったり。流石に、アニメの見すぎだな。
「さ、帰りましょう」
「そうだね。送っていくよ」
「いいえ、大丈夫よ。外に護衛の人が待ってるから。アランも疲れたでしょ。直ぐに休むといいわ」
「そっか。じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな」
私たちは修練所を後にする。冒険者ギルドの入り口へ向かう彼女の後ろ姿を見ながら私は声をかける。
「じゃあ、気を付けてね。さようなら。エリカ」
「ええ、またね」
エリカの後ろ姿を入り口のドアを潜るまで覗き、彼女の姿が完全に消えた後、食堂で夕飯を食べて、直ぐに自分の部屋に戻る。
明日は、週に一度だけある休みの日だ。月、火、水、風、金、土、日の7日間を一週間としている。異世界に来たのに一週間の読み方がほぼ同じ所が変な感じだが、これは7つの魔法から名付けられたらしい。月は闇魔法を、火は火魔法を、水は水魔法、風は風魔法、金は錬金術を土は土魔法を日は回復魔法を司るらしい。木を操る魔法もあるらしいのだが、それはエルフ達が伝授している魔法であり、彼ら以外に教える事はないそうだ。
私は、日課になっている。魔闘気の訓練を行った後に、明日またエリカに会える事に頬を綻ばせながら眠りについた。
明けて次の日、早朝から私は修練所にてギルド長と訓練について話していた。エリカが来るまで訓練をして待っている予定だ。
「悪いが、今日はちょっと朝から用事があってな。お前の面倒を見ている余裕がないのだ。……だから、これに対して打ち込みをしていろ」
そう言って、指された視線の先にあるものは腕の三倍は太さがあるかと思われる木杭だ。
「これに打ち込みですか?」
「ああ、これに走り込みながら右袈裟でも左袈裟でもいいから打ち込みをしろ。そして、これを木剣で切り落とせ」
「……は? 真剣でも難しいと思うのですが、それを木剣で、ですか?」
「そうだ。魔闘気は使っても良いから一回一回走り込みながら切りかかれ。……安心しろ。一日でとは言わん三ヶ月で切り落とせ。出来なかったら……そうだな罰ゲームでも考えておくとする。わかったか!」
「は、はい!」
「よし! では、始めろ! では、ワシは失礼するぞ」
ギルド長が修練所から消えてから、木杭を見る。こんなものを三ヶ月で切り落とす事が出来るのだろうか。ただ、ギルド長は藁束を木剣で一閃して切り落として見せた。私にも出来るのかもしれないやってみよう。まずやらなければ始まらないのだから。
魔闘気を身体全体に纏わせた後、木杭を睨み上段に構えをとり、走り込みながら木杭に対して右袈裟に切りかかる。魔闘気で身体能力が向上したスピードと膂力で切りかかるが少し木杭に切り目が付いた程度で手に鈍い痛みが走った。だが、痛みを無視して反対側から左袈裟に切りかかった。
「ハアアアアアッ!」
休まず、連続で50回程、打ち込みを行った所で、身体に漲る魔闘気が薄くなっていく。息も上がり、体力も底をついてきていた。木杭についた切れ目は強化された力をもってしても余り傷口が広がっていない。
まさか、ここまで魔闘気を使いながら訓練をするのに体力を消耗するとは思っても見ていなかった。
気力でその後30回程、魔闘気を使わずに切りかかるが、先に体力が切れてその場に倒れ込んだ。
「あ~やっぱりここにいた」
ふと、声がかかったので修練所の入り口を見やると案の定、エリカがいた。エリカが歩いてくるのを見て、上半身を起こす。
「今日って冒険者ギルドの仕事休みなんでしょ? もしかして、朝からずっと訓練してたの?」
「うん。そうだよ。他にやることもないしね」
「うわ~……流石に毎日訓練なんてちょっとおかしいんじゃないの? ほら、両手出して!」
エリカの有無を言わさない物言いにすごすごと両手を出す。
「ひっどい。両手とも血豆に内出血までしてる! まったく、今日は魔法適正調べるって言ってたのに無茶しないでよね!」
「ごめん」
「ごめんじゃないでしょ。まったく。……ヒール」
エリカの身体から真白の光が彼女の手を通して私の両手を包み込む。温かい。血豆や内出血で真っ黒になっていた両手がきれいに治っていた。
「おー……今までは気絶してたから見てなかったけど、回復魔法ってこんな感じなのか。なんか温かい」
「感謝してよねー。回復魔法が使える人は少ないから希少なのよ!」
「これが私もできれば、訓練も休まずに続けられるね」
「まったく、訓練バカなんだから……。それより、その……さ」
どうしたんだろうか。いきなり、エリカがもじもじし始めた。なにか言いにくい事でもあるのだろうか。
「あの! 昼ご飯作ってきたんだけど……食べる?」
「おぉ、ありがとう! 是非、食べるよ! 美少女からの手料理なんて幸せ者だね」
エリカに向けてにっこりとほほ笑むと彼女は顔を赤くして俯いた。
「び、美少女って……ふ、ふん! ありがたく食べなさい!」
「この前は自分で美少女って言ってたのに」
「自分で言うのと、言われるのは違うのよ!」
その言葉に笑うと、顔を真っ赤にしてわき腹を軽くたたいてくる。
「いた、痛いって。悪かった。悪かったよ」
「もう、からかわないでよね!」
その後、彼女はシーツを広げて、ランチボックスを開ける。中にはハムやチーズにピクルスを挟んだサンドイッチが入っていて、どれもおいしく食べさせていただいた。有無、ありがたや。
「んで、本題に入るけど、今から魔法適正を調べましょうか」
「おお、そうだね。私も気になってたから楽しみだ」
彼女は鞄からソフトボールくらいの大きさの水晶玉を取り出して地面に置いた。
「これが、魔法適正を調べる魔道具よ。使い方はこの水晶玉に魔力を流し込むだけ。そうすると、自分に適した魔法の色に発光するってわけ」
「へぇ……ちなみにエリカは何属性使えるの?」
「ふっふっふ! 聴いて驚きなさい。火、水、風、土、日の五属性よ」
エリカは胸を逸らせて大げさな素ぶりで言うが、実際どのくらい凄いのか私にはわからない。一般の人が二~三属性ってところなのかな?
「おー……でも、一般の人がどのくらい使えるのかわからないからどの程度凄いのかわからないや」
「あー……それもそうね。えーとね。一般人はできて一属性よ。出来無い人も多くないわね。名の知れた騎士や冒険者なんかでも二~三属性で五属性出来るのは30年に一人いるかどうかってところよ。全属性出来る人ってのは未だいないみたいだけどね」
「えっ! じゃあエリカって実は物凄かったりするの?」
「そうよ! もっと有難がりなさい!」
「ははー……」
その後、自分の魔法適正を調べる事にする。
「魔道具に両手をかざして、頭の中で念じなさい。魔闘気が出来るんだから魔力を水晶に流し込むような感覚でやってみると出来ると思う」
「わかった」
水晶に両手をかざして、魔闘気を纏い両手から水晶に流し込むイメージを念じる。
「んん?」
なにか、エリカが不可思議そうに唸ったが、気にせず魔力を流し込む。
「エリカさーん。まだですかね」
「アラン。あなた、魔法適正ないわ。これっぽっちもないわね!」
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