第1話 奇妙な物語の始まり。
この物語はフィクションであり現実に存在しない物、事、場所、があります。
春日井 直人、これは僕の名前だ。
僕はどこにでも居るような普通の高校二年生、黒髪で茶色の瞳、口数は少ない方で、スポーツをやっているわけでもないので筋骨隆々という訳でもない普通の身体、まぁまぁな都会に住んでいるが、家も金持ちというわけでもない、学年一位を取るくらい頭がいいという訳でもない、友達は多い方だがグループの中心的な存在という訳でもない、ほんとそこらへんの高校生やってる人間だ。
僕は一生普通の生活を送って死んでいくのであろう、そう思っていた。
しかし、それは起こった───
「27点だとォォォォォォオオオオォ!?!?????なんでた!?なんでだ!?なんでなんだァァァァ!!!!」
授業中であるにもかかわらず、教室に困惑と絶望が混じった叫び声が響く。
直人はクラスメイト達に初めて取り乱した姿を晒してしまった。
夏休み前の定期考査でこの物語の主人公がやらかしてしまったようだ。
夏休み初日、直人は数学の定期考査で初めての赤点を叩き出してしまい、学校の教室で補修を受けている。
現在は休憩時間だ。
教室内は十数人の生徒がおり、その全ての生徒が、考査にて撃沈した者だ。
落ち込んでいる者、次回の考査への決意を瞳に宿す者、諦めてしまった様子の者、各々それぞれ理由があるだろうが、散々な結果だった者達の集まりだ。
その中で会話をしている二人の生徒がいた。
「はぁ~、テスト週間ちゃんと勉強すべきだったなぁ~」只今心の中は絶賛絶望のドン底にいらっしゃる生徒───春日井 直人が両手を頭の後ろへ回し、椅子の背もたれに体重を掛け、椅子の後ろの足2本と直人の足2本で上手くバランスを取りながら前後にゆらゆらと揺れながらそう呟く。
べ、別に?、俺凹んでねぇし、次はこんな結果にはならないし?そんな顔をしているが、心の中は満身創痍であった。
「俺はちゃんと勉強したんだけどなぁ」と、同じく絶賛絶望のドン底におり、直人の前の席に座っている、茶髪でほんのり赤みがかった黒色の瞳、背が高く、サッカーを幼い頃からやっているので、そこそこ体つきも良く、いつも一緒にいる直人が少し可愛そうなくらいイケメンな男──吉田 悠人が椅子の反対側から座り、直人の机に頬杖をしてそう返した。
「お前に教えるだけで、結構公式頭に入ったし、50点は余裕かと思ったんだが・・・こんな有様になるとは・・・はぁ~」本日何度目か、自然と出てしまう直人の溜息が鬱陶しい。
「俺に教えるだけで50点取れたら苦労しねぇよ、それにしてもお前に教えてもらって結構行けると思ったんだけどなぁ」悠人は直人に教えてもらったにも関わらず、直人よりも悲惨な点数だった。
そんな直人の親友である吉田 悠人は一歩歩けば女の子一人を引き寄せる、少し言いすぎたが、それ程のイケメンである。
しかし、そんな悠人は欠点がある。
全てを完璧に持ち合わせて生まれてくる人間はそういない…
神様は人間を平等になるようにしているようだ。
そう、悠人は勉学の方は全くもってダメなのだ。
直人の様に、数学だけ赤点ならいいのだが(よくない)、悠人は三教科以上赤点を叩き出すのだ、毎回と言っていい程に。
しかし、直人としては親友なので、一緒に勉強してあげたりしている。
悠人はサッカー一筋で生きていこうと思っているのだが、担任の先生や、進路主任、親からもサッカーだけ出来ても、今の悠人の学力では卒業が危ぶまれると、散々言われている。
しかし、当の本人に危機感は無く、周りの人間からは見放されがちだ。
直人はそんな親友を見ていられない、という理由もあって、勉強を手伝っている。
ここで気になるのが、何故直人と悠人は親友になったのか。
女性が聞けば最低な出会いだ。
男子諸君!君らは分かってくれるはずだ!聞いてくれたまえ。
直人は悠人と中学時代から同じ学校に通っており、三年間同じクラスだった同級生だ。
元々、直人は悠人とまったく話さなかったのだが、中学一年生の時の校外学習で同じ行動班になったことが親友になるきっかけだった。
中学一年生の校外学習───
中学生になったばかりで、クラスの中でも、生徒同士でまだ初対面の人間が多い時期なので、学校では、校外学習という体で、生徒達が触れ合える場を作るのが恒例となっている。
