EX10-2 補遺:魂喰い(後)

 



 サクリアが去ったあと、フラムとミルキットはエターナの部屋に向かった。

 二人を招き入れた彼女の腕の中にはインクの姿があった。

 どうやらインクを背中から抱きしめながらベッドの上に座り、二人で本を読んでいたらしい。


「見せつけますね、エターナさん」

「わたしだけ我慢しても仕方ないから」


 我慢していたという事実を知って、にへらと笑うインク。

 確かに、今や二人は公然の仲ではあるし、現在もミルキットはフラムにべったりと抱きついているのだから、変に自重してもこの家では損をするだけだ。

 フラムは顎に手を当て、弟子の成長を喜ぶようにうなずく。


「ようやくその域まで達したか、みたいな師匠顔やめて」

「素直に感動しただけだったんですが……じゃあ本題に入りますね」


 フラムたちは、椅子に腰掛け話を始める。


「さっきサクリアさんっていう、女性の記者が来たんです。魂喰いの過去について教えてくれました」

「そんな話だったんだ」

「なんでも、キロティって村で、生贄の命を奪うのに使われていたそうなんです」

「それはまた物騒な話」


 サクリアのことを思い出してか、ミルキットがきゅっとフラムの袖を掴む。

 その仕草に、インクは目を丸くして首をかしげた。


「ですが、いつしかその村の領主は自らの欲望を満たすために村人を殺すようになり、最終的に住民を皆殺しにしてしまったそうです」

「ねえねえ、それって村が一つ無くなっちゃったってことなの?」

「うん、サクリアさんが言うにはね」

「だったら大きな騒動になっていないとおかしい」


 エターナの指摘と同じことをフラムも考えていた。

 もっとも、どれだけ昔のことかわからないので、よほど古ければ記録に残っていない可能性も考えられるが。


「そのキロティという村だけど、わたし知ってるかもしれない」

「本当ですか!?」

「記憶は曖昧だけど、確か20年ぐらい前にモンスターに襲われて壊滅した村だったと思う」

「壊滅の原因はモンスター……」

「サクリアさんの話とぜんぜん違いますね」


 そもそもの話として、サクリアの話が事実かどうか、確かめる方法はないのだ。

 いきなりアポイントメントも無しにやってきて、あんな話をするだけして去っていく――そんな怪しげな女性の話を、完全に信じるほうが難しい。


「フラムは優しいから色んな人の頼み事を聞いちゃうけど、近づいてくる人の中には悪い人や変な人も多いと思うんだよね。困ってる人からの相談でもないんだし、気にしない方がいいんじゃないかな?」

「インクの言う通り。ただでさえ厄介事を引き寄せるタイプだから、大人しくしておいたほうがいい」

「そう……ですね」


 二人の言う通りだと思った。

 しかし、フラムの中でどうしても引っかかるのは、神喰らいを見たときのあの“目”だ。


(ひょっとすると、神喰らいを見ることが目的だったのかな……)


