第3話 「ウロボロス殲滅組織"グリフォン"」
あれから、俺は廃工場内を探し回ったが、やはり何の手がかりもなかった。
そして、廃工場を後にして俺が住んでいるアパートに戻り、自室の扉を開けると…
「あっ! お兄ちゃん帰ってきた! 昨日どこいってたの?」
俺の妹、神田春香がキッチンで料理をしていた。
……待て、なんで春香がいるんだ? 春香は寮に住んでいるはず…俺の部屋にいるのはおかしい。
「全く、昨日遊びに来たらお兄ちゃん居ないんだもん。 心配したんだよー?」
「心配したとか言いながらめちゃくちゃくつろいでるじゃねーか。 ゲームしたら片付けろって言ってるだろ?」
俺の部屋のテレビゲームが電源入れっぱなしになっている。 春香が来るといつもこうだ。
それでいざ電源を切ろうとすると…
「あー待って! まだセーブしてないから!」
こう言われる。 いや…電気代かかるからやめてほしいんだけど……
キッチンからいい匂いがする。 …そういえば昨日からご飯食べてなかったな…
「春香、悪いけど俺のご飯も作ってくれるか?」
「え? 最初から2人分作ってるよ? 」
春香がフライパンを揺らしながら答える。 春香は何気に女子力が高い。
たまにスイーツ作ってくれるし、料理も上手い。
春香が皿に料理を盛り付け、テーブルに置く。
「はい、どーぞ」
「おぉ、焼きそばか。 いただきます」
一口食べると、やはり美味かった。
なぜ焼きそばがここまで美味しくなるのか不思議なくらいだ。
「あ、あとね。 冷蔵庫の中にハンバーグが入ってるから、今日の夜食べなよ」
「え? なんでハンバーグ…?」
「昨日の夜ここで作ったの! なのにお兄ちゃん帰ってこないし!」
春香が怒りながら言う。 俺の分作ってくれてたのか…悪い事をしたな……
春香は昔から俺にベッタリとくっついていて、俺が小5の時楽園に行くと決まった時は春香はずっと泣いていた。
…まぁ、まさか春香も楽園に来るとは思ってなかったけどな…よく母さん許したな…
「で? 昨日どこ行ってたの? 朝帰りなんてお兄ちゃんらしくないけど」
「あー……ちょっといろいろあってな」
「その"いろいろ"が何か聞いてるの! 」
春香が顔をずいっと近づけて来る。
「んー……あっ! 友達! 友達の家で遊んでたんだよ!」
「友達ぃ? お兄ちゃんの友達って…桜木さん? てか桜木さん以外に友達いないから確定か」
桜木とは、俺の唯一の友達の名前だ。 本名は
すまないが今は利用させてもらうぜ桜木…!
「そうそう! 桜木の家でずっとゲームしてたんだ!」
「ふーん? でも桜木さんってぶっちゃけ変態じゃん? なんのゲームか気になるんだけど…?」
…確かに、桜木は変態だ。 桜木は交友関係がめちゃくちゃ広い。 それを利用していろいろないかがわしい雑誌やグッズを集めて部屋に飾っていた。
「普通のRPGだよRPG!」
「ふーん? ならいいかな」
そう言って、春香はまた焼きそばを食べはじめた。
ふぅ…危ねぇ…感謝するぜ桜木!
