殺し方を知らない僕ら

壱闇 噤

鮮血の月の下で出遭う

「殺す事に意義があり理由がある──なんて言い訳は通用しないかな? なぁ青年?」


『“殺し方”に答えなどありはしない』。と、眼の前の殺人鬼かれ滔々とうとうと語る。とても今しがた眼の前で殺人を犯したとは思えないほどの饒舌っぷり。瞳は獲物を捉えた獣の如く爛々と目撃者こちらを見据えている。……その手にを携えて。


「んん? 如何どうして反応してくれないんだ──……? ……嗚呼あぁ! ボクとした事がを忘れていたなんて! ゴメンよ青年。ボクの名は『木菟ミミズク』。何の変哲も無い、ただの殺人鬼さ」

「……ひ…………」

「ひ?」

「人、人殺しッ!」


あ、声出た。てっきり出ないかと思った、恐怖で。出た代わりにカラカラで喉がヒリヒリ痛いけど。

木菟ミミズク』と名乗った眼の前の彼は此方が言った言葉に一瞬きょとんとして、そして次の瞬間腹が裂けるかと思うくらい大爆笑した。

酷く可笑おかしそうに彼は笑いながら言う。


殺人鬼ボクを前にして何を言うのかと思ったら……たかがそんな事かい?」

「ッ……」


確かに言われてみればそうだ。殺人鬼は人を殺すから殺人鬼な訳で。そんな奴に『人殺し』と言っても文字通り痛くも痒くも無いだろう。

彼は血に濡れた刃物をくるくると手の内で弄びながら、電話を誰かに掛ける。


「んー……んんー? あ、出た出た。もしもーし生きてるー? あ、生きてんのね、良かった良かった〜」

「……」


電話で暫く話したあと、彼は此方に視線を向けつつ電話の相手にこう言った。


「…ところでさ。『目撃者シロ』の始末って殺す以外に何かあったっけ? 出来れば〜……連れて帰りたいんだけど。…あっはっはっそんなに怒んなくても迷惑掛けないって! 心配性だなぁ?」

『……ッ! ……? …………ッ!!』

「怖い怖いw 大丈夫だって、には迷惑掛からないし! 掛けないし! 良いでしょオ?」


殺人鬼かれは可笑しそうにケラケラ笑いながら電話の相手に何かを言い募る。

やがて電話口で面倒臭そうに重い溜息をつく声が聞こえた。

どうやら相手が先に折れたらしい。


「わー赦してくれるんだね、『フクロウ』! 君にしては珍しいー!」

『うるせぇ、無駄話してんじゃねぇぞ、こん糞が!』


此方にも聞こえるほどの大音量で罵声が聞こえる。

どうも『フクロウ』と呼ばれた人は口が悪い上に短気らしい。不良かよ、と思わないでもない。

殺人鬼ミミズクが此方を振り返り笑う。まるで闇に引き摺り込むような不思議な引力を兼ね備えた笑顔で。









「じゃ、行こっか? ──『目撃者シロ』くん」










……一般人の俺には分からない理屈で俺は殺人鬼に連れ去られるようです。

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殺し方を知らない僕ら 壱闇 噤 @Mikuni_Arisuin

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