 オリジンを殺した武器に憧れがあった。

 国民の中には、信仰めいた感情をフラムに向け、神様扱いする人だっている。

 そういう人間のうちの一人だとしたら納得はできる。

 だが、サクリアのあの目は――そんな前向きなものではなく、もっと淀んだ、昏い感情な気がしていた。


 ◇◇◇


 翌日、フラムは中央区にある三階建ての建物の前にいた。

 マンキャシー新聞社だ。

 マンキャシーの血筋は途絶えてしまったが、その名前や理念を引き継いだ会社はコンシリアに複数存在する。

 かつてリーチやウェルシーと共に仕事をしていた人も少なくないため、その名を使う会社は信用できるとフラムは感じていた。

 エターナやインクからは関わらないほうがいいと言われたが、フラムも魂喰いの過去については気になっていたのだ。

 ちなみに、ミルキットには家にいるよう言ってある。

 仮に言われた通りの厄介事が起きるのだとしたら、巻き込みたくないので連れてこなかった。

 フラムは建物に入ると、受付嬢に声をかける。

 相手は急にフラムが来たものなので、驚いた様子だった。


「急で申しわけないんですが、サクリアさんという記者に会えませんか?」


 アポを取っていなくても、フラムが相手だと基本的に誰でも会ってくれる。

 だがフラム自身はそういうのを嫌がるので、普段は約束を取り付けるようにしている。

 今日はあくまでイレギュラーである。

 数分後、中年男性と、若い男性が一階にまで降りてきた。


「まさかフラム様が来てくださるとは! 光栄です。さあさあ、こちらへ」


 二人に応接室に案内される。

 フラムは若い男性を見つめながら廊下を歩いた。

 部屋に入りソファに腰掛けると、彼女は単刀直入に聞いた。


「サクリアさんはどこにいるんですか?」


 編集長は困惑しながら、自らの隣を指す。


「彼がサクリアですが」


 紹介され、銀髪でオールバックの男性が軽く会釈をした。

 スーツを纏い、細身で目つきは悪いため、一見して怖い印象を受けるが、敵意は感じられないし物腰も柔らかい。


「この新聞社に、他にサクリアという名前の方は?」

「いませんよ、彼だけです。だよな?」

「ああ、そんなに多い名前でもないからな」


 低い声で本物の・・・サクリアが言った。

 フラムの表情が曇ると、編集長は恐る恐る尋ねる。


「何か、あったんですか?」

「それは――」


 彼女は昨日、サクリアと名乗る女性記者が家を訪れたことを語った。

 貰った名刺も見せ、そして彼女の語った魂喰いに関する逸話も全て話す。

 するとサクリアと編集長は驚いた様子で顔を見合わせた。


「魂喰いとキロティ……少々お待ちいただいてよろしいですか!」


 慌てた様子で部屋を出ていく編集長。

 数分後、彼は分厚い封筒を手に戻ってきた。

 テーブルに上にぼふっとそれが置かれる。

 その拍子にフタ部分が揺れ、中がわずかに見えた。

 入っていたのは紙の束だ。


「この文書は?」

「数日前に編集部に送られてきた、何と言いますか……」

「怪文書だよ」

「まあ、そんな感じのものです。差出人は不明、ただこの内容を我が社の新聞に掲載してほしいとだけ」

「見せてもらってもいいでしょうか」

「ええ……もっとも、最初の方はフラム様もご存知だと思いますが」


 フラムは文書を受け取り、目を通す。

 それは『皆さんは、神喰らいという剣をご存知だろうか』という一文から始まる原稿・・だった。

 新聞に載せることを意識してか、記事に寄せた文体で書かれたその内容は、まさに昨日、あの女性がフラムに語ったものと同じだった。

 キロティの村は、アルフレッドの握る剣によって全滅する。

 だが――こちらにはまだ、続き・・があった。


 ◇◇◇


 アルフレッドは村人を皆殺しにしたあと、凶器である剣を隠した。

 そして、冒険者に助けを求めたのである。

 モンスターの大群が村に襲いかかってきた、私以外は誰も助からなかった、と。

 目撃者は全員死んでいるのだから、事実の書き換えは容易かったはずだ。

 こうしてキロティでの惨劇はモンスターが引き起こしたものとなり、王国の歴史に刻まれた。


 さて、その後アルフレッド氏がどうしたのかだが、王都に住まいを移した。

 凶器たる大剣を闇商人に売りさばいたのはこの頃のことである。

