第2話 イクってなあに?

「ねぇ。ハクタク先生。イクってなあに?」

「はぁ?まだ真昼間じゃぞ?何を――――ははぁ、さてはまた照になんぞ吹き込まれたな?」


今日もハクタク先生は子供がダークサイドに墜ちない様に頑張っていた。


(それにしてもまた――――ド直球で来たのう。やれやれじゃわい)

社務所のストーブに当たりながら、ハクタク先生は頭を抱えていた。

(さて、どう答えたものかの)


イクとは賢者モードに達することであり、もう少し詳しく言えば法悦に至るなどとも言われる現象でもあり、科学的に言えば、脳内ではドーパミンとエンドルフィンが出ている状態でもある。

しかし――――

(6歳児に分かる様に説明と言うのものう…)

ボヤかして説明するのも難しい行為なのだ。

(ならば、浩介にどのような状況で言われた言葉なのかを確かめねばならんの)

「浩介や。イクとはいろいろ意味がある言葉でな。それを説明する前にじゃ。どんな状況で、誰から言われたのか教えてくれんか?」

ハクタク先生は事情聴取を軽く行ってみることにした――――犯人は分かってはいたが。

「んとね。昨日、お風呂の中でおねぇちゃんから言われた」

(やはりか)

「ではその時、お前の姉は変な行動をとらなんだか?」

「んんと、そうだなぁ、ぺったんこなお胸で背中を洗ってくれたよ」

「……」

一瞬ハクタク先生は言葉を失った

(あのバカ姉め!すでにことに及んでおるではないか!背中を自分の胸で洗うなど、ピンク一色ではないか!)

しかし―――状況は飲み込めた。なぜ「イク」などと言う言葉を発したのかも。

(おそらく、あのバカ姉は弟の背中を流してやりながら、勝手に自分で軽く達したのじゃろう。――――お姉ちゃんイッチャッタ。などと言っていたのだろうよ)

浩介はその言葉を聞いて不思議に思い、ハクタク先生に聞いてきた訳だ。

「ハクタク先生?」

浩介はストーブの前で固まったままのハクタク先生を覗き込んだ。

「おお―――すまんの」

ハクタク先生は覗き込まれた視線に気づいて椅子に座りなおす――――と講釈を垂れ始めた。



「まずだ。すぐに今日から一人で風呂に入る努力をしなさい。良いな?」

「なんで?」

「お前が姉に食われるのを防ぐためじゃよ」

「おねぇちゃんに?」

「そうだ。あとは男女7歳にして席を同じくせず。という言葉もあっての。節度をもった行動をせねばいけない。男の子はいつまでも、姉とお風呂に入るなどすぐにやめよ。立派な男子になる為にもな」

プライドをくすぐってやる。

お前が大きくなるために理があるんだよと、ハクタク先生は誘導を開始した。

昔、皇帝にも行ったことがある手だ。男は皆この手に弱いことも知っている。殷を影から操った妲己から、バーのママまで。女は男の心を操るすべを知っている。

―――――怖いのう。

ともあれ、浩介はハクタク先生の言葉に従い、その日の夜から姉とお風呂に入らないことに決めて神社を後にした。


「――――おねぇちゃん。僕今日は一人でお風呂入る」

「へ?」

「もうお姉ちゃんと入らないから」

「――――ダメェ!」

がっし。

膝立ちになった照は、部屋を出ていこうとした浩介の足にしがみついた。

アマチュアレスリングで使われている高速タックル。そしてそのまま、床に浩介を背面から押し倒した。

ゴン。

床に倒れて、上から姉に押しつぶされ、ふにゅん――――と姉のバストが浩介の背中に押し付けられた。

「痛いよ。姉ちゃん。離してよ!」

「浩君はおねぇちゃんとお風呂入らないとダメなんだからぁ!」

それから10分ほど――――浩介が一緒にお風呂に入ることを承諾するまで照は抱き着いたままであった。












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