「では、校外学習の事について色々と決めていくぞ~、まず行き先だが、今回は介護施設に行くことになった、今から行動班を決めるぞ」そう言って担任の先生がホームルームを始める。
「一班五人で編成してもらう」先生は黒板に班が決まったあとにメンバーを書くための枠を書き始めた。
このクラスは全員で四十人なので八つの班に分けるようだ。
「賢治~、一緒の班になろうぜ~」
「おっけ~」と、ある男子。
「春ちゃん!私と同じ班になろうね!」
「もちろんだよ!私、優ちゃんじゃないと体が受付けなくて♡」と少々危なげな発言をする女子。
この中学校は、主に三つの小学校の卒業生が入学する学校で、クラスに同じ小学校だった人間がいる生徒が多いので、話し相手がいる生徒がほとんどだ。
しかし、直人は同じ小学校だった奴はこのクラスにおらず、他のクラスに一人いるだけで、話し相手はいなかった。
詳しいことは後に分かるだろう。
はしゃいでいる生徒達へ、黒板に枠を書き終えた先生が制止の声をかける。
「おーい、誰が好きな班で組ませてやると言った?」その声に生徒達が一同肩を竦める。
「班はくじで決めるんだよ、クヒヒ」そう言って先生は作って来たくじを取り出す。
「さぁ、引け!」なんか一瞬変な方向へ曲がって行った先生は無視して生徒達は順番にくじを引いていく。
「よし、全員引いたな?では自分のくじの番号を見てくれ、それが自分の班の番号だ、黒板に自分の班の番号の枠に自分の名前を書いてけ」一斉に生徒達が黒板に集まる。
気になる直人の班の番号だが
「7か・・・ラッキーセブンだな」
そう独り言を言いながら黒板の自分の班の枠に自分の名前を書いて席に戻った直人に話しかけた人物がいた
「ねぇ、君7班だよね?俺は吉田 悠人、よろしくね」やっと出てきました悠人君。
直人と同じく、同じ小学校だった奴がいない悠人は、見たところ、同じ小学校だった人間がいなそうだった直人と友達になりたいらしく、話しかけてみたらしい。
「あ、あぁ、君も7班なんだね、僕は春日井 直人、よろしく」直人は少し面倒くさそうに挨拶をした。
正直、直人はこんなイケメンで目立つ人間と親密な関係を積極的に築きたいとは思わなかったのであまり話しかけてほしくなかった。
そんな、あからさまに嫌悪感を出された悠人は、そんな軽い挨拶をして、諦めたような顔をして、席へ戻った。
その後、班で集まり、役決めをして今日は終えた。
何度か打ち合わせを重ね、準備を進めていき、校外学習当日が訪れる───
現在、直人達を乗せたバスが森の中を走っている。
先生の話を聞く限り、目的の介護施設は設立者の自然豊かなところに建てたいという思いから、かなり木が生い茂っている森の中に建てられているとのことなので、現在バスは、森の中のまぁまぁ整備された道路を走っているのだ。
(いくら自然豊かなところに建てたいからってこんな森の中に立てる必要あるか?緑地の隣とかじゃダメなのか?)直人は内心校外学習なんて、生徒達を触れ合わせた、というただの教師の自己満足じゃないか!なんで俺がそんなのに付き合わなきゃならないんだよ、と、思っていたので、こんな行事は嫌だった、なのでなるべく早く帰れる、できるだけ近い場所が良かったのだ。
「校外学習めんどくさいよなぁ~」突然隣から投げられた言葉の主──吉田 悠人が直人と同じことを思っていたらしく、なんともわざとらしく直人に聞こえるように呟いた。
校外学習の班でのバスでの座席の打ち合わせで、直人と悠人は隣同士になってしまったのだ。
「僕も同じこと思ってたよ」直人は少しめんどくさそうに答える。
「こんな森のど真ん中に建てなくたってねぇ~」悠人はバッグから水筒を取り出しながらそう会話を続けた。
「そ、そうだよね」そう言いながらなんとなく悠人のバッグの中身を見た、その瞬間、直人は一生の親友を手に入れることになる。
ふと見た悠人のバッグにあったものに直人の意識が全てそれに向く。
「そ、それって…」直人の心音が一拍体に走った。
「ドクンッ…」
直人がバッグに入っているある物を指差す。
「ん?あぁ、これ?しってる?」何故か、悠人がニヤついて答える。
「それ、もしかして……「あれ」?」直人は何とは言わず「あれ」と言った。
