第2話 「能力の譲渡」
「に、逃げられないってどういう事だよ!?」
「だってさ、あたしがこの建物にいるのは向こうは分かってるんだよ? だったら外で待ち伏せされるに決まってるじゃん」
「な、ならなんでこんな所に逃げ込んだんだよ…」
確かに、この建物の周りは開けている、だから外に出たらすぐにバレるだろう。
なるほど、確かに100%逃げられない。
「……でも、君だけなら助かるかもしれないよ?」
「は…?」
「もうこの際だから話しちゃうね。 あたしを追っている奴らの組織名は、"ウロボロス"。 あたしは、そこの組織の一員だったんだけど、昨日その組織を抜け出したんだ」
ウロボロス。 確かギリシャで「尾を飲み込む蛇」っていう意味だったか。
そして、「死と再生」の象徴だったはずだ。
まぁ、そんな組織名は聞いた事がないけどな。
「奴らの狙いは…これだよ」
女の子は両手を前にだす。 すると、右手が黒く、左手が白く光り出した。
2つの光は渦巻くようにグルグルと手のひらで回っている。
「の…能力か…?」
「いや、これは能力でも魔術でもない。 この世界で唯一の、3つ目の異能だよ。
あたし達はこの異能の事を"
「ワーム…ホール…3つ目の異能…」
「奴らはあたしのこの力を狙ってる。 あたしがこの街に来たのは、この街に住んでるあたしの従姉妹にこの能力を譲渡するためだったんだけど…」
「その前に見つかってしまったと…」
「そういう事。 この能力がウロボロスに渡ったら、この世界は終わる。 この能力は、そんな力を秘めてるんだよ」
女の子は自分の両手を見ながら悲しそうに呟いた。
そしてその後、真剣な表情で俺を見る。
「君がここから生きて逃げる方法は1つしかないよ。 巻き込んじゃって申し訳ないけど…」
「なんだ? 俺は何をすればいい?」
「…君が、"
「え…?」
能力を譲渡…? 俺に?
女の子は部屋にある時計を見ると、両手を広げて俺を見つめる。
「時間がない。 選んでくれ、黒吸白放を受け取って生きるか、このまま死ぬか」
生きたいならそりゃあ受け取るべきだろう。 だが、1つ疑問がある。
「お前はどうなるんだ?」
俺がそう聞くと、女の子は一瞬苦い顔をした。
…やはり、俺の予想は正しそうだ。
「君に能力を半分譲渡した後、あたしは自分から捕まりに行く。 でも、奴らの計画にはあたしの半分の黒吸白放じゃたりない。
だから、奴らが君を見つけるまで、時間が稼げる。 その間に、なんとかしてあたしの仲間にウロボロスを倒してもらうよ。
君は何も心配しなくていいから」
「そのウロボロスに捕まったら、お前はどうなる?」
「…………」
女の子は下を向いたまま動かない。
時計の針の音が大きく聞こえるほど、お互い何も話さない。
「…さぁ、本当に時間がない。 どうする? 出来れば、あたしら君に受け取ってほしい。 そうすれば時間が稼げるからね」
つまり、これはお互いに利益があるということか。
俺は逃げる事が出来て、こいつはウロボロスの計画を遅らせる事が出来る。
……2人で逃げる事は…無理なのは分かる。 俺が能力を使えれば…!
