第3話

「何かあったかなぁ…」

今日は先生の来る木曜日。その日の朝に先生に話すことをしっかり反復しておくのもいつものことだ。

「えーっと、リラのお弁当が可愛かったこと…は、いつものことか。なら、その後のひゆの反応?いや、それだと私が先生のこと話してたのバレるか。ん〜じゃあ〜…。」

悩みながら歩いて、結局まとまらずもう校門に着いてしまった。時間はまだ7:00。こんな早くに来るのも火曜日と木曜日くらいのものだ。

「よし、先生来るまでまだ時間ある。」

他に何があったかゆっくり思い出しつつ、先生の顔が浮かんでは赤面して、先生の出勤時間までの30分間を過ごした。

私は教室の中で私の席が一番好きだ。前から3列目で少し前の方ではあるけどこの席が一番先生が車を停めるところが見やすい。あれやこれや考えながら、窓の外をぼんやり眺めていると先生の車がやってくるのが見えた。時計に目をやるとこの席についてから軽く20分は経っていた。

「あ、やば、そろそろ行かなきゃ。」

自分以外誰もいない教室でそう呟きながら、でも少しゆっくりした歩調で、私は自分の席を後にした。

先生の元へ向かう途中にある1年生の教室の前で私の足は急激に重くなった。1年A組。それは私が以前いた教室。今はもう私が行くことの無くなった教室。いや、行くことが出来なくなった教室。この部屋で、私は自分がなんなのか分からなくなってしまった。

「なんで、あんなこと言っちゃったんだろう。」

誰にいうでもなく発されたその言葉は、誰かほかの人が自分に対して放ったようで、私は目を伏せていた。


私はずっと嘘をついていた。


クラスメイトや先生、家族にも『明るい私』を見せて嘘をついていた。ふと我に返ると明るさなんてこれっぽっちもないのに、明るくないとみんなが心配するから、笑顔で大丈夫だよって嘘をつき続けた。心の中はずっと空っぽだった。

今でも、その事は考えないようにしている。

私にとって嘘はずっと私を守ってきてくれたものだから、もう捨てることは出来ない。でも、それをあの人が認めさせてくれた。だから私は今でも嘘をついていられる。

立ち尽くしていた数分間、私の足にあった黒い何かはもう消え去っていた。今では、先生に会える高揚感で軽やかになっている。


「せーんせっ!おっはよっ!」


今日も私は、満面の笑みで嘘をつく。

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