第10話

「あら、遠月さんおはよう。そういえばよく保健室ここに通ってるみたいね。でもこれからは、その前に一度頂けないかしら。私もあなたの力になりたいの。」

その言葉はまるで、「もうここに来るな。」と言われてる気がした。

「いや、私、」

「無理はしなくていいんですよ?」

もうその声を聞きたくなくて、何も言わずその場を離れるしかなかった。


「あら、行ってしまいましたね。」

「萩中先生。先ほどの件ですが。」

「何かありましたか?」


先生があの人と、どこに行くのかは知らない。それでも、どこかに二人で行くことは間違いなさそうだ。そんな先生は見たくなかった。私が子供だから相手してもらえないのは知っている。それでも、他の人と、ましてやあの人を選んでほしくなかった。私は切なくて、寂しくて、涙が溢れてきた。体育館の裏まできた時、誰にも見られないからその場にしゃがんで泣いてしまった。

「先生…私のこと…気づいてよ…。」

「何に気づけばいいんだよ。」

思わず漏らした言葉に頭の上から声がした。見ると先生が息を切らして立っていた。

「いきなり走っていくから焦ったよ。何かあったか?」

「だ、だって…。あの人と仲良くしてるんだもん…。私があの人嫌いなの、分かってるでしょ…。だから、その…。」

なんとか平静を装って、を間違って言わないように気をつけた。

「あぁ、なんだその事か。」

「なんの…話してたの?」

「ずっと食事に誘われててな。前に一回行ったからまた行こうって言われてたんだよ。」

「そうなんだ…。」

聞かなきゃよかった。なんで聞いたのか私もわからない。

「でもおかげで助かった。」

「え…?」


「先ほどの話ですが、申し訳ありません。お断りさせていただきます。」

「あら、何かありましたか?フランス料理が苦手なら早く言ってくださればもっと他のお店を探しましたのに。」

「いえ、それは結構です。というかもう、お誘い頂かなくて結構です。」

「え…?それはどういう…?」

「そのままの意味です。俺の生徒に『来なくていい』なんて言う人とは一緒にお食事は行けません。」


「って、言ってきた。ちょうど断わりたかったし、前行ったのもこれで諦めてくれるって言ってたからだし。まぁ、一切諦めてくれなかったけど。」

その言葉を聞いて、何故か嬉しくて、私はまた泣き出してしまった。自分だけのものにならないと分かっていて、私はまだ先生の隣にいられる気がして、嬉しかった。

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