1通目 ③

「何をしているんだ、早く行くぞ。」

 奥へ入って少しして、そう言いながらヒューモスは出てきた。

「え、どこに行くんですか?」

「この手紙を届けにに決まっているだろう。」

 例のラブレターを片手に当たり前のように口にした。

「いや、初耳なんですが…。」

「なんでもいいから、早くくぞ。」

 そう言ってドアノブを捻ると先程まであったはずの不思議な世界はどこにも無かった。むしろまるで、

「古い写真の中みたい…。」

 そう、愛莉の元いた日本の昭和くらいの光景そっくりなのだ。

「おや、知ってるのかい?なら、案内してもらおう。」

 無責任にヒューモスは言い放った。

「いや、あの、似てるってだけで本当にそことは…。」

 そう言いながら愛莉は近くにあった売店のような所の新聞を見てみた。するとそこには見慣れた文字で『1986年10月23日』と書かれていた。

「えぇ!?なら本当にここ日本!?でもなんで…?」

「早くこの持ち主のところに案内したまえ。」

 退屈そうにヒューモスが言ってきた。

「だから!私知らないんですよここ!」

「なんと、そうだったのか。なら早くいいたまえよ。」

「あなたが言わせなかったんでしょ…。」

 呆れる私をよそにヒューモスは何かを取り出した。

「それなら、この子に聞くしかなさそうだな。」

 それはあのラブレターだった。

「え?聞くって?」

「元々、この世界まで導いたのはこの子だしね。」

 そういうと、おもむろに片手でその手紙を握りつぶした。

「えぇ!?何してるんですか!?大事な手紙ですよね!?」

「さぁ、君がそばにいたい人の元へ行きたまえ。」

 ヒューモスが手を開くとそこから一羽の鳥が空へと羽ばたいていった。

「え!?この鳥どこから?」

「どうやら、少し遠めのようだ。歩くぞ。」

 愛莉の質問に答えることなくヒューモスは鳥にのあとを追っていった。愛莉はそんなヒューモスについて行くしかできなかった。

 気づいたらその鳥は二人を古い民家まで導いていき、郵便受けの中へ入っていった。

「ふむ、ここか。」

 するとヒューモスはおもむろにその家の引き戸を叩き始めた。

「おい、誰かいないか?」

「ちょ、ヒューモスさん!」

 愛莉が止めるのも聞かず、叩いていると中から六十代くらいのおばあさんが出てきた。

「どなたですか?」

「どうも、郵便屋でございます。手紙を届けにまいりました。」

 そう言われて、愛莉は手紙のことを思い出した。そう、郵便屋を出る前に封を開けてしまっていたのだ。そっと郵便受けの中を見てみると、その便箋には開けられた形跡が無くなっていた。

「あれ?なんで…?」

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