 本当は砕いて証拠を隠滅したいはずだが、呪いを吸い、魂喰いという名を得た漆黒の剣に宿った思念はあまりに強く、売る以外に手放す方法が無かったのだろう。

 そして、惨劇の“被害者”という同情される立場を利用し、王都でビジネスを展開。

 五年前のオリジン戦争でもまんまと生き残り、王都復興に尽力した。

 現在は孤児院や学校などを経営しており、誰もが人格者として彼を慕っている。

 そう、東区の一角に屋敷を構える、“心優しき慈善活動家”こそ――大量殺人鬼であるアルフレッド本人なのだ。


 現在の彼の姿は、キロティでの事件を反省した結果だと思う方もいるかもしれない。

 しかしそれはどうだろう。

 なんと王都で暮らす彼は、かの悪名高きサティルス・フランソワーズと親しくしていたのである。

 二人を繋ぐ縁は、違法な奴隷売買にあった。

 もちろん奴隷を手に入れる目的は、殺害し、自らの欲を満たすためだ。

 屋敷の裏にある焼却炉は、もっぱら死体を燃やすために使われているという。

 キロティの事件は二十年前。

 それから十五年が経過した時点でも、アルフレッドはまだ欲望に取り憑かれていた。

 ならば今はどうだろうか。

 筆者が調べた限りでは、彼の運営する孤児院や学校において、年間平均して四名程度の行方不明者が出ている。

 それ自体は珍しいことではないが――これらは全て、アルフレッドの手によるものかもしれない。


 この記事を読まれた読者のみなさんは、おそらく今、嘆いていることだろう。

 冒涜以外の何者でもない記事を見て、憤る者もいるかもしれない。

 しかし、私は声を大にして言いたい。

 アルフレッドという人間には、その死を悼む価値すら無いと。

 凶刃に倒れ、苦しみ抜いて命を落としてもなお、抗えぬ罪を背負っているのだと。


 この記事が世に出ることで、少しでもその真実に気づく者が増えることを私は願う。


 ◇◇◇


 “記事”としての文書は、ここまでで一段落している。

 残りはアルフレッドの悪行の証拠の数々であった。

 その執念は恐るべきものだ。

 怪文書と呼んで切り捨てるのは、いささか雑すぎると感じるほどに。

 だがそれ以上に――フラムには気になることがあった。


「アルフレッドは……生きてる?」

「そりゃ有名人だからな。あんた知らなかったのか」

「でもこの文章、そのアルフレッドさんが死ぬこと前提じゃないですか!」

「だから言ったろう、怪文書だって」

「いいえ、これは……ああ、そうか、だから私に!」

「どうなさったんですか?」

「編集長さん、アルフレッドは東区に?」

「東区の南側にある城壁沿いに屋敷はあります。まさか、本当に彼が殺されると?」

「私に会いに来た女性はそういう“目”をしていました。急ぐので窓から失礼します!」


 フラムは応接室の窓から外に飛び出すと、東区へ向かって加速した。

 残された編集長は呆け顔でそれを見送る。

 一方でサクリアは、開いた窓からその向こうにある空を、どこか寂しそうに見つめていた。


 ◇◇◇


 フラムは一瞬で屋敷まで到着する。

 さながら流星のごとく現れた彼女に、門番はのけぞりながら驚いた。

 フラムも申しわけないとは思っていたが、今はとにかく時間がない。


「ここ、アルフレッドさんの屋敷ですよね。彼はいますか?」

「主なら出かけておりますが。しかしフラム様がなぜ……」

「居場所を教えて下さい、お願いします!」


 兵士の肩を掴むフラム。


「少々お待ち下さい、上の者に聞いてきます」


 焦ってはいたものの、正直、追いかけたところで何がしたいのか自分でもわからなかった。

 あの話が全て事実なら、アルフレッドに生きている価値など無い。

 しかし、サクリアを名乗ったあの女性はあまりに危うい。

 殺しても、殺さなくても、どちらにせよ破滅へと歩んでいるようにしか見えなかったから。

 とにかく自分が介入すれば、少しはマシな結果になるのではないか――と。

 そう思ってしまう――否、そもそもあの女性が会いに来たこと自体が、そう思わせる・・・・ためなのではないか。


(あの人は、私を何に巻き込もうとしてるの……?)


 確かにエターナたちの言う通り、無視しておくべきだった。

 しかし、そう出来ないように、“魂喰い”という興味や好奇心で縛ったのである。


(ああもうっ、ここまで来たら最後まで付き合うしかないじゃん!)