「あぁ、そうさ、「あれ」だよ」悠人もバッグに入っているものを「あれ」と言って答えた。
直人の心音がもう一度体を走る。
「ドクンッ…」
もう「あれ」から目が離せない!この面倒くさい校外学習に光が差した。
次第に直人の脈拍が速さを増す。
「ドックンッ…、ドックンッ…、ドックンッ…」
直人が目撃したそれ、悠人のバッグに入っていたそれ、二人が、いや、全世界のある生物共が大好きなそれ。
直人は誰が見ても唾を飲み込んだのだと分かるほどの音と仕草で唾を飲む。
「ゴクリ…」
「あれ」の正体、それは………
そう……先週発売されたエロ本だった。
なんでそんなもん校外学習に持ってきてんだァァァ!と思っただろう、しかし、今その事は置いとくとする。
直人と悠人はバスの中でエロ本など言葉に出来ないので、「あれ」と、隠語で言っていたのだ。
そのエロ本の表紙には、黒髪ロングの二十代後半ぐらいの歳の女性が、ベッドの上に裸Yシャツで、両肩をさらけ出し、女の子座りで、左手は股に、右手は人差し指の腹が唇に触れている、そんないかにもエロ本!な感じの表紙でタイトルは「今夜あなたの部屋へ参ります」
「「・・・」」
少しの間、二人の間に沈黙ができるが、しばらくすると、(兄弟っ!!!!)二人はそう心の中で共鳴し合いながらがしっと握手をした。
ここに、直人の一生の親友が出来た…
この後校外学習は無事終わり、帰りのバスで直人と悠人は例の「あれ」を奴が振るい立ちながら読んでいたが、下を向いたままバスに揺られたので、学校についた頃には、とても気分が悪そうだった。
実はこの一年後の修学旅行で更に仲良くなったことは別の機会に話すとする…
なんともくだらないが、男という生物にとってはとても運命的な出会いなのだ。
性癖が合うというのは。
「ほんと今回範囲狭かったから余裕かましすぎちまったなぁ、はぁ~」と、直人は溜息をつくが、それを見た悠人が「今月の新作貸してやるからそう気を落とすな」と言い、それを聞いて直人は色々と元気になった。
そんな雑談をしていた二人に
「ねぇ、直人、今暇?」突然教室の引き戸の方から聞こえた直人の聞き慣れた声に直人と悠人が視線を向けると、教室の外で、全開の引き戸から体の半分を覗かせている、端正な顔立ちで、長く美しい茶髪で髪の先が少しブロンズがかっているストレートの、高校生とは思えない艶めかしさがある美しい女の子───三坂 雪が少し前かがみになり、右手は垂れてきた髪を耳にかけるというなんともあざといポーズをしてこちらに話しかけきた。
「あぁ、雪ねぇか」そう直人が目の前で口を押さえて「グハッ!、なんとエロいポーズ!」と悶えてる親友をスルーして雪に女子に対して失礼とも言える発言をした。
「ちょっ、それ酷くない!?それが女の子に対する態度!?どうしたの?雪ねぇ…とかでいいのに、なによ!あぁ、って!その期待外れなものを見たような態度は!」雪はもうそれはそれはお怒りの様子だった。
何故、直人が何故あのような態度をとったかというと、直人も悠人と同じく、雪のポーズに内心悶えてしまい、今にも鼻血がスプラッシュしそうだったのだ。
目を逸らすのと、今の感情が漏れないよう、平常心を保とうとした結果、、、雪にはちっとも興味がない様な態度を取ることにした直人は「あぁ、雪ねぇか」と、放ったのだ。
少し声が震えてしまいながらも、放ったその言葉は、雪が鈍感故か、当の本人には、”期待外れなものを見た態度”と勘違いしたらしく、気付かれてはいないようだ。
ぷくぅと頬を膨らませなんとも可愛く怒った雪もスルーして「雪ねぇも補修か?」と、直人がそう聞くと、スルーされて「うっ」と、若干ダメージを受けた雪がこちらへと歩きながら
「ち、違うわよ!生徒会の仕事よ!あんたと違って私はちゃんと勉強してますから!」
直人が自分への態度の事について、もう触れる気がないと察したプンスカ雪ちゃんは、自分が何故夏休みに学校にいるかを説明した。
どうやら雪は生徒会の仕事で夏休みに学校に駆り出されたらしい、これまたラノベ展開を彷彿とさせる、ヒロインぽい女子が委員会に所属している、という設定、しかも、会長だという。
そして、もう一つ重要な事実がある。
世の中の男性が一度は憧れるであろうシチュエーション。
この絶世の美少女、三坂 雪は───
直人の家の隣の幼馴染のお姉さんなのだ!