俺も焼きそばを食べ始めようとしたら、ピンポーンと俺の部屋のインターホンが鳴った。
仕方なく立ち上がり、扉を開けると……
「よぉ神田! 暇だからゲーセン行こうぜっ!」
今1番家に来てはならない男No. 1の桜木健次郎が、笑顔で立っていた。
そして、俺の部屋から玄関は丸見えであり、春香にも桜木が来た事はバレてしまっている。
「さ、桜木…」
「お? どうした! …おぉ!? 春香ちゃんいるじゃん!」
春香を見つけた途端、桜木は満面の笑みで勝手に部屋に上がり込んだ。
いや…不法侵入なんだが…春香の奴も露骨に嫌な顔してるし…
「やっほー春香ちゃん! 」
「…はい」
「なになに? 兄妹でゲームでもしてた? 相変わらず仲良いよなぁ。 昨日から泊まってるの?」
「まぁ…はい」
うわぁ…春香の奴本気で嫌がってるぞ。 桜木は全然気づいてないし…
「いいなぁ神田はよ! こんな可愛い子と昨日からずーっと一緒にいられるなんてさぁ」
「あっ…」
「…ん? 昨日から…? あれ? お兄ちゃん昨日桜木さんの家居たんじゃないの?」
……うわぁ…めんどくさい事になったぞ……
くっそぉ…桜木が来なければ何事もなくやり過ごせたのに……
「お? 昨日…? いや、神田は俺の家来てないぞ?」
「…お兄ちゃん?」
春香が俺を睨んでくる。 はい、ここで俺の嘘がバレたわけだが。
どうすればいいんだろうか。 黒吸白放の事は絶対に話すわけにはいかない。
この事は秘密事項だし、なによりこいつらを巻き込むわけにはいかない。
…よし…この手は使いたくなかったが、仕方ない。
「はぁ…本当は言いたくなかったけど、言うしかないか」
「なに?」
この言い訳は俺のプライドが傷つくが、もうこの際、プライドは捨てるしかない。
「……か…彼女の…家に居たんだ」
架空の彼女をでっちあげる。
もちろん、俺に彼女なんて居ない。 17年間、出来たこともない。
だからこそ、この嘘は絶対に使いたくなかった。
この嘘をついたからには、バレるわけにはいかない。
もしバレたら、俺は"架空の彼女を作ってリア充ぶってる痛い奴"として笑われ続ける事になる事100%だからだ。
「…えっ…お兄ちゃんに…彼女…?」
「おいおい神田マジか!? 誰誰!? 相手誰だよ!」
「お…教えない…他校だしな」
「わ、わー…お兄ちゃんに彼女かー」
春香が抑揚のない喋り方で話す。 なんか怖いんだけど、桜木は質問攻めでウザいし…
ふと時計を見ると、今は午後3時だった。
…そろそろ行ってみるか。
「桜木、そろそろゲーセン行こうぜ?」
「えっ? あ、おう」
俺は残りの焼きそばを全て食べ、その食器を流し台に置く。
そしてまだぼーっとしている春香の肩を叩き
「んじゃ、俺遊びに行ってくるから、帰るとき鍵閉めろよ? 合鍵持ってるだろ?」
「…あ、うん。 行ってらっしゃい」
家に春香を残し、桜木と共にアパートを出る。
そしてゲーセンに向かって歩いていると、突然桜木のスマホが鳴った。
「あ、悪い電話だ」
「おー、出てこいよ」
桜木は一言「悪い」と言って離れて電話に出る。
桜木は電話に出る時、俺から離れる時と離れない時がある。
離れない時は笑いながら楽しそうに電話しているが、離れて電話する時は、普段は絶対に見せない真面目な表情で電話をしている。
そしてその電話が終わると必ず
「…すまん神田! 急な用事が入っちゃったからゲーセンなしで頼む!」
どこかに行ってしまう。 まぁ、今回は好都合だ。
俺もゲーセンに行って少し遊んだら適当に嘘をついて抜け出す予定だったからな。
「おー了解」
そう言うと、桜木は走って行ってしまった。
…さて、行くか。 大黒タワー。
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楽園内のバスを乗り継ぎ、大黒タワーのある第1区域に来た。
楽園は全部で7区域に別れており、俺が住んでいる区域が第3区域、この第1区域は楽園で1番大きな区域で、有名人も沢山住んでいる。
「第1区域、来るのは初めてだなぁ」
第1区域のバス停から数分歩くと、綺麗でとても大きな黒いビルが見えてきた。
大黒タワー。 楽園の有名な建物の一つ。
確か1階は図書館で、2階はカフェになっているらしい。
大黒タワーの自動ドアが開き、中に入ると、ずらりと本棚が並んでいた。
俺はそこには目もくれず、まっすぐエレベーターに乗り、3階のボタンを押す。
エレベーターはゆっくりと進んでいき、3階で止まった。
エレベーターに乗っている時に気づいたが、このエレベーター、4階と5階のボタンがない。
どうやって4階と5階に行くのだろうか。
エレベーターの扉が開くと、床壁天井が全て真っ暗な廊下に出た。
「なんだ…? 不気味だな…」
廊下を見ていると、扉は一つしかなかった。 こんなに広い廊下なのに扉が一つなのは疑問だが、とりあえずノックをする。
すると、中から「どうぞ」と言われたので中に入る。
中に入ると、真っ黒の部屋だった。 電気はついているるので明るいが、窓はカーテンで閉められている。
そして目の前にはカウンターがあり、茶髪のお姉さんが俺をじっと見ている。
そのカウンターの奥には机とソファーがあり、他にもパソコン台が何台かある。
どこかのオフィス見たいな場所だ。
「あの…俺…」
「今日の天気は?」
「え…?」
突然、目の前の茶髪のお姉さんが意味不明な事を言ってきた。
なんだ? 世間話か?