 今さら手を引いたところで、半端すぎて気持ちが悪い。

 苦悩しながら待っていると、先ほどの兵士が上司らしき燕尾服姿の男性と一緒に戻ってくる。

 おそらくアルフレッドの執事なのだろう。


「お待たせいたしました、フラム様」


 執事は丁寧に頭を下げ、落ち着いた口調で話をはじめた。

 だがポーカーフェイスは完全ではなく、端々に主の情報を他者に漏らすことへの葛藤が見え隠れしていた。

 相手がフラムでなければ、決して話そうとはしなかっただろう。


「主様は現在、所有する倉庫で客人と会われています」

「女性の記者ですか?」


 フラムにずばり言い当てられ、驚く執事。


「え、ええ、その通りです。何やら大切な話だからと、三十分ほど前に。護衛も連れていないようですが――」


 そして彼は、倉庫の詳細な場所を話してくれた。

 急ぎであるがゆえに、礼もそこそこに再び駆け出すフラム。

 徒歩で五分ほどの距離は、彼女にとっては一瞬だ。

 滑るように倉庫の入り口前に到着すると、鍵のかかった大きな扉を力づくで押し開いた。

 薄暗い倉庫の中――静まり返った空間に、にちゃ、ぐちゅ、という音だけが繰り返し響いている。


「っ……」


 フラムは即座に状況を理解し、思わず息を呑んだ。

 遅かったのだ。

 音の元に近づくと、広い空間の真ん中で、ねじ巻き人形のように同じ動きを繰り返す人の姿があった。


「197……」


 馬乗りになって、ナイフを振り下ろす女性。

 おそらくその下にいるのは、アルフレッドの亡骸だろう。

 数え切れないほど傷つけられ、もはや顔は原型を留めていなかったが。

 死体の周囲には何本かの血まみれのナイフが落ちている。

 最初から、死体をめった刺しにすることを目的として、複数本用意していたのだろう。


「198……」


 フラムは足音も殺さずに彼女に近づく。


「199……200……」


 そして、その手をそっと止めた。

 女性はフラムを見上げると、血走った目を見開いて声をあげた。


「止めないでくださいッ! あと……あと2回なんです……ッ!」


 キロティの人口はおよそ200人と言っていた。

 おそらく、202人が正確な人数なのだろう。

 フラムは少しうつむくと、その手を離す。


「201ぃ……はあぁ……はぁ……これで、最後っ……202ぃぃぃっ!」


 ぐちゅんっ、と刃が肉塊に沈む。

 女性は柄から、滑らせるように手を離した。

 血がにちゃりと糸を引く。

 そして彼女は立ち上がると、両手を開いてフラムに向き合った。


「さあ、どうぞ! お願いします!」


 常人が見せることない笑顔で。


「あなたは正義の英雄フラム様でしょう? 正義の味方なら、心優しき貴族を殺した私を罰さなければなりません! だから早く、早くその魂喰い――いえ、神喰らいでッ!」


 このときを心待ちにしていたかのように。

 フラムは自らの手の甲に浮かんだ紋章を見つめ、もう一方の指先で撫でると、静かに首を振った。


「どうして……」

「私は正義の味方なんかじゃないよ。何人も殺したことがあるんだから。ごめんね、魂喰いに殺されたいっていう願望を叶えてあげられなくて」

「同情ですか」

「かもね。少しでもその気持ちが理解できると思った時点で、罰とか、裁きとか、そういうのを下す立場の人間じゃないんだよ」

「……」

「失望した?」

「いえ、思った通りの人で安心しました。人々が語る英雄なんて、やはり偶像でしかないんですね」

「そんなものだよ。他のみんなだって、血の通った人間なんだから」

「だとしても……問題はありません。きちんと、居場所・・・は確かめましたから」

「居場所?」

「迷子にならないための、道標です」


 女性は穏やかに微笑んだ。

 血の化粧とのギャップに、フラムは寒気を感じる。

 顔だけ見れば正気のように見えるが、彼女はいまだ、狂気の中にいたから。


 ◇◇◇


 その後、フラムは衛兵を呼び、女はあっさりと捕まった。

 みなに愛された貴族、アルフレッドの死は大きなニュースとなった。

 アルフレッドは、またしても悲劇の被害者として扱われ、そして女は名前すら記されずに『貴族への妬みで凶行に及んだ愚者』として報じられた。

 しかしマンキャシー新聞社だけは違った。

 彼女の送った文書と証拠を元に、アルフレッドの過去の悪行を暴いていったのだ。

 もちろん反発も大きかった。

 一方で言い逃れのできない証拠があまりに多く、心優しき貴族の仮面は見事に剥がれていくのだった。

 だが、その結末をあの女性が見ることはない。


 捕まった翌日、彼女は獄中で自ら命を絶った。


 ◇◇◇


 事件から数日後、フラムは再びマンキャシー新聞社を訪れた。

 サクリアに会うためだ。

 今回は応接室ではなく、彼と二人で外を歩きながら話すことにした。

 人のいない、静かな裏通り。

 ふいにフラムは足を止めて、彼に問いかける。