「…分かっ…た…」
渋々そう答えると、女の子は笑顔になる。
「うん! ありがと! 君は救世主だよ。 じゃあ、早速能力を譲渡するよ」
「…あぁ」
女の子は俺の両手を握る。 すると、右手が黒く、左手が白く光りだした。
自分の中に何かが入ってくるようで変な感覚だ。
「…さぁ、譲渡の間に話でもしようか。 まずは自己紹介!」
「…神田春馬」
「ハルマだね! あたしの名前は、アリエル・ローライド!」
「やっぱり、外国人か」
「うん。 フランス人だよ! 」
フランス人か…日本語ペラッペラだが、勉強したんだろうか。
「そういえばさ、ハルマって無能力者でしょ?」
「え!? なんで分かった!?」
Dランク通知の紙は家に置いてきたし、自分でDランクって言った覚えもない。
俺が考えこんでいると、アリエルはクスクスと笑う。
「だって、自身がなさそうな目をしてるんだもん。 たまにこの街に来るんだけど、この街にいる能力者は皆自分に自信がある目をしてる。
でもたまに君みたいな目をした人がいるんだ」
「…なるほどな、そうだよ。 俺はDランク、無能力者だ」
「そっかそっか! でも君は今日から能力者だよ! ランクはDのままだけどね」
…そうだ。 俺は能力者になるんだ。 ずっと夢見てた能力者に…やっとなれるんだ。
そして、ようやく両手の光が消滅した。
「はい! 能力譲渡完了! これであたしと君は能力を半分こできたよ。 ありがとね、これでまだ時間が稼げるよ」
そう言うと、アリエルは扉の方へ歩いて行く。
俺は咄嗟にアリエルの手を掴み、歩くのを妨害する。
「…やっぱだめだ。 一緒に逃げようぜ…? 黒吸白放は凄い能力なんだろ? 2人もいるんだから強行突破すれば…」
「何を言ってるの? 君に黒吸白放が使いこなせるの? あたしでも使いこなせないんだよ? しかも、君はこの能力の使い方を知らないでしょ?」
「そ、そうだけど…で、でも…!」
「あたしは、出来ればハルマを巻き込みたくない」
「巻き込まれるんじゃない! 俺がそうしたいんだ!」
俺が粘っていると、アリエルは溜息をついた後、優しく微笑んだ。
「ありがとうハルマ。 ハルマは優しいね、じゃあ、一つお願いしてもいい?」
「…お願い…?」
「うん。 どんなに遅くなってもいいから、黒吸白放を使いこなして、ウロボロスを壊滅させて? 」
「お、俺がか!?」
ついさっきまで無能力者だった俺が、一つの組織を壊滅させるなんて出来るのか…?
「目が覚めたら、この街の大黒タワーの3階に行って。 3階に着いたら、誰でもいいから「アリエルの知り合い」って伝えて、あたしの仲間に会わせてくれるから。
きっと、力になってくれるよ」
大黒タワー。 楽園の有名な建物の一つだ。
確か5階建てで1階と2階以外は立ち入り禁止だったはずだ。
そんな所にアリエルの仲間が居たとは……
「…ん? 目が覚めらってどういう……」
「…ごめんね」
その瞬間、俺の頭に凄まじい痛みがはしり、俺は地面に膝をつく。 脳内がグラグラ揺れ、俺は気を失ってしまった。
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「……ん…?」
目が覚めると、まず目に入ったのは、灰色の壁だ。 俺の部屋の壁は白だったはず。
しかも、なんで俺は床に寝てるんだ…?
徐々に意識が覚醒していき、昨日の事を全て思い出した。
「そうだ…! アリエル!」
急いで立ち上がると、1枚の紙が地面に落ちた。
紙を拾うと、その紙には綺麗な字で
『ハルマ、気絶させちゃってごめんね。 でもああしないとハルマはついてきちゃいそうだったからさ。
…多分、これからあたしはウロボロスのアジトに連れて行かれると思う。 でも、能力が半分しかないから、あたしは殺されないはずだよ。
能力が揃ったら…用済みなあたしとハルマは殺されちゃうけどね…
だから、ハルマ。 能力を使いこなして、あたしを…助けに来て』
「……おい…嘘だろ…?」
窓を見ると、もう太陽が昇りきっていた。 もう昼だ。 つまり、もうアリエルは連れ去られた後だという事になる。
俺は、アリエルから貰った手紙をポケットに入れ、部屋の外に出る。
「…大黒タワーの…3階。 アリエルの仲間がいるんだよな…」
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