「晴れ…ですけど」
「そうですか。 このビルは3階は立ち入り禁止です。 お引き取りください」
茶髪のお姉さんは笑顔でそう言った。
え!? いきなりなんだ!?
立ち入り禁止なのは分かってる。
「あ、そうだ! アリエル! 俺アリエルの知り合いなんだ!」
そう言うと、茶髪のお姉さんは目を見開く。
そして俺の事を下から上までジッと見ると、真面目な表情で
「…こちらへどうぞ」
ソファーに安内された。 とりあえずソファーに座ると、茶髪のお姉さんは誰かに電話を始めた。
そして、話し終わったのか、電話の子機を俺に手渡してきた。
「……出ろと?」
「はい」
受話器を受け取り、「もしもし?」と言う。
『…アリエルとどんな関係だ?』
「え?」
『答えろ。 アリエルとどんな関係だ?』
電話から聞こえてきたのは男の声だ。 低くダンディーな声は、俺を歓迎してるようには聞こえない。
だがアリエルを知っているという事は仲間なのは間違いない。 全て話しても問題ないだろう。
「昨日、初めてアリエルと会いました。 彼女はウロボロス? って組織に追われてて、俺をそこから逃がすために自らウロボロスに捕まってしまいました」
そう言うと、茶髪のお姉さんがまた目を見開き、口元を押さえる。
そして電話の男は
『…そうか。 なら、なんでお前はこの場に来た? アリエルから何を聞いた?』
「
『…なに? 黒吸白放をお前が…?』
「はい。 そして、目が覚めたら大黒タワーの3階に行けと…」
『……分かった。 受話器をミカエラに渡せ』
「ミカエラ…?」
「あ、私です」
茶髪のお姉さんが反応したので、受話器を渡す。
この人ミカエラって名前なのか。
ミカエラさんは何かを話すと、電話を切る。
「失礼ですが、お名前を聞いてもよろしいでしょうか?」
「あ、神田春馬です」
「神田さんですね。 私はミカエラ・ドームルといいます。 ミカエラとお呼びください。 では神田さま、こちらへどうぞ」
ミカエラさんは何もない壁の方へ歩いて行く、俺も急いでソファーから立ち上がり、ミカエラさんの後ろに着く。
ミカエラさんは何もない壁に触れ…
「"我々が目指すは平和。 悪のない平和な世界"」
そう呟くと、何もない壁からガコン! と音が聞こえ、壁の一部が横にずれた。
そして、ずれた壁の奥には階段が続いていた。
「か、隠し扉…?」
「さ、行きましょう」
ミカエラさんが階段を登っていき、それについて行くと、1つの扉が見えてきた。
ミカエラさんはその扉の横に立ち…
「どうぞ、お入り下さい」
そう言われ、ノックをしてから扉を開き、中に入る。
中は、真っ黒の部屋で赤い絨毯が敷いてあり、ソファーにテレビ、本棚やキッチン、カウンターテーブルが1つの部屋にあった。
どうやら4階全てが1つの部屋になっているらしい。 とても広い部屋だ。
そして、この部屋には複数の人が居た。 ソファーに座っている者、本を読んでいる者、料理を作っている者、そして、俺の目の前にいるスーツを着た灰色の髪で長身の男。
その人達全員が、俺の事をじっと見ていた。
「お前が、黒吸白放を受け継いだ人間か。 名前は?」
目の前の男が言う。 電話と同じ声だ。
「か、神田春馬…です」
「そうか。 俺の名前はクロウリー。 この組織、ウロボロス殲滅組織"グリフォン"のリーダーだ」
…ウロボロス殲滅組織グリフォン……
よく見ると、壁に翼の生えたライオンが大きく描かれていた。
「我々グリフォンは、ウロボロスを壊滅させる為の組織だ。 そして、神田春馬。 ウロボロスはお前の力を狙ってくるだろう。 それは分かってるな?」
俺は黙って頷く。 それを分かってる上でこの力を貰ったんだ。
「もちろんです。 俺は、黒吸白放を完璧に使いこなして、アリエルを助け出す」
ウロボロスがどんな奴らか想像はつかない。 だが、敵なのは間違いないんだ。
俺がそう言うと、クロウリーさんはフッと笑った後、右手を差し出してくる。
「なら、神田春馬、我々の組織グリフォンに入れ。 黒吸白放の使い方…ウロボロスを倒す為の力を教えてやる」
俺は、迷わずにクロウリーさんの手を取った。
この瞬間、俺はウロボロス殲滅組織"グリフォン"の一員になった。
Dランクの無能力者 皐月 遊 @bashi
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