ちなみに、直人の学校の先輩にして幼馴染のお姉さんである三坂 雪は、生徒会の仕事の最中であるにもかかわらず、直人の様子を見に来たのである。
これが意味することは一つ…
そう、雪は直人に好意を抱いていた。
それが今後の展開で重要な鍵となることになるのだが、それは今後の展開のお楽しみ。
五年前───
風の流れが気持ちよく頬を撫でる、夏には子供たちがはしゃいでいる小川が心地よい水音を立て耳を擽ってくる。
五年前まで、直人はそんな自然溢れる場所に住んでいた。
住んでいる人も僅か20人程というとても小さな村で、直人はこの村で母と妹の3人で暮らしている。
父は直人が物心ついた時から働きに出ており、正月や家族の誕生日の日や結婚記念日にしか帰ってこないが、父のお陰で貧しい思いをすることもないし、家族の大切な日は忘れず帰ってきてくれるので恨んだりはしていない。
そんな直人には幼馴染の女の子がいた。
物心ついた時からいつも一緒に遊んでいた女の子、可愛らしくて元気いっぱいで茶目っ気たっぷりの女の子────三坂 雪だ。
雪もまた、父親が働きに出ており、雪は、母親、妹、の女3人で暮らしていた。
なんとも偶然的であるが、直人の父親と雪の父親は働く先が同じであると直人と雪は母親から聞かされている。
雪はこの頃から直人に気があった。
雪はとても方向音痴で、ある日、森の中へ村の子供たち七、八人で遊びに行った時に、雪が可愛い花を見つけ、それに気を取られて皆とはぐれてしまった事があったのだが、直人は子供とは思えない程の迷子探知能力を使って、雪のことを見つけてくれた。
見つけてくれた後も絶対離すもんかとずっと雪の手を握って手を引いてくれて、たまに雪が疲れていないか後ろをチラッと見ながら皆の所へ連れてってくれた。
雪が怪我をすると、誰よりも早く駆けつけてくれた事もあった。
そんな所に惹かれていた。
そして、雪が直人に惹かれた一番の理由としては、雪が喜んだり、悲しんだりしている時は、一緒に喜び、悲しんでくれる所だった。
そんな些細な事ではあるが、そんな所がとても好きだった。
そんな二人を見ている周りの友達は「あ、こいつら出来てんな」とか「キャー♡」とか言って女子は雪の気持ちに気付き、男子共は直人と雪は両思いなのだと勘違いしていた。
実際、この頃は直人も雪のことはただの幼馴染として接していた。
、 、 、
この頃、は…
五年前直人はここに住んでいた。
なぜ現在は都会に住んでいるのか…
直人は小学生の頃は毎日都会まで通っていたのだが、中学生になると、直人の母親が学校に近いほうがいいからと言って引っ越すことを決め、急に都会に引っ越した。
しかし、直人は疑問に思うことがあった。
調べたところ、村からの距離が、直人が通っていた小学校よりも、通おうとしている中学校の方が近いのだ。
疑問点はそれだけではなかった。
なんと、村の全ての家が引っ越したのだ、それを母親に聞こうとしても、毎回話をはぐらかされてしまい、結局直人は聞くのを諦めた、しかし、後にこの村の行動の意味を知ることになる…
こんな可愛い子が幼馴染のお姉さんでしかも好意を持ってくれてるなんて羨ましい!と、この作品の作者も叫んだことであろう…それはさておき、そんな小さいやり取りをしていた直人たちを遮るように、教室の引き戸がドンッと音を立てて開き、赤色のフレームの眼鏡をかけた黒髪ツインテールの女の子───生徒会副会長の永野 幸子が教室に入って来た。
「会長!どこをつき歩いたんですか?!残りの仕事全部会長に押し付けますよ!」とても剣幕な目つきで怒鳴ったが、頬をぷくぅと膨らませ、とても可愛らしい声で怒鳴る故、迫力が皆無となった怒声が教室に響く。
「げっ、もう見つかっちゃったか」そう顔を引き攣らせながら呟いた雪に幸子はステステと近づいてきて雪の手を掴み、その身長と外見からしてありえないほどの力で雪を引きずって、律儀に「失礼しました」と教室の引き戸の前で一礼して教室を出ていった。
「いたたたたっ、やぁ~めぇ~てぇ~~あああぁぁぁぁあぁぁあぁぁぁぁ~~」と叫び声が聞こえたが、その声も間もなく消えた。
