第9話

「ちゃんと3年のところにあったかー?」

「あったよ!?私そこまでじゃないよ!?」

「クラスどこー?」

「E組!」

「なら、またみんな一緒だな。」

「ほんと!?」

春になり、新しいクラスが発表した。私たち3人は同じクラスになったようだ。

「でもほら、担任…。」

リラに言われて担任のところを見てみると

「え、萩中…。」

萩中温見はぎなかぬくみ先生。去年からこの先生の古典を受けているが、私はあまりこの先生が好きではない。20代後半くらいの若い先生ではあるが、私達生徒のことを下に見ているような人だった。もちろん他の人はそんな事言わないのだが。いや、むしろ生徒人気はある方だ。

その人が担任というだけで、私のこの1年間に不穏な影がかかっていくような気がした。


「どうも。改めまして、このクラスの担任になりました、萩中です。去年から知っている人もいるかもしれませんが、このクラスの担当は古典になります。それでは、自己紹介はこれくらいでこれからの予定に移ります。」

淡々と笑顔で話していく先生の声が私の中で冷たく響いていく。本当に嫌いだ。

今すぐ耳を塞ぎたいが、流石にいきなりそれはマズイので、せめて顔を見ないようにした。外を見たりして時間を潰していた。いつも先生の車が見えた角度に視線を向けても、もうそこにいつもの先生の駐車場は見えなかった。ここからじゃ見えないのかと思い、少し落ち込んだ。先生に次に会えるのは1週間後。新年度の1週間は行けないとのことだったから、来週の火曜日にやっと来るらしい。それまで私は何をモチベに学校に来ればいいのか。そんなことを思っていたら終わりのチャイムが鳴った。


やっと火曜日…。いつもより少し遅れて先生が来る前には来れなかったが、それでもまだ、朝のSHRが始まるまで時間はしっかりあった。学校に着いて、カバンだけ教室に置いて何を話そうか考えながら、保健室に向かった。一週間も経てばクラスへの廊下の道はもう慣れてきた。


保健室の扉の前に立った時、少し開いた扉の隙間から聞こえた声に私は固まった。

「島田先生?スケジュールの方は合いそうですか?」

「またその話ですか。まだ見合わせてる途中ですよ。」

「新学期も始まって、私の方も時間を見つけるのが難しくなっているんです…。」

「そうですか…。」


その声は、私の大好きな声と、私の大嫌いな声の会話だった。仲良さげに話すその声に、嫌な予感を感じながら、私はつい扉を開けてしまった。そこには、萩中が先生に今にも抱きつきそうな距離で立っていた。その時、私の世界の音が一度に遠くなる気がした。

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