1通目 ②
ひとまず落ち着いて、状況を整理することにした。
「えぇと、気がつくと私はこの不思議の国に来ちゃって、ここはその中の郵便屋さんであると。」
「そういうことだね。」
「それで、あなたはその郵便屋をやっているヒューモスさん。」
「そうみたいだね。」
絵本の中のような設定だが、どうやら現実で起きているらしい。愛莉はひとまずこの状況を受け止めることにした。
「それで、私はこれからどうすればいいんでしょう…。」
「そんなこと、私に聞かれても困る。しかし、ちょうど人手が足りなかったところだ。私の元で働かんかね?もちろん、衣食住付きだ。」
行くところがない今、この話に乗った方が良さそうだ。
「本当ですか?もし良ければお願いしてもよろしいですか?」
「あぁもちろん、アリスなら大歓迎さ。」
「アリスじゃないですけど…。よろしくお願いします。でも、ここで働くって何をすればいいんですか?」
「それは、きっとそのうちわかるよ。」
そういうと、扉の方で何かが落ちる音がした。
「おや、噂をすればかな。」
ヒューモスは立ち上がり、扉の外に出ていくと、そこには一通の手紙があった。その手紙はまさに女の子が選んだと思われる可愛らしい便箋に入っていた。
「誰からの手紙なんですか?」
「さぁねぇ。」
「あ、それがもしかして郵便屋さんの運ぶ手紙ですか?」
「さぁねぇ。」
「どこに届ければいいんですか?」
「さぁねぇ。」
気のない返事ばかり返ってくる。するとヒューモスはおもむろにその便箋の端を破き、中の手紙を取り出した。
「えぇ!?いいんですか!?」
「何事も中を見なければ始まらないだろう。」
そう言いながら楽しそうに手紙の内容を読み始めた。
「なになに?この手紙を読んでいるということは、私はあなたに対して何も言えなかったということでしょう。」
本当は文章ではなく、ちゃんと言葉で伝えるのがいいんでしょう。ただ、私がそういうのを面と向かって言い出せないことは、あなたが一番分かっているのではないでしょうか。なので、その時のために、私はこの手紙を書いています。私にとってのあなたはずっと隣にいたくなるような、そんな人でした。私のことをどこか気にかけて、それでもはぐらかして。そんなあなただから、私はこんな感情を抱いたのです。だから、あなたが私の前から居なくなるその前に、あなたに最後に言いたいのです。私はあなたがずっと好きでした。
「ふむ、なるほど。」
「って、これどう見てもラブレターじゃないですか!ますますなんで開けたんですか!!」
「そういわれても、これが私の仕事だからねぇ。」
「早くちゃんとこの人の家に届けないと。」
「まてまて、君は勘違いしている。私達は家に届けるんじゃない。この手紙を手にするべき人に届けるんだよ。」
そういうとヒューモスは店の奥に戻っていった。
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