第二幕

「戻りましたー。」

「だーかーらー!この春野の動き小さすぎるんだって!お客さんに伝える気ある!?」

「ですから!春野は基本大人しいキャラなんです!先輩こそ春野ってキャラクターをお客さんに伝える気あります!?」

 まだやってるのか、この二人は。

 私が出てった時とほとんどトーンも勢いも変わってないじゃん。


「それにここで話してるの春野じゃなくて夏木じゃないですか!演技食いますよ!?」

「はぁ!?やってみろ!」

「ふ、二人とも落ち着こう…?」

「「花ちゃんは黙ってて」」

「うぅ…。」

 どうやら何度も花ちゃんが止めようとしているようだが失敗しているようだ。まぁ、彼の性格上それは難しいところがあるだろう。

 花ちゃんが私が帰ったことに気づいて、こちらを見ている。

 やめてくれ花ちゃん、そんな救世主を見るような目で私を見ないでくれ。

 それでも、実際この場を収められるのはこの四人の中で私だけだろう。と、いうことは…。やっぱり私がやらなきゃか…。


 私は一つため息をついて、口を開いた。

「ねぇ立夏?」

「何!今大事な話してるの!」

「一旦、落ち着こう?」

「え、あ、は、はい。」

 私の声にでも圧倒されたのか、立夏は一瞬で小さくなってしまった。

「それと、金山先輩。」

「え?はい。」

「堀部先輩からの伝言です。」

 ―ぱしっ―

 私は申し訳なさを少し残して金山先輩の頭を軽く叩き、堀部先輩の口調を真似て言った。

「『さっさと頭を冷やして。』だ、そうです。」

「わ、わかりました…。」

 するとこちらも、立夏同様小さくなってしまった。

 どうやらなんとかなったようだ。


「もうすぐ堀部先輩も戻ってくるそうなので、その後でどうするか考えましょう?この劇の演出は堀部先輩なんですから。」

「そ、それもそうね。」

 やれやれと思っていると、一部始終を隅で見ていた花ちゃんがそっと近づいてきた。



「小野さんごめんね、なんかもう止められなくて…。」

「いや、私こそ花村はなむらくん置いて出ちゃってごめんね。」

「ううん。僕、なにも出来ないから…。」

「そんな自分を責めないで?ね?」

 ほんとなんなのこの子。ほんとに男子?と言いたくなるくらいしょんぼりした姿がとても可愛い。背が小さく、髪もふわっとしていて、スカートでも履かせたら完全に女子じゃん。てか女子やめたいわ。

『花ちゃん』と呼びたいが本人はあまり嬉しそうじゃないため、なるべく呼ばないように気をつけている。ついでそうになる時はあるけど。


「そーよ。あんたは音響なんだから、そんなに気にかけなくていいの。後で一緒に音考えよ。」

「金山先輩…!」

 この人、普通にしていればいい先輩で、姐御肌なんだけど、どうして立夏といる時だけあんなにつっぱるんだろう。いわゆる同類嫌悪というやつだろうか。立夏は中学から変わらないが。



「ただいま。」

「あ、お帰りなさい!」

 そんなことを考えていると堀部先輩女神が帰ってきた。


「で、大丈夫だった?」

「はい、なんとか。」

「ちょっと美咲!聞いてよ!!」

「分かったから、落ち着いて話して。」

 ほんとにこの人は冷静で優しい。この人が来てから、二人も落ち着いて話してくれた。




「じゃあ、これで二人とも納得?」

「まぁ、これなら…。」

「そうね、及第点ってとこかな。」

「じゃ、これでこのことはおしまい。この時間取り戻すためにも…6時15分までできりのいいとこまでやるよ。終わりは私が言うから。」

「「「はい!」」」

 これからの今日の予定を端的に話し、私達キャストは大きな声で返事をした。


「それじゃあ、通し練習始め!」

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