1通目 ①

「こ…ここどこ…?」

 変わった形の木。見たこともない動物達。目が覚めるとそこには見たこともない世界が広がっていた。

「だ、誰か、いませんかー…?」

 呼びかけても誰も返事はしない。人の気配のしない森の中なのだから当然だ。仕方がないので奥へ進んでみることにした。

しばらくすると、森の奥に一軒の家を見つけた。こんな森の奥に家?というか、家と言うには少し違和感がある。その違和感を探ってみると、原因はすぐに分かった。家の前にあるポストだ。郵便受けではなくポストなのだ。

「しかもこのポスト、水色…?」

 愛莉がよく見るあの赤いポストでは無かった。この世界は違和感だらけだ。

 ただ、人がいるかもしれないと藁にもすがる思いでその扉をノックしてみた。

「あの〜どなたかいらっしゃいますか〜?」

 鍵がかかっていないので恐る恐る中を覗いてみると奥に男性が椅子に腰掛けているのが見えた。後ろ姿で家の中が暗いためどんな人物かいまいち分からない。

「おや、お客さんかな?」

 ゆったりと立ち上がってこちらを向いたその男性の服装に愛莉は驚きを隠せなかった。なんせ、赤のジャケットに紫のシャツ、水色のパンツに緑のハット帽なのだ。この服装で驚くなという方が無茶な話だろう。唖然とした愛莉をよそに男は話し続けた。

「お客さん?一体届ける手紙はどこにあるんだい?」

「え、て、手紙?」

「ん?手紙を届けたいわけでは無いのかい?ということはむしろ君がその手紙なのかな?」

「ま、まって!話が全く掴めないんですけど。ここはどこであなたは誰なんですか?」

「おいおい、一度に色々聞くな。第一、人に名前を尋ねる時はまず自分からと習わなかったのかい?

 私の名前はヒューモスと申します。以後、お見知り置きを。」

 流れるように名前を言い、紳士のように帽子を脱いで挨拶をするヒューモスのペースにかき乱されていた。

「あ、え?あ!私は川原愛莉かわかみあいりって言います。」

「え!?だって!?それなら話は違う。君、当分ここにいたまえ。」

 聞き間違いにも程がある。というか、

「当分ここにって、私家に帰りたいんですけど…?」

「そう簡単にここを離れられるわけがないだろう?この『不思議の国』は君のための場所なんだから!」

「不思議の国??」

「それはそうと、なぜこんな『郵便屋ゆうびんや』なんぞへ?」

「ゆ、『郵便屋』?」

「そうか、そんなことも話していなかったか。ここは『誰か』からか送られる『手紙』を、必要としている『誰か』へ送ったり送らなかったりする。そんな場所だよ。そして君は、『』なんだろうね。」

全く話についていけない…。


こうしてもう一つの不思議の国の物語が幕を開けたのでした―。

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