「あの女性の名前、教えてもらえる?」


 サクリアも止まると、ふっと笑ってとぼけた顔で答えた。


「知るわけないだろう、他人なんだから」

「ううん、違う。あなたはあの女性と繋がっていた」

「英雄様は名探偵にでもなったつもりかい?」

「アルフレッドは狡猾な男だよ。同時に、用心深くもあったはず。でなければ、あんな大量殺人犯が善人の顔をして20年も生きていけるはずがない」

「それで?」


 彼はわざとらしく不遜な態度を取り、ポケットに手を突っ込む。


「そんな彼が、どこの馬の骨とも知れぬ記者の呼び出しに応じて、二人きりで倉庫で会ったりする?」

「会ったんだろうさ、実際」

「私もマンキャシー新聞社の名刺が無ければ、家に招き入れなかったよ」

「だから、何が言いたいんだよ」

「用心深いアルフレッドを呼び出したのは、彼女ではなくあなたなんじゃないかって。ねえ、サクリアさん」


 壁にもたれ、足元を見つめるサクリア。

 彼は「ふぅー」とため息をついた。


「隠しても絶対に信じねえって顔してんな」

「嘘つきの目を見抜くのは得意だから」


 フラムの鋭い目つきに、どうやら男は観念したようだった。


「ったく……そうだよ、俺がやった。証拠で揺するだけじゃあ二人きりになるには弱い・・らしいからな、俺が連絡して、俺が呼び出した。で、どうすんだ? 俺を殺すのか? それとも衛兵に突き出すか?」

「何もしないよ。最初に言ったとおり、私は彼女の名前を知りたいだけ」

「……英雄様が、俺みたいなのを見逃してもいいのかい?」

「なりたくてなったわけじゃないから」

「とんだ暴言だな、国民が泣くぜ? はぁ……スレイだよ。もっとも、出生記録すら王国には残ってねえだろうけどな」

「スレイ……」


 それは、どこの新聞を読み漁っても見当たらない名前だった。

 記者たちも調べようと試みたはずだ。

 しかし、彼女の名前は彼女自身と、その親しい人間にしか伝わっていなかった。


「キロティがまだ存在した頃、アルフレッドに殺されることを恐れた親御さんが、出産したことすら隠したんだね」

「ああ……そのおかげで、20年前の惨劇を生き残った。そして虎視眈々と、アルフレッドを殺せる日を待ちわびていたわけだ」

「決行前日に私に会いに来た理由は?」

「わかんねえよ。家族に挨拶にでもしにいったんじゃねえのか」

「それで神喰らいを見たがってたんだ……じゃああなたは? キロティの生き残りなの?」

「俺は違う。ただ、あいつの手伝いをしてやりたかっただけだよ」


 男の言葉には、いくらかの後悔がこもっているような気がした。

 だが、止められなかったのだろう。

 20年前、村が滅ぼされた時点で、スレイの命はアルフレッドを殺すための存在になってしまったから。

 その否定は、スレイという人間そのものを否定することに等しい。


「なあ、もう帰っていいか? 英雄様に呼び出されたっていうと嫌でも目立つんだよ。記者にとっては致命的だ」

「聞きたいことは聞けたから大丈夫。ありがとう」

「人殺し手伝ったクズに礼を言うもんじゃねえよ。じゃあな」


 サクリアは手を振って去っていく。

 フラムは彼の姿が見えなくなると、おもむろに神喰らいを引き抜いた。

 そしてその表面でうごめく赤い怨念を観察する。


「魂喰いだった頃から、私は相棒として扱ってきたけど……剣のほうは、どんな気持ちで私に使われてたんだろうね」


 神喰らいになったときに得た王都の死者の呪いは、オリジンへの憎しみで満ちていたはずだ。

 だが、魂喰いの時点で込められていた呪いはどうだろうか。

 アルフレッドに殺された人々の呪詛は何を望むのか。

 キロティでの儀式に使われたとの話だが、それ以前はどこで生まれたのか。

 そしてアルフレッドが手放してからの20年間はどこにいたのか。

 まだまだ、わからないことは多い。

 刃に宿る呪いの底知れなさに、恐ろしさと、それゆえの頼もしさを感じながら――彼女は剣を収め、立ち去った。


 ◇◇◇


『オカエリ、スレイ』


『オカ꣣莪、莬』


『繧ケ繝ャ繧、』


『オカ??

 リ、ス[イ』


「あぁ……私、迷子にならずにちゃんと帰ってきタよ。みンナ……タダイ縺?∪!』




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 名称:対神呪装・神喰らい

 品質:エピック


[この装備はあなたの筋力を13385減少させる]

[この装備はあなたの魔力を13445減少させる]

[この装備はあなたの体力を14851減少させる]

[この装備はあなたの敏捷を14666減少させる]

[この装備はあなたの感覚を15491減少させる]

[この装備はあなたの肉体を消滅させる]

[この装備はあらゆる呪いを内包する]


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