「何しに来たんだよ、あいつ」実は直人が学校にいることを知った雪ちゃんが、ただただ会いたかったという理由で、教室に来たことを知らない直人が、頭上にクエスチョンマークを浮かべて首を傾げた。
「あの美少女はっ、お前の知り合いなのか……?」鼻息を荒くし、興奮と嫉妬の混ざった声で悠人が直人に問うと。
「フッ……俺の幼馴染の姉さっ……」
直人は自慢げに、かの有名なアニメ、ちび○子ちゃんの花○君のように、前髪をバサッ、キラキラ~と、なびかせた。
それと同時に先生が教室に入って来た、どうやら休憩時間も終了のようだ。
直人は数学の定期考査で赤点を取った訳だが、その点数は27点という悲惨な点数だった。
考査前一週間───
「今回の数学は教科書10ページ分の範囲か、余裕だな」と悠人がほざく。
「あまり手を抜きすぎるなよ」最終的に自分も手を抜いてしまう直人がそう忠告する。
「わぁってるよぉ~、まぁ、今回は余裕だろぉ~」悠人が手をひらひらさせて、絶対に分かってない様子で答え、やはり余裕だと言う。
「正直今回は余裕かもな」直人も悠人に余裕余裕と言われ、悠人に洗脳されているのに気付けずそう呟くと、直人の両肩に、真っ黒なスーツを着て、釣り目、頭に角、背中にはドラゴンの様な、しかし、そんなに厳つくない羽を生やしてて、いかにも虫歯のバイ菌が持ってそうな三股の槍を持った、彼の名は春日井・デビル・直人。
と、真っ白なスーツを着て、頭に黄金に煌々と輝く輪っか、眩しすぎて思わず目を瞑ってしまうくらい輝いている鳥の様な羽を生やした、彼の名は春日井・エンゼル・直人。
そんな姿のリトル直人二人が、ポンッと音を立てて現れた。
『おい、直人、今回の範囲は余裕だなぁ、ノー勉で行けるんじゃね?行ってみようぜぇ~』と直人の声がガラガラ声になった声で、悪魔のように囁く春日井・デビル・直人。
『だめだよ!どんな状況でも勉強は怠ってはならないよ!』と直人の声が高くなった声で反論する春日井・エンゼル・直人。
『うっせー!みんな同じこと思って、ノー勉だろうから、ノー勉で行ってもいつもと変わんないさ!お前は引っ込んでろ!』デビル直人はそう反論し、三股の槍でエンゼル直人の腹部を指し、頭を叩き、バッティングの要領でエンゼル直人をメッタメタにしてぶっ飛ばした。
『あぁぁぁれぇぇぇぇぇ~~~~』エンゼル直人の声が次第に小さくなっていき、やがて消えた。
デビル直人はエンゼル直人に『バイバーイ、ウシシ』と、ニヤつきながらそう言った。
今回はデビル直人の勝利のようだ。
─────休憩時間の終了から二時間後、やっと補修が終わり、そんなことを思い出し、「あそこでデビル直人に勝っとけばよかったなぁ、エンゼル直人弱すぎ…」と小さく呟いた直人と、「ん?」とよく聞こえなかったため聞き返した悠人が階段を降りている。
「いや、何でもねぇ」
「ん?そうか?まぁ、いいや、にしても、やぁっと終わったぜぇ~~~長かったぁぁぁ」と開放感への喜びと、やっと「あれ」を見られるということへの喜びを交えた声で、悠人がニヤつき、周りの迷惑にならない程度に伸びをしながらそう言った。
「そうだな」デビル直人に今度こそは勝ってみせる!と決意した直人が答える。
「これで当分考査も無いし、暇だなぁ~、なんかおもしれぇ事ないかなぁ」と悠人がその言葉を発した時だった。
この地球で地震が起こる時はP波(初期微動)、S波(主要動)と二段階で揺れが襲って来るように、大災害時は前兆があるものだ。
しかし、この物語に我らの常識は無かった。
ドゴオオオオオォォォォォォンンンンッッッッッッ──────────
震度9もあろうか、心臓を直接殴りつけられた、そう錯覚するような爆発的な轟音と衝撃と振動が直人と悠人、その時学校内にいた生徒、教師に襲った。
この現象と共に奇妙な物語が始まろうとしていた。
「悠人、お前、フラグ建てんなよ・・・」
「すまん・・・」
そんなことを言うべき状況ではないのに、直人と悠人のそんなやりとりが階段に響く。
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